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序曲(プレリュード)
連載もやってみることにしました。
最初から史実とちょっとズレますが、あしからず。
駄目だ。
俺には、もう何も残っていない。
ここにいて、なんの意味がある。
その30過ぎの男は、窓の外に見える教会の塔をじっと睨み付け、心の中でそう呟いた。
今日も聞くことができなかった、あの鐘の音。きっと今後もその音色を楽しむ事は許されないのであろう……
…いっそ、この世から姿を消してしまおう。この苦しみから逃れるためにも。
男は、思い立って仕事机の中の便箋を引っ掴んだ。
「我が弟、カールとヨハンのために。」
「…くそ……ッ!!」
ちっとも話がまとまらず、ただの丸まった紙屑と化した遺書を前にして、男は頭を掻きむしった。無力な自分に腹が立ち、涙がとめどもなく溢れ出た。
もういい。要は、俺が現世に残すものなど何もないという事なのだから。
無意識のうちに左手に握られたピストルをそっとこめかみに当ててみる。冷えた鉄の塊が男の全神経を痺れさせるかのようだ。
あとは、勇気。全てを断ち切る勇気さえあれば…
……Auf Wiedersehen…