表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

70 日常を破る悪意…そして再起

「グリン!大変!これ見て!」


 そう言ってネアは俺のところへやって来た…。今は太陽の照りつける朝…。俺はちょうど井戸で顔を洗っていたところだ…。起きたばっかりで眠気がひどかったんだけど…ネアの声で目が冴えてきた。


「ネア…どうしたの?そんなに血相変えて…」


 俺は呑気に…ボケたように尋ねると…



 バサッ…!ギュッ!



「うぷっ!?」


「もう!そんな呑気に…とにかく見て!この新聞!とんでもないことになってるの!」


 ネアは俺のそんな態度にイラついたのか、新聞ごと俺の顔に押し付ける…。勢い余ってひっくり返りそうになった…。

 …というかこんなところにも新聞って来るんだ…。森に囲まれた家にも届けてくれる…って大変な気もする…。

 まぁ…それはおいておいて…


「えっと…『王女様ご乱心!多くの被害をだし、独裁政治を敢行!』…って…えぇぇぇぇ!!?」


「どういうことなの?確か…襲われたのはリア様…の方よね?」


「そっ…そうだけど…なんかおかしいよ!…どうなってるんだ…」


 なんで…リアが悪者みたいに書かれているんだ!こっちは身の危険を感じたっていうのに…。こんなんだと城に帰ろうにも帰れない…。


 そんな俺の疑問に答えるかのように…朝早く起きたらしいマリーさんが、近づいてきた…。


「どうやらやられましたね…。ヴォルトが都合のいいように事実をねじ曲げ…それを新聞記者のものたちに言いふらしたようです」


「なっ…!」


「実際…ヴォルトは腕の骨を折られてますし、被害者として立ち回るのは容易ではないかと…」


 くっ…!あいつ…!自分から仕掛けておきながら、劣勢になったとみればそれを利用するなんて!


「くそっ!…こうなったら…!」


「…何をなさるおつもりですか?」


 俺の怒りに満ちた表情を見て…マリーさんは鋭い視線で睨み付ける。まるで、俺のこれからすることを非難するかのように…。

 

「そっ…そんなの…決まってるじゃないですか!ヴォルトのやつを探して…」


「…あの男を叩くつもりですか?それでは何も解決はしないでしょう…。ここまで大事になっているのですから…」


「だからって…なにもしないわけには…!」


「…今はリア様の安静が最優先です。勝手な行動はしないでください」


「うっ…!」


 …それもそうだ…。今行動を起こせばこっちにも被害が及ぶかもしれない…。なにより…ほとんど関係のないネアを巻き込むわけには…。


 頭を冷やした俺はすぐに頭を下げて、マリーさんへと謝ることに…。


「…すいません…。確かにそうでした…」


「まぁお気持ちはわかりますが…。マリーもこのような状況…心苦しいですから…」


 辺りに広がる重苦しい雰囲気…。どうしようもない…という思いが俺たちの間に影を落としていく…。

 そんな俺たちの様子を見てネアは…


「えっと…とりあえず朝御飯食べませんか?すぐ用意できますし…」


 その場の空気を変えるために朝食の話題へ…。そういえば少し香ばしい匂いがしてくる…。俺が起きる前から準備はしてたのかな?


「…そう…だね…。俺もお腹へってるし…」


「マリーはリア様をお呼びいたします」



 タッタッタッタッ…



 マリーさんはそう言うと、主のいる家の中へと向かうことに…。今回の件は…リアには言わない方がいいよな…。


「ネア…この事は…」


「うん…リア様にも言わないようにしないとね…。余計に辛い思いをさせたくないし…」


 俺の言いたいことを瞬時に理解したネアは納得したように頷く…。なんというか…本当に優しいよな…。

 

 それにしてもこれから大変なことになりそうだ…。この森から一歩も出ることはできないし、下手したらネアまで巻き込む恐れがある…。

 俺の力を使ってもこの騒ぎを静めることなんてできるわけないし…。


「…グリン…」


「ん?どうしたの?ネア…」


 そんな俺の表情を見て…心配になったのか、ネアが声をかけてくる…。その声にはいつものような明るさはない…。まるでか細い…小動物のような印象を持ちそうだ…。


「もし…リア様が元気になったら…どうするの?」


「…どうするって…それは…」


「誤解を解くために…城に帰るの?多くの国民を相手にして…。そんなことしたら…何されるかわかんないよ…?」


「う…ん…」


 ネアの心配はわかる。このままじゃダメなのは確かだけど、状況を改善するために動くのも正直危険だ。

 …なんだか…どうしようもできない自分に腹が立ちそう…。

 

 でも今は…


「ネア…ご飯食べよう。今はこんな話しても辛いだけだ」


「うん…そうね…。それじゃあ…すぐに用意する…」


「俺はお皿でも準備するよ。どれくらい必要?」


「あっ…えっと…ちょっと待ってね…」


「うん…」


 今だけは…辛い思いを忘れていよう…。これからのことは…あとで考えた方がいい…。俺はそう思うことにした…。





 カチャ…モグモグ…



 あれから…美味しく出来上がったネアの朝御飯を食べながら、俺たちは静かに過ごしていた…。もちろん新聞の話題は口にしない。とにかくリアの体調を気にするのが先…。

 そのリアはというと…


 「…」


 …なんというか…静かすぎる…。このままだと一週間…いや、一ヶ月近くこのままかもしれない…。なんとか機嫌だけは損ねないようにしたいけど…。

 リアの着るネグリジェ…その周りに漂う妖精達も少し困惑している様子…。どうすれば元気になるのか模索しているようだ…。なんか大変そうだなぁ…。


 なんて思っていたら…


 「…お主ら…妾に伝えるべきことがあるのではないか?」


 「「「…!!」」」


 一瞬…その声がリアのものであると気がつくのに遅れてしまった…。実に半日ぶり…それまでは沈黙を保っていたのに…。


 そんなリアの言葉に驚きながらも、マリーさんは丁寧に…落ち着いた様子で応えていく。


「…リア様…。マリーからお伝えすることはありません。ですので…」


「嘘じゃな…。マリーの顔を見ればわかる。よほど切羽詰まった事情がありそうじゃのう?」


「…!…申し訳ありません…」


 一瞬にしてマリーさんの考えを読み取ってしまったリア…。この人には嘘もつけないし、隠し事もできないようだ…。

 主からの言葉にさすがのマリーさんも頭を下げてしまったし…。それでもリアは責めるようなことはしない。


「…マリー…。謝らずともよい。妾のためであろう?」


「しかし…」


「ここまで迷惑をかけてすまんかったな…。妾はもう大丈夫じゃ…」


 そして…リアは俺たちの方に向き直ると…


「そしてグリン…そしてネアとやら…。こうして妾の世話までしてもらったこと…感謝する」


「そっ…それは…リア様も困っていましたし…当然のことかと…」


「当然とはいえ…妾はお前に迷惑をかけてきた。それを恩で返す…良くできた娘よ…」


「…あっ…ありがとうございます…」


 リアからの感謝の言葉にネアも驚いたようだ…。なんというか…こうして二人の会話を見るのって不思議な感じがする…。なんか…和むなぁ…。

 そんな俺の思いに反して、リアはスッ…と真剣な顔になると…


「…して話は戻るが…なにやら妾達にとって都合の悪いことが起きておるのじゃな?」


 確信の部分へと話を進めていく…。リアからの問いに…マリーさんは分かりやすくスラスラと説明することに…。


「はい…。ヴォルトが昨日の件を利用して、私達を悪党として世間に広めたようです。いずれは混乱した市民による暴動が起きるかと…」


「ふむ…それはマズイのぅ…」


 その場で思案するリア…。こういうときはホントに頼りになる王女様だ…。無茶な考えしなかったらいいんだけど…。


 そうしてリアの中で一つの考えがまとまったのか…



 スクッ…



 その場で立ち上がるといつもの調子で口を開いていく…。


「よし…マリー…そしてグリンにネア…。さっそくではあるが準備をせよ。二、三日後…妾の指示する通りに動くぞ」


「リア様…いったい何を…」


「おそらく城の方でもいくらかの混乱が起きておるじゃろう…。多くの国民が押しかけておるはずじゃ…。ここでゆっくりするわけにはいかんしの…」


「まさか…城へ乗り込むおつもりですか?民衆を相手に説得するおつもりでは…」


 マリーさんの表情…。落ち着いているようで相当焦っているようだ…。主の無茶な行動に衝撃を受けたんだろう…。なんか…俺もスゴく緊張してきた…。


「…ふむ…乗り込むのもいいのぅ…。しかし…そういった策は今回はなしじゃ」


「それでは…何を…」


「なに…それほど大胆な策ではない。まぁ…要するに…」


 そして…リアの口から出てきたのは、彼女らしからぬものだった…。








「この国の英雄になる…というものじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ