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68 大切なものとの時間…

 コトッ…



「ええっと…その…お茶です。お口にあうかはわからないですけど…」


「いえ、ありがとうございます。リア様に代わり、マリーからお礼をお伝えします」


 異様な雰囲気にネアは緊張しているようだ…。無理もない…。相手はネアも怖いと思っている王女様…。下手な動きを見せればへそを曲げて怒りだすかもしれない…。もっとも…こんな状態のリアには怒る気力はないだろうけど…。


 今はネアの家の中…リビングの椅子に皆で座っているところ…。事の事情を説明して、避難のために身を寄せることになったわけだ…。ネアは困っているとみるや、すぐに部屋の中へと案内してくれたけど…ちょっと複雑な思いを抱いていたみたい…。


「その…ゆっくりしてください。スゴく疲れているでしょうし…」


「はい。どれほど時間がかかるかはわかりませんが、リア様の回復を優先したいと思います」


 その当のリアはというと…


「…」


 さっきからこの調子…。言葉を口にすることもなく、態度に示すわけもでもなく…気の抜けたような表情を浮かべている。本当にショックがデカかったんだ…。


「あの…よろしかったら服を用意しましょうか?その…ドレスもボロボロですし…」


 気を利かせてネアがリアへと提案…。あまりにもひどい破れ方に思うところがあったんだろう…。確かに見た目は乱暴されたようで辛いよな…。


「…」


「えっと…あまりいい服とかないですけど…」


「…」


「でも!きっと気に入ってくれるかと…」


「…」


 うーん…。いくらなんでもここまで無言を貫くのはなぁ…。ネアもオロオロしちゃってる…。どうしたものか…。


「ネア様…。着服の前に外で体を洗ってもよろしいでしょうか?リア様も汗をかいているでしょうし…」


「マリーさん…でも…」


「さすがに賊がここまで来ることもないでしょう…。それに、この森は多くの動物たちが守っていますから…問題ありません」


「…そうですね…それじゃあ、お願いします…」


 確かに四人でこうしているより、マリーさんとリアが一緒にいる方がいいかも…。特にネアとリアの間には複雑な事情があるし…。


「ネア様…井戸をお借りしてもよろしいですか?」


「あっ…はい!大丈夫です…」


「ありがとうございます。それでは一旦失礼します…。リア様も…」


「…」


 

 スッ…タッタッタッ…



 …ガチャッ…パタン…



 リアとマリーさんが立ち上がって家から出たあと…二人っきりになったのがスゴく恥ずかしくなってきた…。たった一日のはずなのに…長い間離れていたようで…。


「えっと…お帰りなさい…グリン…」


「うっ…うん…ただいま…ネア…」


「…それ…さっき聞いたよ?」


「そっ…そうだね…」


「…」


「…」


 困った…。何か言わないといけないのに何も言えない…。話したいことがたくさんあったと思ったのに…言葉にできない…。何でだろう…。

 そんなふうに思っていると…ネアは優しく語りかけるようにして、言葉を紡ぎ出す…。


「ねぇ…たった一日しかたってないけど…私寂しかったの…。グリンはどうだった?」


「…俺も…寂しかったよ…。ネアがいなかったから…辛かった…」


「…ホントに?」


「うん…」


 他愛のない会話…。でも、俺の言葉に嘘はない…。こうして自分の本心を口にするのは気が楽になる…。そして…それはネアにとっても…。


「グリン…結構疲れたでしょ?顔にそう書いてあるもん…」


「うん…スゴく疲れた…。今までにないほど…」


「よかったら聞かせて?今までにどんなことをして…どんな話を聞いてきたのか…私気になるの…」


「そうだね…ちょっと長くなるけど…いい?」


「うん!」


 俺は今までの出来事…屋敷でのこと…取引のこと…会食でのこと…。それら全てを語れるだけ語ることにした…。それはもうビックリするくらいの時間の中で…。

 ネアも笑ったり…驚いたり…いろんな表情を見せてくれた…。ここまで感情豊かな姿は初めてかもしれない…。

 

 もしかしたら…けっこう時間を使うかもな…。




「…それでさ…ヴォルトのやつ…ひっくり返っちゃって…。俺としてはリアを助けるためにしたんどけど…」


「それは仕方ないわ!その…ヴォルト…がひどいことしたんだから…。グリンは悪くないよ!」


 けっこう話し込んじゃったな…。時計を見てないけど…相当時間はたってるはず…。でも、あまりにもネアとのお話が楽しいから苦でもない…。それに…気が楽になってきたし…。

 さすがににゃんこさんの話は浮世離れしてるからやめておいたけど…それでも意外と話せるもんなんだな…。


「それで…俺たちはすぐに脱出して…ネアの家まで来たんだ。追ってに追い付かれるかもしれないし…。なんていうか…その…ごめん…」


「謝らないで…。グリンが来てくれたのホントに嬉しいし…。人助けも好きだから…」


 ネアはそう言うと、少し恥ずかしかったのか…ちょっぴり頬を染めると俯いた…。そんな姿を見ると俺まで恥ずかしくなってきたな…。どうしたものか…。


「…グリン様…ネア様…お忙しいところ失礼します…」


「わっ…!」

「…!えっ…!」


 そうしていると横からマリーさんの声が…。話に夢中になってて気がつかなかった…。


「リア様のために衣服を用意したいのですが…」


「あっ…そうですね…。リア…さんは…?」


「外で体を洗っております。居心地がいいようで…まだ洗い終えそうもないですね」


「わかりました。すぐ用意しますね!」



 トタトタトタトタ…



 ネアはすぐに立ち上がると、席から離れて奥の部屋へ…。たぶんシンプルなネグリジェとかあるのかな…。

 そう思っていると…ネアの後ろ姿が見えなくなった頃合いを見て、マリーさんが俺の方へと声をかけてくる…。


「…それでどうでしたか?一日ぶりに再会した感想は?」


「あっ…と…その…恥ずかしかったですね…」


「そうですか…それは何よりです…」


 むぅ…。マリーさん…なんだかおかしそうに微笑んでるように見えるんだけど…。なんか楽しんでそうだ…。


「それにしても…ずいぶん嬉しそうで…。よほどネア様が大切なようですね?」


「ちょっ…!そんなこと…」


「マリーにはお見通しです。…まぁそれはおいておいて…少しよろしいですか?」


「?」


 …マリーさんの表情がいつもの落ち着いたものになり…真剣な眼差しを向けてくる…。いったいなんの話を…。


「先ほどリア様から今回の件で相談を受けまして…」


「相談を…?」


「はい…。今回の会食の件…リア様から聞いておりませんか?」


 そう言えば…何か企んでいるようだった…。その具体的な内容までは聞いてないな…。


「俺は何も…」


「どうやら…グリン様の力を使って何かをするようでした…」


「俺を?」


 確かヴォルトが大暴れするときも俺を頼ってたな…。俺なら暴動を静めれるとかなんとか…。


「元々、今回の暴動が起きることはリア様も承知のようでした。あえてそのように相手を挑発し…最後はグリン様の力で制圧…。それを周りの者に見せつけ、王女として認めてもらうつもりのようでした」


「…!そういうことだったんですね…」


「結果的にグリン様の行動が遅れてしまったことと、リア様も予期しなかった乱暴によって失敗になりましたが…」


「うっ…すいません…」


 そうか…。どこまでも計算高いと言うか…。リアもかなり思考を張り巡らせているようだ…。上に立つ人間ってここまで考えるものなんだな…。

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