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The End of The World 〜休日〜  作者: コロタン
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第10話 守りたいもの(後編) ~酒井 寛二~

 私達は車内での会話を楽しみながら車を走らせ、程なくして井沢家に着いた。

 楽しい時間を過ごすことが出来たため、約2時間半という道のりもさほど苦にはならなかった。


 「あら、なかなか立派なお宅ですね・・・綺麗なお庭もありますし、これならお子さん達も遊ぶことが出来そうね!」

 

 妻は車から降りると、門の外から井沢家の庭を感心したように見ている。

 庭にある木や花壇などは手入れが行き届いている。

 井沢はまめな上に体を動かしている方が好きな男だ・・・恐らく、休暇で暇な時は庭の手入れでもしているのだろう。


 「あれ、まだ入ってなかったんですね」


 車庫に車を停めに行っていた櫻木が戻り、私たちを見て首を傾げた。


 「いやぁ、妻が誠治君の家の庭を見ていてね・・・」


 「あぁ、なんか井沢さん自慢の庭みたいですよ?あの人休みの日は基本的に出かけないらしくて、最近は庭いじりが楽しくてしょうがないとか言ってましたからね。

 今度盆栽に手を出してみようかとか言って真剣に悩んでましたよ」


 まぁ、言ってしまうと悪いのだが、年齢の割に枯れた趣味だと思ってしまった・・・。


 「ほんと、あの人って訳がわからないわね・・・」


 「そう言うなって玉置・・・手当やらで結構な給料貰ってるのに、子供の将来のためにって言って殆ど小遣いも貰ってないんだぞあの人・・・そりゃあ金のかからない趣味にも走るだろ?

 それより早く入りましょう!俺達は荷物置いたらすぐに行かないといけませんからね!」


 櫻木は我先にと玄関に向かう。

 井沢は本当に家族思いの良い父親だ・・・我々はそんな彼に頼り切っている。

 私は、小さめの旅行鞄の中に忍ばせた書類を、鞄の上から触れる・・・。

 これから井沢にこの書類を渡さなければならないと思うと、逃げ出したい気持ちになってしまう。


 「あなた、どうかされました?」


 門から動かない私を心配した妻が、戻ってきて私の顔を覗き込む。


 「いや、なんでもないよ・・・櫻木君達を待たせても悪いし行こうか」


 私は慌てて作り笑いをし、妻の手を取って玄関に向かった。

 もしかすると、妻には感付かれてしまったかもしれない・・・妻は私の事をよく理解しているから。


 「井沢さーん、俺でーす!」


 櫻木がインターホンを押して外から井沢を呼ぶ。

 もう少しましな訪問の仕方は無いのだろうか・・・。

 私達が少しだけ待っていると音もなく扉が少しだけ開き、この家の家長である井沢が顔の右半分のみが見えるようにして現れた。

 眼帯のせいで全く外が見えていないのではないだろうか?


 「NHKの集金ならお断りです・・・家にはTVを買う金もなくて・・・」 


 「あるのは分かってるんですよ!この前、ヒューマンガス様の演説が聞こえてたんですからね!」


 「無いって言ってるでしょう!?あまりしつこいと玉置さん呼ぶわよ!!」


 これはいつまで続くのだろうか・・・毎回こんな感じならご近所の迷惑になりそうなものだが。


 「井沢さん、私とこのバカはこの後話し合いがあるので荷物を置かせていただけませんか?

 それに、今日は酒井二佐の奥様も一緒ですから早く中に入れてもらえませんか?」


 井沢と櫻木の茶番を呆れて見ていた玉置が二人を止める。

 妻はおかしそうに笑っている。

 

 「おっとそうだった!なんかすいません、櫻木さんとはこれをやるのが我が家の掟なもんでして・・・。

 お初にお目にかかります、私は井沢 誠治と申します。

 酒井二佐には命を救っていただいて以来いつもお世話になっております。

 狭い所ではありますが、どうぞゆっくりされて行ってください」


 井沢は扉を開けて妻に丁寧に挨拶をする。

 普段おちゃらけているが、こう言ったところは本当に真面目な男だ。


 「あら、これはご丁寧に・・・寛治の妻の小夜子と申します。

 今日は急にお邪魔することになったのに、快く招いていただけて感謝の言葉もございません。

 井沢さんのお話は、主人から常日頃耳にしておりました・・・今日はお会いできてとても嬉しく思っておりますわ!」

 

 妻は満面の笑顔で井沢と挨拶を交わす。

 妻も彼が気に入ったようだ。


 「立ち話もなんですから、どうぞ中に入ってください!

 美樹と千枝も酒井さんと奥さんに会うのを楽しみにしてましたから、是非会ってやってください」


 井沢は私たちを笑顔で招き入れてくれる。


 「井沢さん、俺の事は?俺の事は待ってなかったんですか?」


 「玉置さんの事は待ってたよ。櫻木さんは、来るって事を千枝に伝えたら『またー?』って言ってたよ」


 「マジすか・・・くそう千枝ちゃんめ・・・」


 「あんたは遊びに来すぎなのよ・・・」


 3人の話を聞いて笑ってしまいそうになったが、何とか持ちこたえた。

 

 「あの、井沢さん・・・お仏壇にお線香をあげさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 リビングに向かって廊下を歩いていると、途中で妻が立ち止まって井沢に聞いた。


 「あぁ、良いですよ・・・彼らもきっと喜びます」


 そう言って井沢は私たちを仏間へと案内した。


 「この方たちもあなたにとって、仲間であり家族なのですね・・・皆さんまだお若いのに・・・」 


 「彼らは皆、私にとってかけがえのない仲間であり、家族でした・・・彼らの死によって、私も、他の家族達も多くの物を失ってしまったと思います。

 ですが、彼らは自分の命と引き換えに、家族の大切さを教えてくれました・・・」


 「お会いできなくなってしまったのが残念です・・・」


 「えぇ、私も会っていただきたかった・・」


 妻と井沢は、仏壇に飾られている遺影を眺めながら静かに会話をしている。

 邪魔をしてはいけない・・・そう思えるような雰囲気だ。

 妻の目には涙が浮かんでいる。

 私たちはそれぞれ仏壇に線香をあげ、手を合わせた。


 「さて、千枝が待ちくたびれてると思うので行きましょうか?

 あ、櫻木さんはもう行っていいよ?」

 

 「いえいえ、お茶を飲む時間くらいはありますよ・・・まずは千枝ちゃんに仕返しをしてやらないと気が済みませんからね!」


 「ほう・・・俺の可愛い娘に仕返しですか・・・良い覚悟だ櫻木さん、ちょっと表に出ようか?」


 櫻木の言葉を聞いた井沢は、笑顔で櫻木を振り返ると、左手の親指で庭を指さした。


 「すみません・・・俺が悪かったです・・・」


 櫻木は井沢の剣幕に押されてすぐに謝った。

 

 「ふふふ・・・可愛い娘のためなら俺は何でもするよ?」


 井沢は怪しい笑みを浮かべながらリビングの扉を開けた。


 「いらっしゃいませ、皆さんお待ちしてました!お茶を淹れましたので、ゆっくりされてくださいね!」


 リビングに入るなり、笑顔で迎えてくれたのは井沢の妻である美樹だった。

 リビングには紅茶のいい香りが漂っている。


 「やぁ美樹さん、今日は急にお邪魔してすまないね・・・妻ともどもよろしくお願いするよ」


 「寛二の妻の小夜子です、今日はお招きいただいて嬉しいですわ!」


 「井沢 美樹と申します、ご主人には夫がいつもお世話になっております!

 私も奥様にお会いできてとても嬉しいです!」


 私と妻が頭を下げると、美樹が笑顔で返してくれた。

 とても眩しい笑顔だ。


 「あれ、千枝は?」


 「今は台所ですよ・・・珍しくお手伝いしてくれてます」


 井沢が娘の姿を探すと、美樹が苦笑しながら答えた。


 「あ、酒井さん、玉置さんいらっしゃいませー!今日は来てくれてありがとう!」


 私たちがリビングに入ったことに気づいたのか、千枝が急いでやって来た。

 千枝は妻を見てモジモジとしている。

 おそらく、なんと呼べば良いのかわからないのだろう。


 「こんにちは千枝ちゃん、今日も元気いっぱいだね!

 紹介するよ、私の妻の小夜子だ・・・妻は君に会いたがっていてね、折角だから一緒にお邪魔したんだ」


 「こんにちは、あなたが千枝ちゃんね!話で聞いていた通りとっても可愛いわ!!

 私の事は小夜子おばちゃんって呼んでね!」


 妻は腰をかがめて千枝の目線に合わせ、自己紹介をする。

 妻の目はキラキラと輝いている。


 「はじめまして、井沢 千枝です!小夜子おばちゃん、今日は会えて嬉しいです!」

 

 千枝が笑顔で挨拶すると、妻は千枝を抱き寄せた。

 

 「あぁもう、本当に可愛いわ!あなた、連れてきてくださってありがとう!」


 「ははは、喜んでもらえて良かったよ・・・でも、急に抱きしめるのはよしなさい、千枝ちゃんが驚いてるだろう?」


 「あら・・・ごめんなさいね千枝ちゃん、ビックリしたわよね?」

 

 妻は私に注意されて慌てて千枝に謝った。


 「大丈夫です!えっと、嬉しかったです・・・」


 千枝は顔を赤らめてモジモジとしている。

 妻はそれを見てまたテンションが上がっていた・・・千枝一人でこの状態ならば、夏菜枝と悠枝という双子の赤ちゃんを見たらどうなってしまうのか予想も出来ない。


 「千枝ちゃんお久しぶり、元気にしてた?」


 「うん!玉置さんも元気だった?」


 「そりゃあもう!私が元気がないなんてそうそう無いわよ?」


 玉置も千枝と会えてご満悦の様だ。

 だが、櫻木はしょんぼりとしている・・・。


 「千枝ちゃん、俺は?」


 「えーっ・・・だって櫻木さんこの前も来たじゃん!久しぶりじゃないもん!」


 「くそっ!この父にしてこの子在りか・・・俺に対する扱いが似すぎだろ!?」


 櫻木は悔し涙を流している。

 私たちはしばらく会話を楽しみ、30分ほどしてから櫻木と玉置は出かけた。

 明日の運動会中の周辺地域の警備の分担などの話し合いをするためだ。

 彼らが帰って来たのは夕方だったが、その時には井沢の仲間である瀧本家と伊達家の面々も集まり、賑やかな夕食となった。

 妻は瀧本家に引き取られた貴宏と、伊達家の慶太、さらに井沢家の子供達に囲まれてご満悦だった。

 妻の楽しそうな笑顔を見れて、連れてきて本当に良かったと思いながらその日は就寝した。





 翌日、騒がしい声につられて目が覚めてしまった。

 隣をみると、そこに妻の姿は無かった。

 時計を確認するとまだ朝の4時半、私が妻と借りていた部屋を出て廊下に出ると、櫻木も目覚めたらしく寝ぼけた目を擦りながら借りていた部屋から出てきた。

 玉置が借りた部屋からはまだ寝息が聞こえるため、彼女はまだ寝ているのだろう。


 「なんなんですかね・・・」


 「まぁ、今日は運動会だからね・・・お弁当作りだと思うよ」


 私と櫻木は静かに台所の扉を開けて中を確認する。

 台所には井沢夫妻だけでなく、井沢の母、私の妻、渚、由紀子の6人が所狭しと並んでお弁当作りの真っ最中だった。


 「母さんそっちはどう?」


 「あと少しだからまってなさい・・・はい、空いたから使っていいわよ!」


 「お義母さん、こっちの味みてください!」


 「私のも頼みたいのだが・・・」


 井沢が実母と入れ替わりでコンロの前に立ち、美樹と渚が井沢の母に味見を頼んでいる。


 「おお・・・小夜子さんのめちゃくちゃ美味しそう!ちょっと食べてみて良いですか?」


 「良いですよ!でも食べ過ぎないでくださいね、お昼の分が無くなってしまいますからね!」


 「こら、それはお昼まで待ってから食べるのが味が染みて一番美味いんだぞ!?」


 妻の作ったおかずを由紀子がつまみ食いしようとして井沢に怒られているようだ。


 「じゃあ比べてみないといけませんな・・・うん、美味しい!小夜子さん、これの作り方教えてください!」


 「気に入って貰えてよかったわ、あとでレシピを書いてあげますね!」


 「ほんとにお前は食い意地がはっているな・・・」


 「えーっ・・・良いじゃないですかぁ」

 

 結局つまみ食いした由紀子は、妻に作り方を教えてもらえるように頼み、渚に呆れられていた。


 「なんか凄いですね・・・あの中でも全く動じない井沢さんも大概ですけど」


 「そうだね・・・私達には何も出来ないだろうし、もうひと眠りさせてもらおうか」


 「ですね、てか玉置は手伝わないのか・・・料理が上達しないわけだわ」


 ちょうど玉置の寝ている部屋の前を通り過ぎるところで彼女の寝言が聞こえ、聞かれたのかと思って櫻木が青い顔をしていたが、寝言だと気づいて胸をなでおろしていた。

 千枝が居なかったところを見ると、まだあの子は夢の中なのだろう。

 今日はいっぱい楽しんでほしいものだ。







 午前8時、私達は井沢家とそのご両親、由紀子、渚の8人で千枝と貴宏の通う小学校の運動場までやって来た。

 瀧本 元気、伊達 隆二と櫻木、玉置の4名は周辺地域の警備のため不在だ。

 今日の空は見事なまでに晴れ渡り、雲一つない運動会日和だ。


 「酒井さん、夕べはご挨拶も出来ずに申し訳ない・・・今日は楽しんでいってください」


 井沢の父が私に挨拶をしてきた。

 彼は昨日の夜は農業関係者の寄り合いで会うことが出来なかったのだ。


 「ええ、やはりこういった空気は良いですね・・・子供達も嬉しそうだ」


 運動場には、体操服を着た子供たちが楽しそうにはしゃいでいるのが見える。

 今日の運動会は、設営や運営すべてを保護者や近隣に住む大人たちが行っている。

 子供たちに楽しんでもらいたいという配慮だ。


 「おい誠治・・・俺は今日ほどお前を褒めてやりたいと思ったことは無いぞ」


 「感謝しろよ親父?俺の提案なんだからな!」


 「良くやった!写真は任せておけ・・・今日は久しぶりに腕が鳴る・・・」


 そう言った井沢の父は、89mmロケット発射筒M20改4型を連想させるような巨大なレンズの付いたカメラを構えている。


 「凄いカメラをお持ちですね・・・」


 「ははは、私は写真が唯一の趣味でして・・・可愛い孫たちの姿を収めようと久しぶりに引っ張り出してきましたよ!」


 彼は照れ臭そうに笑っている。

 井沢親子は会えばすぐに喧嘩をしているが、なんだかんだ似た者同士で、血の繋がらない千枝や伊達家、瀧本家の面々の事も本当の家族として可愛がっている。


 『さぁ皆準備は良いかな!?私は今日司会進行とアナウンスを務めさせて貰う伊達 由紀子、ピッチピチの20代の人妻子供一人ですよ!!私がマイクを握ったからには私がルールだ!文句ある奴は出てこいや!!!』


 場内に聞きなれた声が響く・・・。


 「おい、誰かあのバカを止めろ!!!」


 井沢と渚が走り出し、会場内にあるテントの中から由紀子を引きずり出す。


 「このバカ!真面目にやらんと昼飯食わせねぇぞ!」


 「すんません!すんません!調子乗りました・・・!」


 由紀子は渚の拳骨を食らって蹲っている。

 ここまで聞こえてくるのだから結構な大声だ。


 「ははは・・・あの子は相変わらずだな」


 私は乾いた笑いが漏れてしまった。

 

 「面白い子で良いじゃない!」


 妻は井沢の母、美樹と一緒に赤ちゃん達の面倒を見ながら笑っている。


 『えー・・・早速お叱りを受けてしまいましたが、まずは校長先生とPTA会長の挨拶・・・と言いたいところですが!そういったのは長くなるのが見えてるのでスルー!!早速1つめの種目にうつりますよー?時間が押してますからねー、ではガンガン行きましょう!!』

 

 校長とPTA会長は残念そうに肩を落としている・・・恐らく、挨拶を必死に考えてきていたのだろう。

 まぁ、由紀子が言っていたことはあながち嘘でもない・・・今日は種目数が多いのだ。

 子供だけでなく、保護者や近隣の住民にも参加してもらい、皆で楽しもうという事になっている。


 「誠治君は何か参加するのかね?」


 「あぁ、俺は俵担ぎと保護者対抗リレーですね・・・足が速そうだから出ろと言われました」


 「ははは、それは災難だったね!まぁ、君はいつも走り込みをしているんだろう?なら大丈夫なんじゃないか?」


 「まぁ、やるからには全力です!」


 井沢はイベントごとが大好きだ、この運動会の発案者も彼だというのだから、何かとやることがあるだろう。

 言い出しっぺが何もしないというのは考えられない。

 まず最初の種目は1年生のかけっこだ。

 まだ小学校に上がりたてというだけあって走りが危なっかしいが、見ているこちらは可愛い光景が視れてなかなかに面白い。

 自分の息子の時もこんな感じで楽しんでいたのを思い出す。

 子供好きの妻にとっては、今日はまさに天国だろう。


 「やはり1年生のかけっこはいつ見ても良いわね・・・」


 妻はうっとりしている。

 いくら子供が好きとはいっても少し心配になってくる・・・。


 「さてと、俺は玉入れの準備に行ってきますよ。

 たぶん、面白がって俺に当ててくるんだろうな・・・」


 「ふふふ、頑張ってくださいね誠治さん!」


 井沢が肩を落としていると、美樹が慰める。

 はたから見ても仲睦まじい夫婦だ。


 『いやぁ、やっぱり一年生のかけっこは良いですね!危なっかしくて心配ですけど、心がほっこりします!!』


 由紀子のテンションはマックスだ・・・また変な事を口走らないか心配だ。

 しばらくは全学年のかけっこが続くようで、それが終わったら玉入れだ。

 千枝と貴宏の学年まではもう少しあるようだが、今から楽しみで仕方がない。


 「そういえば酒井さん、今回は少し長めの休暇なんですよね・・・いつ頃までこちらに?」


 「櫻木君達と一緒に帰ることになると思うので、明日までになりますね」


 「そうですか、それは残念だ・・・」


 「また休みの時には寄らせていただきますよ!」


 「おぉ、それは有り難い!また是非いらしてください!」


 私はしばらく井沢の父と会話をしながら千枝達の学年の番が来るのを待った。


 『さぁ、とうとうお待ちかね!我らがアイドル千枝ちゃんの登場だ!!貴宏君も頑張れー!ってあ痛っ!!?何するんですか渚さん!!?』


 『公私混同するなバカ者!!』


 千枝と貴宏の学年の順番が回ってきたことで、またも由紀子が暴走した・・・。

 背後から渚に頭をはたかれ、机で頭をぶつけていた。

 千枝と貴宏は顔を真っ赤にして俯いている。

 まずは男子、走る順番はランダムなのか、貴宏は最初の組みだ。


 「おお!貴宏君は最初の組みか!?これはしっかりと撮らないとな!!」


 井沢の父と私はカメラを構える。

 貴宏の組みがスタートする・・・少し遅れてしまったが、前走者との距離をぐんぐん縮め、何とか2位に食い込んだ。

 貴宏は運動が得意らしい。

 私は撮った写真を確認する・・・なかなか良く撮れているようだ。


 「いやぁ、スタートは少し遅れましたが良かったですな!」


 井沢の父は、可愛い孫の雄姿を見れてご満悦だ。

 そして、男子が終わって女子に入ると、千枝が運動場からこちらに向かって笑顔で手を振った。

 井沢の父はすかさずシャッターを切る。

 私はハンディカメラでも同時に撮っているが、これは良い画が撮れたと思った。

 千枝は2組目、スタートはまぁまぁだったが、途中でこけてしまった・・・。

 会場中から千枝を励ます声が聞こえ、由紀子もマイクで励ましていた。

 結局千枝は最下位ではあったが、走り終わった後は笑顔だった。

 入退場口で父である誠治と会った時はバツが悪そうにしていたが、井沢が笑って頭を撫でるとはにかんで笑っていた。

 私はその光景も逃すことなく記録した。


 「千枝、誠治さんに撫でられて嬉しそうでしたね・・・」


 「あぁ、やはり彼は良い父親だよ」


 嬉しそうに微笑んでいる美樹に私が答えると、美樹は笑顔で頷いてくれた。


 『さぁ子供達、玉入れの時間だコラァ!!お手玉の中に石は詰めたかな?籠を支えてるおじさん・・・特に眼帯のおじさんに当てたら高得点だからね!まぁ、命の保証はないけどね・・・』


 由紀子は完全にフリーダムだ・・・流石に井沢に石入りのお手玉を当てようなんて命知らずはいないだろう。

 井沢は由紀子に対して首を斬るジェスチャーをしている。


 「こらガキ共!俺の股間に当てんじゃねぇ!!不能になったらどうすんだ!?」


 開始早々井沢の叫び声が聞こえる・・・子供たちに対して悪影響を及ぼしかねない発言のオンパレードだ。

 美樹は恥ずかしそうに俯き、井沢の母と私の妻はそれを見ながら笑っている。


 「本当に面白い方ね、子供達も楽しそう!」


 妻にはそう見えているらしい・・・まぁ、確かに子供たちは楽しそうではある。

 井沢の父は孫の相手をしていて全く見ていない・・・。


 「あのガキども・・・いずれこの苦しみを知った時、俺の顔を思いだせ!」


 玉入れが終わり、半泣き状態で井沢が帰って来た。


 「ご苦労様・・・災難だったね」


 「本当ですよ・・・まぁ、楽しそうだったんで良しとしときますけどね!」


 そういって井沢は笑顔になった。

 やはり、彼は子供好きの優しい男だ・・・こんな男に、いつまでもあんな仕事をさせていてはいけない。

 私は、今夜あの書類を井沢に渡す決心をした。


 『さて、あらかた子供達全員参加の種目が終わったところですが、そろそろお父さんお母さんにも参加して貰います!まずは俵担ぎレースに参加する人たちは入場口に集まってくださいねー!』

 

 由紀子のアナウンスを聞いて、井沢はため息をつく。


 「あら、早速行かなきゃいけないわ・・・忙しいったらありゃしない」

 

 井沢はそういうと立ち上がり、休憩もそこそこに入場口移動した。


 『おっと、ここで物言いが入りましたよ!なになに?あぁ・・・誠治さん、あなたは力があるのでハンデを付けさせていただくことになりました!ざまぁ・・・』


 「聞こえてんだよ馬鹿!」


 井沢の目の前には俵が2つ重ねられている。

 重さ30kgの俵が2つだ・・・。


 「60kgとかふざけんな!腰が使い物にならなくなったらどうすんの!?」

 

 井沢が抗議しているが、由紀子はそれを鼻で笑っている。

 

 『誠治さん、良いですか?私は出来レースには興味ないんですよ・・・』


 「お前の都合じゃねーか!」


 『うるさいなぁ・・・じゃあやる気の出る魔法の言葉を送ってあげましょう・・・頑張ってね、お兄ちゃん♪』


 「俺、吐いても良いかな・・・」


 井沢の顔が青くなる・・・。

 会場に集まっている皆からも乾いた笑いが漏れているのが聞こえてくる。


 『ふざっけんな!泣くぞこの野郎!!はぁ・・・良いですか?妄想・・・もとい想像してください。イマジンですよイマジン!』


 「時間押してんだからさっさとしろよ・・・」


 井沢はうんざりしているようだ。


 『誠治さん、貴方は右手というハンディキャップを持っています・・・そんな貴方がさらなる逆境を乗り越え、懸命に走る姿を千枝ちゃんや美樹ちゃんが見たらどう思うと思いますか?「お父さんかっこいい(棒)」、「流石は私の誠治さん(棒)」となるんですよ!!わかりますか?私の言っている意味が!!』


 由紀子は握りこぶしを作って力説した。

 井沢の反応は無い・・・いや、俵の前に移動し始めた。

 

 「何をしている由紀子・・・早く始めるぞ!」

 

 そう言って井沢は1つ30kgの俵を両肩に担いだ。

 井沢の見事な変わり身に、会場の人間は皆呆れた笑いを漏らした。

 結局、井沢は見事な走りを見せ、合計60kgの重りを担ぎながらも断トツの1位でゴールした。

 愛の力は恐ろしいというが、目の前で見せつけられると若干引いてしまう・・・。


 「あー疲れた・・・。

 で、美樹・・・俺はどうだった?」


 井沢は帰ってくるなり美樹の隣に座って感想を聞く。


 「誠治さん・・・あれはカッコよくないです!」


 美樹はそっぽを向き、井沢は体育座りの格好で泣きだした。

 井沢の母と妻はそれを見て苦笑している。

 まぁ、あれはお世辞にもカッコいいとは言えないだろう・・・せめてあのやり取りがなく、自ら率先してやっていれば結果は違ったかもしれない。

 まぁ、結局は後の祭りだ・・・この後、千枝から何と言われるのか見ものだ。

 次に行われたのは親子での二人三脚、参加している親子は、こけたりしながらも互いに声を掛け合い、精一杯走ってゴールを目指している。

 ゴールしてからの達成感に満ちた笑顔は皆輝いて見えた。

 こういう形での親子の交流というのは、互いの絆を深めるのにはもってこいだと思う。


 『はぁ・・・なんだかお腹がすいてきましたね・・・。皆さん、そろそろご飯にしませんか?しますよね?しましょうよ!』


 由紀子のアナウンスを聞いて私は時計を見た。

 時刻は12時になろうとしている。

 なんだかあっという間に午前の部が終わった気がする・・・。


 「はぁ疲れた・・・いやぁ、アナウンスって難しいですね!」


 私たちの所に戻って来た由紀子は、悪びれるそぶりも見せていない。


 「おい由紀子・・・お前の言った通りにしたら逆効果だったじゃねーか!」


 「何を言ってるんですか誠治さん・・・私はちゃんと(棒)って言いましたよ!!」


 井沢が由紀子に詰め寄るが、由紀子はそれを躱して木の陰に隠れる。


 「(棒)じゃねーよ!お前には昼飯はやらん!」


 「異議あり!!私だって作ったんだ!食べる権利はあるはずだ!!」


 井沢と由紀子の言い争いが始まる・・・。

 美樹と井沢の母、そして私の妻はそんな二人をほっといて昼食の準備を始めている。

 すると、そこに千枝と貴宏が帰って来た・・・。

 運営の手伝いをしていた渚や、警備に行っていた櫻木達も昼食のため私たちの元にやって来た。


 「もう、お父さん!私恥ずかしかったんだからね!!」


 千枝は大層ご立腹だ・・・。

 櫻木達は何事かと首を傾げていたが、美樹から説明を受けて笑っていた。

 井沢は愛娘からの口撃を受けてその場に崩れると「おのれ由紀子・・・おぼえてろよ」という言葉を残してすすり泣き、いつしかそのまま寝てしまった。

 昨夜は私や櫻木、元気、隆二に付き合って遅くまで起きていた上、今朝は早く起きて弁当の準備をしていたのだから仕方のないことだと思う。

 それを見た美樹は苦笑して夫にブランケットを掛けてやると、夫の分の弁当を取り分けていた。

 よく気の利く子だ・・・互いを支えあい、そして愛し合っている。

 彼に伝えなければいけない事・・・それは確かに彼の負担は減らせるが、彼の心を傷つける物だ。

 そして、私にとっても許容しがたい内容だ・・・。

 だが、それでも私は彼に伝えなければならない・・・もしかすると、彼は我々に愛想をつかしてしまうかもしれない。

 だが、それでも構わない・・・彼には生きて欲しい・・・この素晴らしい家族達と少しでも長く幸せに暮らしてほしいのだ。







 午後からの種目も、井沢が関わるものには全てハンデが設けられた・・・だが、井沢はそれらを全てはねのけた。

 最初こそ井沢を気遣う声があったのだが、最終的には「来年はさらなるハンデを課そう・・・」とか「あいつはもう出させるな・・・」などなど、大人たちは皆井沢に呆れ、敵対心を燃やしていた。

 子供たちは最後まで笑顔で、良い思い出を作れたのではないかと思う。

 井沢の提案が発端だったが、我々自衛隊も地域の警備という形で貢献できたことを嬉しく思う。

 私は休みだったが、こういう事であれば仕事としても是非参加したい。

 来年は海自からも人員を割くように提案してみよう・・・普段海の上にいる海自の隊員達にもいい刺激になるかもしれない。

 すべての種目が終わるころには日が傾き、片付けが終わるころには完全に陽が落ちていた。

 夕飯はまた井沢の家で頂くことになったのだが、今日は櫻木と玉置、元気と隆二は居ない。

 彼らは、九州支局で局員と隊員たちで打ち上げをすることになり、そちらに行っているのだ。

 井沢も行こうとしていたが、元気と隆二に止められていた。

 折角運動会の後なんだから、千枝達との会話を楽しめと言われたそうだ。

 私としては助かった・・・もし井沢が向こうに行ってしまえば、あのことを伝えられなくなってしまうからだ。

 私は夕食後、一息ついたところで井沢を外に呼び出した・・・。


 「どうかしましたか?」


 「あぁ・・・君に少し話があってね」


 「皆の居るところでは出来ない話ですか?」


 井沢は私の表情をみて真剣な顔になる。


 「田尻艦長からこれを預かって来たんだ・・・中を確認して貰えるかい?」


 私は井沢に封筒を差し出す。

 彼はどちらの書類から見るのだろうか・・・。


 「おぉ、ワクチンが出来たんですね!」


 最初に彼が見たのは吉報の方だったようだ。


 「あぁ、まだまだ完成品には程遠いようだが、ある一定の条件下であれば、転化を防げるようだよ。

 書類に書いてあるとは思うが、そのワクチンは噛まれた後では効果が無い・・・噛まれる前、任務に就く時に打つ事になる。

 そして、それは一度打てば良いというものでもない・・・効果は12時間、効果が切れるまで次の摂取は禁物だ。

 拒絶反応が出るらしい・・・。

 あと、噛まれた場所が多い場合にも効果が発揮されない場合がある・・・それと、抵抗力が低くなっている場合も駄目だ。

 体調を崩していたり、疲労が極限まで達している場合は効果が無い。

 そのワクチンは、摂取した者の健康状態に左右されるものだ・・・大量生産にはこぎつけていないしまだまだ改良は必要だが、これでこちらの被害も抑えることが出来そうだよ。」


 「それは良かったじゃないですか!」


 井沢は喜んでいたが、私は浮かれるわけにはいかなかった・・・。

 未完成とは言えワクチンの精製に成功した・・・成功してしまったのだ。

 それは、私にとって手放しで喜べるものでは無かった・・・。

 ワクチンがあれば生存率は上がるし、作戦もこれまでより格段にやりやすくなる・・・と言うことはだ、これから今までよりも大規模な、本格的な作戦が決行される可能性が高いのだ。

 そして、その作戦にはもちろん彼も・・・。

  

 「さて、次の書類は何ですかね・・・」


 そう言いながら井沢はもう一枚の書類を封筒から出し、私を見た。

 その眼には焦りの色が浮かんでいる。


 「酒井さん・・・これって」


 「すまない・・・これはすでに決定された事なんだ。

 我々の力が及ばず、申し訳なく思ってるよ・・・」


 「待ってください!これ、まさかこの前のが原因で・・・こんなの・・・あいつらを、仲間をあそこに送れって言うんですか!?」


 井沢は私の肩を掴んだ・・・井沢家からは妻や千枝達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 今の私と井沢の周囲に漂う空気とは別世界のようだ。


 「もともとそういう話は出ていたのだよ・・・我々は反対していたのだが、新個体の発生、ワクチン精製の成功・・・そして、先日の君の異変・・・全てが悪いタイミングで重なってしまったんだ」


 書類の内容・・・それは民間人協力者の増員と育成だ。

 現在では、新個体(B型)の出現により救助活動は困難を極めている・・・生存者の救出のためには、彼らを説得する者が必要だが、それは恨まれている可能性の高い自衛隊より、彼らと同じ民間人の方が適している。

 そして、B型がどれほどの数が存在しているのか、どこまで広まっているのかがいまだ詳しくは分かっていないため、現在は救助活動よりも、安全が確保されつつある府県などの陸上自衛隊基地の防衛強化が主軸となっている。

 だが、ワクチンの精製が可能になったことで救助活動を再開する話が持ち上がったのだ。

 もし再開されれば、救助のために多くの人員を割くことになる・・・今もまだ救助を待っている者達がいるのだ。

 今までは井沢一人で救助者の説得を行っていたが、救助活動が活発化すれば、井沢一人では足りなくなってしまうのだ。

 井沢の重要性は上も理解している・・・だからこそ、今回井沢が変調を来したこの機会に、増員、そして育成を行おうというのだ。

 全くもって反吐の出る話だ・・・。

 我々は何処まで彼等に頼り続けるのか・・・要救助者の命は大事だ、だが、井沢も・・・そしてこれから巻き込まれようとしている彼の仲間たちも同じ国民なのだ!

 我々が本来守るべき者達なのだ!!


 「だったら、俺が克服して見せます・・・仲間をあんな場所に送るくらいなら俺がやります!」


 井沢は怒りの籠った目で私を見ている。

 仲間を大切にしている彼にこの書類を見せてしまえば、こうなることは分かり切っていた・・・。

 だが、彼はこのままでは遠くない未来死んでしまうだろう・・・愛する家族を残し、死んでしまう。

 そんなことは絶対にさせない・・・させてはいけない。


 「駄目だ・・・君も組織に所属しているのなら、上の決定した事には従ってもらう・・・。

 せ・・・井沢君・・・私は、君に死んでほしくないんだよ。

 それは、櫻木一尉も玉置二尉も同じだ・・・我々自衛隊の中に、君の死を望んでいるものなど一人として居ない・・・だが、今もまだ救助を心待ちにしてる人達が居る。

 その人達も、我々にとっては大事な命なんだ・・・君と同じくね。

 君一人の状態でこれから救助活動が活発化してしまえば、それこそ君はここに帰る暇もなく、愛する家族にも会うことが出来なくなってしまう・・・。

 そして、最悪の場合・・・私は・・・いや、我々はそんな事は絶対に望まない!

 すまない井沢君・・・これは君のためでもあるんだ・・・そして、君の愛する家族のためだ」


 私は井沢に自分の気持ちを伝え、井沢の家を見る・・・暖かい明りと、楽しそうな笑い声、理想の幸せな家庭がそこにはあった。

 私は、彼の事をもう下の名前で呼ぶことは無いだろう・・・いや、もうそんな資格は無いと思っている。

 仲間思いの彼に、仲間を死地に遅れと言った私に、もはやその資格は無い・・・。


 「選考の基準を教えてください・・・」


 井沢はうつむいたままだ。


 「そうだね・・・生存率の高さ、そして交渉能力・・・この二つが重要だ。

 返事は来週金曜日までで構わない・・・井沢君には苦労をかける」


 「わかりました・・・ですが、一つだけ良いでしょうか?」


 「なんだね?」


 井沢の表情はいまだ読み取れない。


 「俺は、今の貴方の言葉で許せない事があります・・・」


 「そうか・・・なら謝罪しよう・・・」


 「いえ、謝罪は要りません・・・ただ、これからも下の名前で呼んでください。

 気を許せる友人に、他人行儀に接される事ほど嫌なことはないんですよ」


 そう言った井沢は顔を上げて苦笑した。


 「怒っていないのかね?」


 「怒ってますよ・・・滅茶苦茶ね。

 でも、それは酒井さんにじゃない・・・俺自身にです。

 俺があんな失態を犯さなければ、仲間を死地に送るなんてことにはならなかった・・・。

 これは俺の責任で、酒井さんのじゃない。

 それに、あなたは言ってくれたじゃないですか・・・俺のためだって、俺の家族のためだって・・・。

 そんな貴方を怒るなんて、俺には出来ませんよ・・・」


 私は、彼の言葉を聞いて涙が出てしまった・・・。

 本来、軽蔑されてもおかしくは無かった・・・いや、軽蔑されて然るべきだろう。

 そんな私を、彼は庇ってくれたのだ・・・。

 これまでのように優しく語りかけてくれたのだ・・・。


 「泣かないでください酒井さん・・・俺は、貴方に感謝してるんです。

 俺は、自分が既に限界なのも知っています・・・壊れかけて・・・いや、もう壊れてるんでしょうね。

 そのことも自覚しています・・・。

 でも、そんな俺をあなたはずっと見守ってくれている。

 こんなに嬉しいことはありませんよ・・・。

 あなたが俺の事を常に心配してくれていることも知っていました・・・ですが、一つだけ我が儘を言わせてください。

 前、貴方にお願いした・・・夏帆や慶次達の件です・・・。

 あいつらは、俺が・・・俺自身が迎えに行ってやりたいんです!」


 井沢は私に頭を下げる。


 「わかった・・・その時は必ず君の力になろう。

 私が・・・我々が全力で君を守り、彼らの元に連れて行こう!」


 私は、井沢と固く握手をして誓った。

 彼も、そしてこれから巻き込まれるであろう彼の仲間も絶対に守り抜く・・・。

 絶対に死なせはしない・・・そう心に誓った。


 「酒井さん、今度からもっと俺の家に遊びに来てくださいよ・・・もちろん奥さんも一緒に。

 美樹達に気を使って、呼ばれた時以外プライベートでは来てくれないじゃないですか・・・。

 美樹も千枝も喜んでたでしょう?あいつらも、酒井さんの事大好きなんですよ。

 だから、もっと顔を見せてやってください・・・」


 「あぁ、今度からはそうさせてもらうよ・・・妻は君の子供たちが大のお気に入りだからね!」


 「さてと、酒井さん・・・休みは来週の金曜日まででしたよね?」


 「そうだが、どうかしたのかい?」


 にやけ顔の井沢に私は聞き返した。

 何か企んでいそうだ・・・いや、企んでいるのだろうな。

 だがそんなに嫌な気はしない。


 「今回俺にこんな書類を持ってきたバツとして、休暇中は俺の家で過ごすように!

 すまない・・・これはすでに決定されたことなんだ・・・でしたっけ?」


 私の言葉を真似た井沢は、悪戯っぽく笑った。

 

 「あぁ、わかったよ・・・全く、本当に君には敵わないぁ」


 井沢はおかしそうに笑いながら家に入って行った。

 私は夜風に吹かれながら空を見る。

 夜空には雲一つなく、綺麗な星空が広がっている。

 いずれ、この国全土でこの星空を見られるようにしたい・・・そして、それを井沢と、その家族達と共に見ることが出来たらどれだけ幸せだろうか・・・。

 そのためにはまず本州に巣食う奴等を排除しなければならない・・・奴等とて元は私と同じ人間だ・・・だが私には守りたいものがある。

 彼らを守るためならば、私も甘い考えは捨て、彼等と共に悩み、そして戦っていこう。

 











 

 

 


 

 

 


 


 


 

 


 


 


 


 

 






 


 

 


 


 


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