第4話 王宮での訓練 ③
「……始め!」
ドルクが腹に響く声で言った瞬間、隊の形が変形した。ゼアルを包み込むように広がり、あっという間に逃げ場は無くなった。
ゼアルが1人を攻撃したらその隙を突くつもりだろう。ゼアルは頭の中で少年達がとるであろう、あらゆる行動を考えた。……どう動くかは決まった。
ゼアルは構えを解いて『普通に』歩いた。まるで知人に歩いていくような態度に、少年達は一瞬戸惑ったような様子を見せたが、すぐに集中し、背後の少年達が素早く間を詰めてきた。
しかし彼らはゼアルの間合いを知らない。それがどのくらいの距離なのか、どう攻撃できるのか、何も。
彼らがゼアルからはかなり遠い、その間合いに入ったとき、ゼアルは木刀を素早く構え、後ろに振るった。
「お前らーゼアルの間合いはかなり遠いからなーって遅いな」
ドルクがのんびりとした声で言った時には、ゼアルの背後にいた少年達は見事に吹き飛ばされていた。
ゼアルの前にいた少年達は驚きの表情を浮かべ、『恐れた』。ゼアルがどういう風に動き、後ろにいた少年を倒したのか、理解出来なかったからだ。
少年達が弱気になった瞬間、ゼアルは素早く前に踏み込み、残った少年達に木刀を叩きつけた。
「あーあ……みんなやられちまったか」
気がついたときには少年達は全員倒れていた。ドルクはさして驚いた様子もなく、幾人かの昏倒した少年達の介抱を始めた。
全員が意識を取り戻すと、ライヴィが
「……敵いません」
と、言った。
「天下のゼアルだからな……まあいい経験が出来たと思えよ」
ドルクはそう応じると、目の前につき出されたゼアルの手のひらに書かれていく文字を追った。
『間合い大事』
書かれた文字を見て、そうだな、と呟いた。
「ゼアル様に敬礼!!」
少年達がライヴィの掛け声で一斉に敬礼した。ゼアルは目礼を返し、踵を返した。
ゼアルはときに戦いをし、人を殺しても、穏やかに過ごしている。それなのに、なぜか、ゼアルは『虚ろ』だった。
この日々に不満はない。でもずっとこのまま過ごしていくのかと思うと、なにか違う気がした。そう、なんというか−−
(なにかを、したい……しなければならないことが、俺にはある)
奇妙な欲求が身の内を燻らせるのだった。