第8話 行く道を開く
帝都を出るには、認証状がいります。そのあたりログーナはかなり法が整っているようですねー
「そういやゼアル。お前どこへ行く気なんだ?」
ドルクがかなり重要なことを思い出したようにゼアルに尋ねた。
2人はすでに王宮の敷地から出て、城下町にやって来ていた。城下町の中でも特にここはたくさんの店が軒を連ねており、物も人も、多く集まる場所だ。すでに多くの店は開いており、帝都に住む街人や、旅人の姿も見えた。
『まずは旅人認証を受けないといけないだろう』
ゼアルが文字を書き伝えると、ドルクは唸った。
旅人認証が無ければ、帝都を出ることは力ずくでもない限り不可能だ。しかし、認証を受けるには名前を名乗る必要があるし、それにゼアルの名、容姿は帝都の人々に知れている。ちらちらとこちらを見る者も周りにいるほどだ。
「いや、それじゃ足がつくだろ。一応俺達は脱走兵なんだぜ?」
脱走兵は捕まればきつい罰と、後の厳しい監視が課せられる。もしそうなれば、特に軍の重要な立場となっている2人が逃げ出すことはできないだろう。
2人は足を止めて考え込んだ。今向かっていたのは旅人の認証状を受けるための発行所だったが、帝都で認証を受けるのは難しいかもしれない。
考えた末に、ドルクはにやりと不敵な笑みを浮かべた。昔から変わらない、何か悪巧みを思い付いたかのような笑みだ。
「認証状は次の町で偽名ででも手に入れるとして……ガキの頃にでも戻るか」
昔の荒れた町での生活がゼアルの脳裏にふと蘇った。
2人でケンカや、抗争に明け暮れた日々……行く道を塞がれれば、塞いだ奴らは吹き飛ばす。それが2人の信条だった。
確かに帝都を出るにはその手しかないかもしれない。あまり目立ちたくはなかったが、しょうがない。ゼアルはにやにやとするドルクに頷いた。
「よし、んじゃあ帝都で一番小さいのは……北西ゲートか。そこに向かおう。と、その前に」
ドルクはゼアルの姿を見て言った。
「お前のその目立つ髪と瞳を隠さなけりゃな」
ゼアルの銀色の髪、赤色の瞳をどこを見ても他に持つ者はいない。その特徴はとても目立ってしまう。
それはゼアルもわかっていたので、準備はしていた。荷物から編み笠を取り出して見せた。これを被れば髪も瞳も影になって、目立つ色には見えない。
「そうか、それなら大丈夫だな。じゃあ、行くか」
北西ゲートを守る兵士は歩いてくる少年と男をみとめて、立ち上がった。
そのまま通ろうとする前に立ち塞がり、2人で槍を交差させた。
「待て!旅人か?」
頷いた背の大きな方の男が紙を差し出してくる。おそらく認証状だ。
それを受け取ろうと手を出した瞬間だった。
槍が地面にガランと音をたてて落ちた。気が付いた時には、仲間が地面に倒れており、その身体をもう1人の少年が抱えていた。
「貴様……っ!?」
慌てて槍を構えた時にはもう遅すぎた。いつの間にか後ろに回り込んだ男が鋭く耳を打ち、あっという間に何もわからなくなった。
「北西ゲートとはいえ、まさか2人だけだったとはな。拍子抜けしたぜ」
確かに、いくら一番小さいゲートだとはいえ、2人しかいなかったのは不思議だった。おそらく、食べ物か何かでも買い出しに行ったのだろう。
息が詰まらないように、兵士の体勢を整えてやってから2人は立ち上がった。
「さて、行くか」
何事もなかったかのように2人は歩いて北西ゲートを抜けた。2人はまず、タンガルに向かおうと決めた。
タンガルは他の地域からの輸出、輸入の中心である都市だ。そして、そういう都市は物や人と一緒に情報が集まる場所でもある。
あての無い旅だが、何か気になる噂や情報が手に入ればいいかもしれない。
2人でしばらく歩き、ドルクがそういえば、と口を開いた。
「タンガルなら認証受けれるよな……認証状の偽名、どうする?」
「……」
ドルクはまだいいが、殺戮兵器を意味する、ゼアルの名は使えない。
「考えてなかったんなら、ほら。ガキの頃に俺が付けた名前でいいんじゃねえか?」
捨て子のゼアルには名前がなかった。ドルクとつるむようになった時、ドルクにつけてもらった名前が、
『ソウ、か』
「おお、それそれ」
『なら偽名はそれにする』
『ソウ』という名を思い出した時、ドルクは、ゼアルと出会った時のことを思い出していた。
次は…ドルクの回想になるかなー。なんだか書くの楽しみ☆