66 王女様の想定外
「ヒィィィ…!!やめてくれぇぇ!!」
「ちょっ…!あんたたち…!やめっ…!」
「にっ…にげろぉぉ!!」
あっという間に大広間は大混乱…。たくさんのチンピラが大暴れし、それに恐怖する貴族の人たち…。もはや会食どころではない。
「…なんじゃ…。頭を下げればことが収まると思ったのかのぅ?ヴォルトはそんな男ではないぞ?」
「何が…くっ…!こうなることはリアもわかってるはずじゃ…!」
「そのためにお前がおるんじゃろう?まだわからんのか?」
倒れ込む俺の姿を見ながらリアはさも馬鹿にしたように微笑んでいる…。こんな状況だというのに何を考えているのか…。今にもチンピラの暴力が飛んでくるかもしれないのに…。
…俺にできること…。リアは俺に何をさせたいんだ?ヴォルトさんに腹を蹴られてうずくまるだけの俺には何もできないのに…。
…あれ…そう言えばこの展開って前にもあったよな…。ネアとご飯を食べに行ったときもこんなことがあって…俺の力で…確か…。
「あのときのように…もう一度妾に見せてくれんか?お前の力とやらを…」
「なっ…!?」
「できるじゃろう?前は三人…今度は二十人ほどじゃ。全員を倒すことぐらいわけなかろう?」
そっ…そんな…!まだ神様の力が上手く扱えないってのに…!リアは俺を使って、チンピラたちを静めるつもりなんだ…!だからヴォルトさんに無茶苦茶高圧的に接して…。
でも、いくらなんでも博打が過ぎる!完全に俺の力次第じゃないか!
そんなことを思っていると…
「おい!ゴチャゴチャうるせぇよ!!何お前らだけで話してんだぁ!?あぁ!?」
すぐ側にいたヴォルトさんがイライラした様子で怒鳴りかけてきた…。さっきまで余裕のある表情が、いつの間にか赤くなっている…。
この状況なのに一切焦る様子のないリアに、余計イライラしたんだろうか…。
「む…?なんじゃ…まだそんなとこにおったのか?」
「てめぇ…なんでそんな悠長に構えていやがるんだ!逃げるなりなんなりしてみろよ!」
「ほう…妾のそんな姿が見たかったのか?子供じゃのぅ…」
「このやろう…!!」
ヴォルトさんとしてはリアの醜態を期待していたみたいだ…。本当に幼いというか…。でも、どれだけ幼い存在でもタガが外れれば…。
「もう容赦しねぇ!今ここで…てめぇを犯してやる!!」
「…!」
グッ…ドシャァァ…!
リアのドレスが乱暴に掴まれ、そのままの勢いで押し倒された…。突然の出来事…俺は一瞬頭が追い付かなくなってくる…。
ヴォルトさんはリアを見下ろしながら、勝ったとでも言いたげな様子でニヤリと笑い…
「へっ…!ふざけた王女様のくせしやがって…いいカラダしてんじゃねぇか!」
ギュッ…ビリビリィ…!!
ドレスの胸元を乱暴に破り始めた…!深紅の生地が周囲に舞い散り、リアの素肌が露になってくる…。
「貴様…!何をする…!?」
「うるせぇ!黙ってろ!」
リアとしても予想外のことだったんだろう…。少し焦った様子で抵抗しようとするが、ヴォルトの力には及ばない…。両腕を掴まれた状態で拘束されてしまう。この男…本当に最悪なやつだ!!
「その様子…処女だな?まともに男としたことねぇんだろ?あぁ!?」
「くっ…この…!」
「あぁ…なんかおもしれぇわ!お前みてぇな高飛車お嬢さんを犯すのは気分がいいぜ!へへっ…」
くそっ…!このままだとリアがひどい目に遭う!俺が何とかしなきゃだけど…お腹の痛みがひどくて力が上手く使えない…!なんでこんなときに…!
そのとき…
「…グリン…助け…て…」
「…!」
リアの弱々しい表情…涙ぐんだ瞳が俺の方を見つめる…。そこにはいつものような傲岸不遜な絶対王女の姿はない…。か弱い少女がいた…。
…俺にできるのか…。大規模な暴走を前に俺一人の力で…。でも…やるからにはやるしかない!
「くっ…うぐっ…」
俺は痛む体を無視して、神経を集中…力を使っていくことに…。やっぱり痛覚が邪魔をして扱うのが難しい…。でも、あのときと同じように…誰かのためなら…!
「へっ…なかなかデケェもん持ちやがって…楽しみだぜ!」
ヴォルトの右手がリアの胸を触ろうとした瞬間…
「…それ以上…リアに触れるな!!」
ビシィィィィィ…!!ビキィィ…!!
俺の叫び声と同時に、変に嫌な…何かが折れたような音が…。その瞬間…
「あっ…!!?ぎっ…ぃぃぃぃぃ!!?イデェェェェ…!!」
ドシャッ…
ヴォルトが右腕を掴みながらひっくり返ってしまった…。もしかして…
「腕がぁぁぁぁ…!!ヒィィィィ…!!?」
間違いない…腕の骨が折れたんだ…。『神様の力』の効力についてよくわかんなかったから、適当に念じただけだったのに…。前は腹痛…今度は骨折…。なんでもありなんだな…。
「ヴォルトさん!どうしたんすか!?」
「おい!なんかヴォルトさんがヤベェぞ!」
「何が起きてんだぁ!?」
あまりにも突然の出来事…。周りで暴れていたチンピラたちも、主の異変に気がつき集まり出した…。
俺はその隙をついて、痛む体を引きずりながらリアの元へ…。
「…くっ…早く逃げよう!…下手したら…捕まるかもしれない!」
「…」
「とにかく…急ぐよ!」
グイッ…!
俺は少しだけ放心しているリアの手を引いてそこから離れることに…。
リアが何を企んでいようが関係ない!今すぐに避難する方が先だ!幸いにも他の貴族たちも外へと逃げていったようだし…。それほど大きな被害もなかったようだ…。
…あっ!マリーさんはどうしているんだろう…。確認しないと…
「…私ならここにいますよ」
「うわっ…!ビックリした…無事だったんですね!」
俺の背後からやって来たマリーさん…。見た感じ特に怪我もなく大丈夫なようだ。よかった…。
「はい。なんとか暴徒の嵐から命からがら…。リア様のそのご様子は…」
「それよりも早く逃げましょう!リアもドレスが破れてますけど…無事です!」
「わかりました…では、私に付いてきてください。すぐに脱出しましょう」
「はい!」
なんとしても無事に逃げないと…。それが今の俺にできることなんだから…。




