2.ここは地獄だ
「うん……?」
気がつくと、俺ールートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンーは見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
辺りを見回すと、ピアノとヴァイオリン、そして楽譜がずらりと並んだ棚が目に止まった。
ー音楽家の部屋か。
いや待て。落ち着くのだベートーヴェン。俺はさっき死を決意した。その証拠に、このピストルの引き金を引いたじゃないか。自分に言い聞かせて手元を見ると、握ったはずのピストルが無くなっていた。
えっ!?嘘だ!!何故!?
頭だって、全く痛くない。血なんぞ一滴も出てやいなかった。
考えられるとしたら、ここは…
「……地獄だ!!!!!!!」
思わず大声をあげてしまったが、その拍子に、
「大丈夫ですか!?」
見知らぬ青年が俺の枕元に駆け寄ってきた。
「…貴方は…?」
「ええと、リュート…トベ、リュートです。マイン、ネーム、イスト、リュート」
片言のドイツ語で、リュートは言った。彼はまたドイツ語で、
「貴方はなんて言うんですか?」
と俺に尋ねた。
目の前にいるリュートは悪い輩ではなさそうだが、果たしてこいつの正体はなんなのだ。きっと後々とんでもない呪いでもかけてくるに違いない。フルネームで名乗るのは危険だ。
「俺は、ルートヴィヒ。…まあ、ルイとでも呼んでくれ。地獄の遣いめ」
皮肉たっぷりに言ってやった。