4 呪い
チュンチュン…チチチチチチ…
昨日の夜からぐっすり眠って…気がつけば朝…。
俺はネアから用意されたフカフカの毛布にくるまった状態で目が覚めた…。
…早く起きちゃったな…。
ネアはまだ寝てるみたいだし…。
こんなときは…なにかやっておきたいよなぁ…。
確か午前中はネアも忙しいみたいだから…そのお手伝いでも…。
でも…何する予定なんだろう…。
『…マユノミ…アツメル…ゴジュッコ…』
っ…!!?
なっ…!
まただ…!
なんなんだよ…この声…。
不気味すぎて…なんか怖い…。
『…マユノミ…アツメル…ゴジュッコ…』
…まゆのみ…あつめる…。
いったいなんのことだか俺にはさっぱりだ…。
…でも…昨日は皿の場所を囁いてきたよな…。
そしてその皿は丁度ネアが欲しがっていたもの…。
…もしかしてこの声…俺を助けているのか?
俺のやるべきことを…教えているのか?
あり得ない!
そんな神様みたいなこと…。
まさにチート能力じゃないか!
でも…
『…マユノミ…アツメル…ゴジュッコ…』
…モノは試しだ…。
この声の通りにやってみるか…。
―
…
謎の声をそのまま受けとるなら…
『マユノミを五十個集める』
…になるかな…。
たぶん…ネアが午前中にしておくお仕事のひとつなんだろうけど…。
今思ったら…マユノミ…ってなんのことか全然わかんないや…。
参ったなぁ…。
何も考えないで外に出ちゃった…。
靴もないから裸足のまま…。
うぅ…ちょっぴり寒い…。
一旦家の中に入ってマユノミがどんなものなのか調べた方が…。
でも…マユノミってどうやって調べればいいんだろう…。
そう思っていると…
キィィィィィ…ン…
突然…目の前に黄金に輝く光の道筋が…。
まるで俺がどう行くべきか…道を教えているよう…。
なっ…なんかだんだんと気味が悪くなってきた…。
きっと…この光の先にマユノミがあるんだろうけど…。
俺を助けるつもりだとしても…なんの目的があってこんなことを…。
…でも…ネアのためになるなら…。
「…行ってみるか…」
ザッザッザッザッ…。
俺は不安を抱きつつも…光を辿ってみることにした…。
―
…
うーん…さっきから光を辿っているのはいいんだけど…どんどん森の奥になっていくなぁ…。
太陽光の届かない…薄暗い世界…。
目の前を走る光がなかったら迷子になっているよ…。
辺りからは蛇や獣の鳴き声が…。
でも…なぜか俺には襲いかかってこない…。
まるで襲いかかってはいけない…と理解しているようだ…。
なんでだろう…。
俺って…何者なんだ…。
確かに金髪に赤眼は変わっているけど…。
森の動物に懐かれたり…警戒されたり…。
まだたくさんの謎があるなぁ…。
そう思っていると…
ピカッ…
あっ…
光が…途絶えているぞ…。
一本の太い木…その枝に生っている木の実に輝きが集中しているようだけど…。
もしかして…これがマユノミ…なのかな…。
…よし…!
幸いにも…木の実は手を伸ばせば取れる位置にある…。
このまま…傷をつけずに…慎重に…。
グゥゥゥゥゥゥ…プチッ…
ふぅ…取れた…。
特にハプニングもなく…一個目が手に入ったぞ…。
よし!
この調子でどんどん手に入れよう!
えーと…次のマユノミは…
キィィィィィン…
あっ…この光っぽいな…。
今度はこの光を辿ってみよう!
―
…
プチッ…ゴソゴソ…
タッタッタッタッ…
…けっこうたくさん手に入れたなぁ…。
もう四十九個も見つけちゃったよ…。
あと一個…見つけたら終わりだ…。
マユノミを一個手に入れたら光が現れて…それを辿ってまたマユノミを手に入れる…。
その繰り返し…。
なんか…すごく楽チン…。
どんどん周りは暗くなるし…獣の気配はするし…。
危険な場所って感じはするんだけど…。
全然襲いかかってこない…。
こういう場合は噛みつかれるもんなんだけど…。
こんなのでいいのかな…。
まぁ…いいか!
さて…と…
キィィィ…ピカァ…!
あっ…!
これが最後のマユノミか!
これを取れれば…
ギュッ…プチッ…!
やった!
これで五十個だ!
これを持って帰ったら…ネアも喜ぶかな…。
早く家に戻ろう!
―
ガチャ…
「…ネア…は寝てるかな…」
なんとか…家までたどり着いた…。
ホントは迷子になるんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど…。
例の光の道筋が浮かんだのが良かった…。
てっきりマユノミを見つけるときだけのものかと思ってた…。
俺が困ってる時なら大丈夫なのかな…。
とりあえず…光のおかげでこうして帰ってこれたのは幸運だ…。
マユノミ…。
さすがに五十個は多いから服で包んでおいたけど…傷とかないよね…。
とりあえず置いとこう…。
ドサッ…
「ふぅ…いい仕事したなぁ…」
まぁ…汗なんてほとんどかいてないけど…。
そうしていると…
「…グリン!どこに行ってたの!?起きたらいないから…心配したのに…」
あっ!
ネアが奥の部屋から…。
寝巻き姿のネアもけっこういいな…。
「あっ…うん…ごめん…」
「…あれ?その服に包んでるの…なに?」
ネアもマユノミに気がついたようだ…。
…隠す必要もないか…。
「うん…ちょっと…マユノミを五十個くらい集めてて…」
「えぇっ!!?…なっ…なんで…その…私の…やること…知ってる…の?」
あっ!
そう言えば…どうやって説明するか…考えてなかった!
確かに…これじゃあ、俺が怪しいやつみたいだ…。
えーと…そうだ!
「やだなぁ…ネア…寝言で言ってたよ?
『マユノミ…五十個集めなきゃ…』
…って」
「えっ…うっ…そっ…そうなの…うーん…」
…なんか…納得してないっぽいな…。
それも仕方ないけど…
「…でも…あそこの森ってすごーく危険なはずなんだけど…。傷とか大丈夫?」
「えっ?傷?大丈夫だけど…」
「ちょっと見せて…」
ネアはそう言うと…俺の体をじっくりと調べてきた…。
胸から腕…足…。
手でなでなでされたり…指でつまんできたり…。
ちょっぴりくすぐったいかな…。
「すごい…ホントに無傷で帰ってきたんだ…。足の泥以外は目立ったところもないし…」
「…そんなに危険なところなの?あの森って…」
「うん…私も一回魔獣に噛まれちゃって…これなんだけど…」
バサッ…
ネアは寝巻きの裾部分をめくると…そこにあったのは…
「…これは…」
足のふくらはぎのところに傷が…。
それほど大きくはないけど…なんか痛々しそう…。
少し変色もしてるみたいだ…。
「…ここ…紫色になってるでしょ?これ…呪いをかけられた証なの…」
「えっ!?のっ…呪い!?」
そんなの…初めて聞いた…。
ホントに怖い所なんだ…。
「呪いって…大変だよ!どうしたら…」
「あっ…そこは大丈夫…。別に死んじゃったりしないから…。いつもズキズキするだけの軽い呪いなの…」
軽い呪い…。
死ぬようなものじゃないにしても…常に痛むのは辛い…。
「その呪い…解くことできないの?」
「…私の魔法だと…解除するのは無理かも…。中級魔導師の人ならもしかしたら…」
「それじゃあ…すぐにその人探さないと…」
「いいの…普通に生活はできるから…。それに…治してもらうためのお金とかないし…」
そんな…。
この先…一生痛みと共に生きるなんて…。
いくらなんでも過酷だ…。
なんとかしたい…ネアのために…。
なにか…できないのかな…。