5 掌の希望
その時…
ポゥ…
…?
突然俺の右手が…青く光りだしたぞ…。
掌から発する輝きに…少しばかり不思議なものを感じる…。
これは…
「…グリン…なんで掌を見つめているの?」
「えっ?…なんか光ってるけど…」
「…?…私にはなにも見えないよ?」
あれ?
もしかして…この光って俺にしか見えないのか?
なにか…意味があるんだろうか…。
…謎の声…光の道筋…そして掌の輝き…。
いつも俺が困っているときに謎の現象が起きている…。
どうしてそれが起きるのかはわからない…。
でも…ひょっとしたら…。
「…ネア…ちょっとごめん…」
俺はネアの足元にしゃがむと…傷口をじっと見つめてみる…。
「えっ…?どうしたの?」
不安そうに尋ねてくるネア…。
俺はその質問に答えることなく…
スッ…
ネアのふくらはぎ…噛みつかれた傷に手を当ててみた…。
「えっ…グリン…何を…」
ネアは戸惑いを隠せないようだ…。
でも…俺の手を振り払うようなことはしない…。
拒絶はしなかった…。
「ちょっとだけそのままで…」
俺はそれだけを言うと右手に力を加えてみる…。
すると…
ポォォ…ピカッ…
俺の触ったところがだんだんと輝いていく…。
青い光はネアの患部を覆い尽くし、ふくらはぎ全体に広がる…。
そして…
「…あれ?なんか…触られたところが暖かい…」
ネアも不思議に思っているようだ…。
俺も…右手がだんだんと熱を帯びていく感覚に一瞬戸惑いそうになってきた…。
大丈夫…。
この不思議な力は俺を裏切らない…。
自分自身に言い聞かせながら…俺は右手に力を込め続けていく…。
※※※※※※※※※※※※※※※
…
不思議…。
グリンの手…すごく心地いい…。
ただ触られているだけなのに…。
ふくらはぎ全体がポカポカする…。
それに…ズキズキした痛みも薄れていくような気が…。
もしかして…治してるの?
呪いを解除するなんて難しいのに…。
「…グリン…これって…」
「…呪いの痛み…大丈夫?」
「えっ…うん…」
グリンは落ち着いた表情で私を気遣ってくれる…。
なんか…頼もしい…。
怪しい人だと思ったけど…ホントはいい人なのかも…。
そう思っていると…
「…あっ…」
痛みが…消えた…。
突然…足に伝わるズキズキした感覚が…なくなっちゃった…。
「…ネア…もう平気?」
グリンは掌を離しながら…私の表情を見ている…。
心配しているのかな…。
「うん…なんか痛みもなくなっちゃった…」
念のためふくらはぎの部分を確認すると…。
そこにあったはずの呪いの証…紫色のアザも消えている…。
ホントに…治っちゃったんだ…。
※※※※※※※※※※※※※※※
…
「よっ…良かったぁぁぁぁ…」
はぁぁぁぁぁ…。
なっ…なんとか…うまくいったようだ…。
正直…ネアの呪いを治すなんてできるか心配だったけど…。
特に大きな問題もなかった…。
それにしても…
改めて…俺って何者なんだろう…。
動物に好かれたり、襲われなかったりはまだしも…呪いまで解くなんて…。
よほどこの世界にとって特別な存在だったりして…。
…それはないか…。
それにしても…なんか疲れちゃったな…。
ドサッ…
気がつけば…俺はその場で寝転がってしまった…。
「えっ!…グリン!大丈夫?」
「うん…ちょっと疲れちゃって…」
「でも…こんなところで寝転がるのも…そうだ!ちょっと待ってね!」
ネアはそう言うと…突然正座になって俺の元へ…。
えっ…これって…。
「男の人は女の子から膝枕されると嬉しいって聞いたから…良かったら…」
えっ…膝枕って…。
…確かに女の子の膝の上で…なんてのは男の子にとっては嬉しいけど…。
「でも…ネアとしては恥ずかしくないの?」
「…そう?別に私は構わないよ?呪いを解いてくれた恩返ししたいし…」
そっ…そうなんだ…。
ネアがそう言うなら…
「それじゃあ…お言葉に甘えて…」
「ふふっ…どうぞ…!」
俺は寝転がった体制から少し頭をあげて…ネアの膝の上にのせることに…。
スッ…
おぉ…これが…女の子の膝の感触か…。
寝巻き越しだけど…ふんわりした肌の柔らかさは気持ちいい…。
それに…この甘い匂い…。
異性の香りって間近で嗅いだことないなぁ…。
「なんか…ネアの膝の上って落ち着く…」
「ありがとう…。そんなこと言ってくれるの…グリンが初めてだよ…」
―
…
ネアの膝枕を堪能していると…ちょっぴり眠くなってきたなぁ…。
そんなに働いたわけじゃないのに…。
寝足りなかったかな…。
「ごめん…ネア…。なんか…眠くなっちゃった…」
「ふふっ…別に寝ても大丈夫だよ…。私のお仕事も…グリンのおかげでだいぶ進んだし…」
「あっ…そうなんだ…ありがとう…」
ホント…ネアのために頑張って良かった…。
ネアを助けることもできたし…膝枕もしてもらったし…。
いいことだらけだ…。
「それじゃあ…子守唄でも歌ってあげるね…お母さんから教えてもらったものなんだけど…」
「子守唄?」
へぇ~…。
なんか気になるなぁ…。
「うん…けっこういい歌なの…。気に入るんじゃないかな…」
「それじゃあ…お願いしようかな…」
俺がそう頼むと…ネアは綺麗な声で子守唄を歌ってくれた…。
―
…
ねんころ ねんころ ねんころり…
おとうさまがねてました…
おかあさまがほほえんだ…
ふたりのあいがせかいをうごかし
みんな みんな うごきだす…
ねんころ ねんころ ねんころり…
おとうさまはいなくなった…
おかあさまはかなしんだ…
そんなふたりをきにすることなく
みんな みんな うごきだす…
ねんころ ねんころ ねんころり…
おかあさまはたちあがった…
おとうさまをさがすために…
とわのじかんがながれるあいだも
みんな みんな うごきだす…
ねんころ ねんころ ねんころり…
ねんころ ねんころ ねんころり…