67 思い出の場所へ…
あれから…。マリーさんが案内してくれたこともあって、俺たちは無事に脱出…。リアのドレスはボロボロになってしまったけど、特に目立った外傷もなし。ヴォルトに蹴られたお腹の痛みも穏やかになってきた…。
「…とりあえず…ここまで来れば問題ないでしょう。今すぐにでも衛兵のものに助けを求めたいところですが…」
「…そうですね…。でもヴォルトの動きも気になります…。城に帰ったらそれこそ襲われかねないかも…。マリーさんはどこかアテはないんですか?」
「…残念ながら無いですね。リア様の身柄を預けるのに信頼できるところは…」
参ったな…。このままだとヴォルトの手下に追い付かれる…。できるだけ遠くに逃げるにしても、リアの様子だとそこまで行けない…。
…いや…あそこなら…!
「マリーさん!俺の知り合いのとこなら大丈夫です!たぶん場所も知られずに逃げ込めるはずです!」
「…それはいいのですが…。その知り合いというのは…あの方ですよね?」
「はい…その…」
やっぱり難しいかな…。『あの人』とリアとの間には複雑な因縁があるし…。でも…
「…大丈夫です!困ってる人には優しいですから…。こっちの事情を説明すれば納得してくれます!」
「そうですか…。リア様はどう思われますか?」
マリーさんの何気ない問いかけ…。それでもリアの表情は驚くほど変化がない。よっぽどショックが大きいのか…。
リアの反応を見てマリーさんも心中を察したようで…
「…わかりました。ここはグリン様の言葉を信じましょう。今は隠れる場所が必要ですから…」
俺の提案にのってくれることに…
「わかりました!」
たぶん大丈夫…。俺はそう思いながら、二人を連れて『あの人』の元へ向かうことにした…。
それにしても…予定よりも早く会いに行くことになったな…。
※※※※※※※※※※※※※※※
…
「ここ…ですね…」
そうやってたどり着いたところ…それはネアの自宅だった…。
森の中を歩くのは危険な気もしたけど、動物たちは襲いかかることもなく見守ってくれる…。きっと俺が神様であることと関係があるんだろう…。
俺はリアの手を優しく握りながら、ドアをノック…。
コンコン…コンコン…
「…返事がないですね…。ネア様…はいないのでしょうか…」
マリーさんの当然とも言える疑問。ネアは森で色々と頑張っているようだし…出掛けているのかも…。鍵もかかっているから、まずはここで待つのがいいか…。
「とりあえずここで待ちましょう。ネアもそのうち帰ってくると思うので…」
「…そうですね…。この森の中なら暴徒に見つかることもないでしょうし…」
マリーさんも納得の表情を浮かべて、待機することに…。まぁ大丈夫だろう…。
今はもう夜の七時くらい…。この森までたどり着くのに時間かかったなぁ…。場所とかわかんなかったけど、『神様の力』を使ってすんなり行けたのは良かった…。
でも、これからどうしよう…。リアは疲れているのか、ショックがひどいのかさっきから喋ろうともしない…。それにヴォルトの動向も気になる…。あのままなにもしないとは思えないし…。考えることがいっぱいだ…。
そう思っていると…
『…ねん…ころ…り…』
「…!」
この懐かしい…それでいて暖かな雰囲気…。これは…もしかして…
「マリーさん!ちょっとここで待っててください!俺…行かなきゃ…」
「…!…わかりました。私はリア様と一緒にここにいますので…グリン様も早く向かった方がいいでしょう…」
「はい!」
マリーさんもそれ以上問いただすようなことはしない…。きっと、俺の考えを察してくれたんだろう…。本当に優しい人だ…。
俺は優しく握っていたリアの手を離すと、マリーさんの元へと託していく…。少しリアの表情が寂しそうだったのは見間違えじゃないんだろうな…。
「ごめん…リア…。すぐ戻ってくる…」
「…」
そして…
ダッ…!
足に力を入れてそのまま駆けていく…。自然と体は前に…行きたいところは決まっている。俺は…張り裂けそうな思いを抱きながら声のする方へと走っていった…。
―
…
『ねん…ころり…ねんころねんころ…ねんころり…』
どれだけ走っただろう…。いや、実際はそこまで走っていないはず…。でも、俺の体はまるで一日中走ったような感覚に支配されている。どっとした疲れもたまってきた…。
でも止まるわけにはいかない…。止まったら…もう会えないような気がする…。
タッタッタッタッタッ…
自分の走る足音が周りに響く…。動物たちは特に邪魔することなく、まるで通り道を譲るようにして散り散りになっていく…。
本当に…自分は特別な存在なんだな…。そう実感しそうだ…。
そう思っていたそのとき…
ザッ…
とある場所で足を止めることに…。ここは…そうだ…。確か俺がこの世界に転生した時の…そしてネアとの出会いの場所だ。穏やかな空気…静かな空間はあのときと変わらない…。
「…ねんころねんころねんころり…。…なんかすごく寂しいよね…。たった一日しかたってないのに…」
そのとき…太い幹を持つ大木の根元で座り込んでいる少女が一人…。ウサギのような動物を撫でながら独り言を口にしている。
白銀の髪の毛…妙に長い耳…青の瞳…。間違いない…彼女は…。
ザッ…
一歩前へ足を踏み出す…。その音と同時に少女は俺の方を向き…
「…えっ…?」
突然の来訪者…本来ならいないはずの存在に目を見開く…。その先、何を言えばいいのか困っているような表情は妙に可愛い…。
俺はすでに用意していた言葉を口にする…。
「…ただいま…ネア…」




