71 作戦決行前の告白
「ねぇ…グリン…」
「ん?どうしたの?ネア…」
太陽も沈んだ夜…。二日後に迫った『英雄大作戦』のために準備をすることになった俺達…。リアの考えた策がうまくいくかはわからないけど、できる限りのことはしないといけない…。
本当はネアも巻き込みたくはなかったけど、本人が積極的に参加したい…とのことで…。こうして二人一緒に部屋で色々やってるところだ…。
「リア様の…作戦ってうまくいくのかな…?」
「それは…わかんないけど…。…というよりネアはどう思っているの?この作戦に参加するぐらいだから気になってたけど…」
「うん…。悪くはない…とは思うんだけど…」
ネアの複雑そうな表情…。一応不安はあるようだ…。なんたってこれからすることは、ネアにしてみれば初めてのことだし…。
こういう作戦はリアのような行動派が一番似合ってるんだけどなぁ…。
「…やっぱり無理してすることはないよ…。ネアにはネアの生活があるんだし…。今からでも…」
「ううん…それはダメ…。私だってここまで関わりを持ったんだから…。最後まで一緒にいる…」
ネアの真剣な眼差し…。性格は優しいけど、一度決めたことは曲げない頑固なところがある。それは良いところでも悪いところでもあるんだけど…。
俺としてはとにかくネアに危険が及ばなければそれでいい…。最悪、ネアを逃がす選択だってある。それが難しいとわかった今…より複雑な心境になりそうだ…。
…いや…今はその事を考えるのはやめよう…。ネアだって自分の意思で参加したいんだし…。
「ねぇ…今さらな話なんだけど…」
「ん?」
「グリンのお父さんとお母さん…ってどこにいるの?」
「あっ…うーん…」
突然…ネアから尋ねられた俺はどう言ったものか悩むことに…。俺の両親は今も健在…のはず…。もっとも…俺は死んじゃったから今頃は悲しんでるかもしれないけど…。
俺の父さんも母さんも優しい親だった…。夫婦仲も円満で、息子の俺に対してもしっかりと面倒を見てくれた…。俺が泣いてるときも…怒るときも…。今となっては…とんでもない親不孝をしてしまったなぁ…。
「その…えっと…今も一緒に遠くの国にいる…かな…?最近は連絡とかとってないけど…」
「…グリンは…寂しくない?」
「そりゃ寂しいよ…。今だって会いたい気持ちはあるんだし…。でも…今は精一杯生きていこう…って思ってるかな…」
「そうなんだ…」
俺はとりあえず異世界転生のことははぐらかした上で、本心を語ることに…。そんな俺の気持ちが伝わったのか…ネアも納得の様子で頷いている…。ちょっと嘘ついたけど…これならいいか…。
「私のね…」
「ん?」
俺が安堵していると、ネアも心につっかえていたものを吐き出すように…口を開いてきた。
「私の…お父さんとお母さん…話してなかったんだけど…」
「うん…そう言えば聞いてなかったね…」
「その…数年前に…殺されちゃって…」
「…!…そう…なんだ…」
ネアからの突然の告白…。あのときの涙を見てからなんとなくわかってたけど…殺されてたなんて…。予想以上に辛い…。
「…そのときにね…お母さんから誕生日プレゼントでお花をもらってたの…。とてもとても大切な…。今も大事に育ててるんだけど…」
「えっ!…そのお花って前に言ってた?」
「うん…。まだ誰にも見せたことなくて…」
そういうことか…。だからあのとき…俺がお花のことを聞いたら泣いちゃったんだ…。お母さんからもらった大切なもの…。それは暖かい思い出でもあり…悲しい思い出でもある…。仕方のないことだ…。
「…そうなんだね…。それじゃあ…大事にしないと…」
「うん…ありがとう…」
俺の言葉に感謝の意を示すネア…。少しだけ心が晴れたのか、その表情は意外にも穏やかなものだった…。
「…グリンにはすごーくお世話になったし…よかったら見てみる?」
「えっ…!…でも大事なものなんだよね?」
「そうだね…でも、私の足を治してくれたり…変な男達から助けてくれたり…。…グリンになら見せたいかな…って思っちゃって…」
突然のネアからの提案…。大切なものを俺のために見せてくれるなんて…。よっぽど信頼は強いみたいだ…。
俺は少し迷ったけど、断るのは失礼な気もしたので…
「うん…ネアがそう言うなら…ちょっと見てみたいかも…」
自然と頷いていた…。そんな俺の返事にネアもパッ…と表情を明るくさせると…
「ちょっと待っててね!秘密の部屋で育ててるから…持ってくる!」
トタトタトタトタ…
可愛らしい足音を響かせ、その場から立ち去っていった…。ほんのちょっぴり嬉しそうな表情をしていたよな…。それはそれで良かったかも…。
…なんて思っていたら…
「ふむ…どうやら変なタイミングて来てしまったようじゃのう…」
「…!リア…そんなところにいたんだ…」
ネアが出ていった扉の向こうからリアの姿が…。ネアと鉢合わせしなかったことから、微妙なタイミングですれ違ったようだ…。
「妾もお前に話しておきたいことがあっての…。あの娘が帰ってくる前に手短に話そうと思う」
「話すって…」
「妾のお前に対する思いじゃ…」
「…!」
もしかして…。
「気がついておるのじゃろう?…いや…マリーから聞いておるのじゃろうが…」
「…うん…その…リアが俺のことを…気に入ってる…というか…」
「ふん…恥ずかしがらずに言えばよかろう…。妾がお前に対し好意を抱いていることを…」
うーん…。なんというかスゴく話しにくいよな…。なんでリアが俺のことを好きなのか、わかんなかったけど…なにも今話す必要もないんじゃ…。
「ふん…。その表情…なぜ今話す必要があるのか…わからんようじゃな…」
「えっ…えっと…」
「これから国を変えるために命を懸けるんじゃからの…。妾の本心を伝えるにはいい機会だと思わんか?」
…そうか…。リアにしてみれば今しかないんだ…。俺に好意を抱いている理由…。もうこの先話すことができるかどうかわからない…。そう考えると、リアの考えも理解できる…。
俺のそんな思いを察したのか、リアは真剣な眼差しで…語りかけていく。
「最初に心引かれたのは…お前の容姿じゃ」
「俺の…?」
「金髪に赤眼…。妾と同じその姿…。妙な親近感を抱いての…」
そう言えば…俺も最初は自分の姿に驚いたんだよな…。ネアも不思議に思っていたし…。
「知っておるか…?その昔…金髪赤眼の持ち主は忌み子として…迫害の対象になっておったのじゃぞ?」
「えっ…!それは…本当なの?」
「ふむ…本当に知らんかったようじゃな…。妾も王族として生まれながら、この容姿のせいでよく疎まれたものじゃ…」
そんなことが…。俺がこの世界に来るタイミングによっては、いじめられていたかもしれないってことか…。
そしてそんな苦難を経験しながらも今を生き抜いてきたリア…。相当に大変な人生を送ってきたに違いない…。
「好意を抱く理由としてはそっけないものじゃが…それでも妾と同じ姿のお主を見るとな…。なぜか心に残ってしもうたのじゃ…」
「…」
「そして…そんなお前があのエルフの少女と仲良くしておるのを見ると…大人げない話嫉妬しての…それであんなことをしたのじゃ…」
「リア…俺は…ネアのことを…」
「わかっておる。お前のあの娘に対する思いは強い…。今さら誘惑なんぞせん…」
「…その…ごめん…」
俺は反射的に頭を下げることに…。本当なら謝る必要もないけど…ちょっと罪悪感を抱いてしまった…。
そんな俺の様子に…リアはふっ…と笑うと…
「…まったく…そんな調子であの娘を守れるのか?もう少し堂々とすることじゃな…。お主は妾が認めた数少ない男じゃろ?」
「…!…そうだね…俺…頑張るよ!」
リアからの言葉に…少しだけ自信が溢れてきた…。今まで肩にのしかかっていた不安もだいぶ軽くなっていく…。
まさか…こうしてリアから励まされるなんて…。なんだか不思議な感じだなぁ…。でも…ほんのちょっぴり緊張がほぐれたし…良かったかも…。




