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65 駆け引きなしの暴動

「ほぅ…お前はヴォルトじゃな?ヴォルト・ウォルニアス…。数多くのカジノを経営しておるそうじゃないか…」


 突然の暴動にも焦ることなく相対するリア。いつ襲われるかわからないというのに…ほとんど動揺していない。

 対するヴォルトさんはそんなリアの態度が気に入らないのか、さらに怒気を強めて叫びだしてきた。


「このっ…糞アマァ!!てめぇのその上から目線…マジでイラつくんだよ!!」


 なんというか…子供っぽいな…。ヴォルトさんの見た目は若そうな二十代。茶色の頭髪を少し長めに揃え、髭のない整った顔からは紳士のような雰囲気を感じる…。服装も埃ひとつない燕尾服を着ているし、パッと見は印象もいいんだけど…。


「ふむ…そんなに妾が気に入らんのであれば、ここまで来ることじゃな…」


「あぁ!?言われなくても行ってやるよ!」



 ドスドスドスドス…



 ヴォルトさんの荒々しい呼吸…乱暴な歩き方…。間違いなく怒っているのは確かだ。両手には特に危険な凶器を持っていないようだけど…リアが心配…。



「ヴォルト殿!あまりリア様を怒らせるのは…」

「やめたまえ!それ以上は危険じゃ!」

「ちょっ…それはまずいわよ!」



 ヴォルトさんの横暴に苦言を呈する他の貴族たち…。皆これ以上は事を荒立ててほしくない…と思っているのか、表情には不安を浮かべている。

 それでも歩みを止めないヴォルトさん…。周りの声にはまったく反応していない。それほど頭にきているんだろう…。

 そして…



 ザッ…



「へっ…俺から逃げねぇとは…とんだ王女様だな!あぁ!?」


「ふん…バカなやつじゃ…」


 リアとの距離は一気に縮まり…手を伸ばせば触れるほどまで…。下手な動きを起こせば、それこそ大問題。どうなることか…。


「…そんでよ…さっきの内容…本気で考えてんのか?俺たちを敵に回すってことだぞ?マジに考えてんのか?」


 ヴォルトさんの異常ともいえる脅し…。なんだかヤ○ザのような危うさを感じる。もっとも、カジノを取り仕切っているような人だから、当然といえるかも…。


 そんな脅し文句にもリアは屈することはない。相手を挑発するように、さらに追い詰めていく。


「ふむ…お前もまったくもってくだらんのぅ…。少し叱りつけただけでひねくれるとは…。そこら辺にいるだだっ子のようじゃ…」


「んだとォ!?」


「よくもまぁ…そのようなナリでここまで成り上がったものじゃ。もっとも…相当悪どいことをしたようじゃが…」


「うるせぇよ!黙ってろ!」


 終始互いに言い合うだけの様子…。だが、このあとに何が起きるかはなんとなくわかる。たぶん、リアに暴力を降るか…他の仲間を呼んで盛大に暴れるか…。リアは考えなしに、こんなことをするようなやつじゃないはずなんだけど…。


「…ったくよぉ…そんな調子でなんでもてめぇの思い通りになると思うなよ?こっちにも考えがあるからよ…」


「む?考え?なんのことじゃ?」


「へっ!そんなもん決まってるだろ…。おい!お前ら!出てこい!」


 瞬間…



 ガチャーン!ドタドタドタドタ…パリーン!



 「へへ!お邪魔するぜぇ!」

 「おいおい…なんだよこれは!めちゃくちゃ面白そうじゃねぇか!」

 「ヒヒヒ…」


 突然の来訪者…ガラの悪そうな若い男たちが窓をぶち破って入ってきた…。ザッと見たところ二十人ほど。皆手にはナイフなんかの凶器を持っている。


 「ほぅ…他人の力を借りるとは…やはりくだらん男じゃのう…ヴォルト」


 「へっ…言ってろ!どうせお前にどうこうできるもんでもねぇ!」


 予想はしてたけど、まさかここまで準備していたなんて…。ヴォルトさんはこうなることを見越してチンピラたちを用意したんだ…。


「…さーて…天下のお嬢さん。ここまでされてもさっきの言葉を押し通すかい?なんだったら…ここで大暴れしてもいいんだぜ?」


 勝ち誇ったように、嫌らしい笑みを見せるヴォルトさん…。さっきまでの憤りにも余裕が生まれて、逆に楽しんでいるようにも…。なんだか友達にはなりたくないような性格だ。


「ヴォルトさーん!そろそろ暴れてもいいですよねぇ!なんかストレスたまってよぉ…!」

「うひひ…なんならそのお嬢様に乱暴してやりましょうや!」

「ヴォルトさんよぉ…やっちゃいましょうや!」


 そんな中でも下品な言葉を吐き続けるチンピラ…。いくらなんでも分が悪すぎる!すぐに止めないと…!



 ダッ…!



「…!グリン様!危険です!戻ってください!」


 マリーさんの声を無視して、俺はその場から走り出していた…。周りの様子なんてどうでもいい!とにかく…この状況をなんとかしておきたい!そんな思いで、俺はリアの元まで駆け寄っていく…。



タッタッタッタッ…ザッ…!



「…リア!とにかく危険だよ!この場は一旦引かないと…」


 そう言いながらやって来た俺にリアは…


「ふん…なんじゃ…今頃来たのか?遅いぞ?」


 …?まるで予定通り…というような表情で笑みを浮かべている…。なんでそんな悠長に…。

 そんな俺の疑問を打ち消すかのように横からヴォルトさんが口を挟んでくる…。


「なっ…なんだぁ!?てめぇ…勝手にしゃしゃり出てんじゃねぇぞ!!」


 む…。確かに突然出たのは俺だけど、ちょっとムカついてきた…。けど今は冷静に…ヴォルトさんを説得しよう!


「その…リア…様のご無礼…ええと…申し訳ありません…。先程の言葉は余興のようなものでして…その…」


「あぁ!?執事のてめぇがなにいってんだぁ?黙ってろ!」



 ドスッ…!



「うぐっ…!」



 …また蹴られた…。なんというか…この世界ではよく蹴られるなぁ…。

 しかも思いっきり腹を蹴られたこともあって、その場にすぐ倒れてしまった…。当たり所が悪かったのか、すぐに立てないかも…。

 そんな俺の様子を見て、不愉快な表情を浮かべたヴォルトさんはついに…


「あぁ~…マジでムカついた!!もう容赦しねぇ!!お前ら!ここにいるやつ皆ぶっ飛ばせ!今日の俺はめちゃくちゃ気分ワリィからよぉ…そこの糞アマもなにもかもヤっちまいなぁ!」



「ヒヒィ!!ヴォルトさんの許しが出たぜぇ!」

「俺もスッゲェ楽しみだぁ!」

「女もジジイもぶっとばしてやるぅ!!」


 くそぉ…!ここまでなのかよ…!

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