64 これからの変革…そして波乱
「ちょっ…!何を言ってるんですか!…リアが…その…えと…」
うっ…あまりにも突然のことに頭がついてこない…。リアが…俺のことを…なんて…。
「グリン様…。何をそんなに驚いているのですか?いくらなんでも慌てすぎです」
「だって…そんなこと言われたら…!」
「心当たりはあるんじゃないですか?リア様から何かしらのアプローチはなかったのですか?」
…アプローチ…。そう言えばあったかも…。俺がリアに誘拐されてから、屋敷に閉じ込められたとき…。確か…
「…リアに…その…はっ…裸で言い寄られたような…」
「…グリン様はそれにどのような応え方をしたのですか?」
「うっ…!」
あのときの告白…リアにとっては本気の想いを伝えていたのか…。それを俺は…
「…はぁ…変態ですね」
「そっ…そんなの…!」
「言い訳は無用です。女性の想いを適当に応えるような男だとは思いませんでした」
「…!」
女性の想い…。確かに俺がひどいことをしたのは間違いない…。ネアのことがあるにしても、あんな言い方をしてしまったのは良くないし…。いつかは…俺の方から謝らないと…。
「マリーさん…俺…」
「謝る機会ならこのあとにいくらでもあります。そのときに誠心誠意、グリン様の出来る限りを尽くして、本心を伝えたらいいじゃないですか?リア様もわかってくれるはずです」
そう…だよな…。リアにしっかりした言葉で伝えないと…。俺にはネアがいるって…。相手を振るのは苦しいけど…嘘をつくわけにはいかない!
「マリーさん!ありがとうございます!俺…取り返しのつかないこと…」
「大丈夫ですよ。まだ間に合うはずです。リア様は乱暴なようで賢い方ですから、エルフの少女と会うことも許してくれるかもしれません」
「…!わかりました!」
よし!なんだか…少し前向きに考えるようになってきた…!リアと和解して…いつかはネアと再会できるように頑張るぞ!
―
…
その時…
「えー…それでは皆さま!楽しく歓談の最中だとは思いますが…ここでリア様より貴重なご報告があるとのことです!申し訳ありませんが、会場手前までお集まりください!」
場内に響き渡るアナウンス…。ここまで声が大きいのも魔法とか使ってるのかな…。
俺のそんな思いとは別に周りの人々は続々と動き出していた…。さっきまでのやんわりとした雰囲気からピリピリしたものに…。いったい何があるんだろう…。
「さて…私たちも行きましょう」
「マリーさん…。…そう…ですね…」
リアはこの会食で何かをしようとしてたみたいだったけど、ここで説明があるんだろうか…。
そうして多くの貴族の方や執事、メイドさんが集まってきた頃…。
コツコツコツコツ…
「…ふむ…どうやら皆集まっておるな…」
赤のドレスに身を包んだリアが舞台の前に現れた…。さっきまで一緒にいたけど、なんだかより美しくなっているような…。金の髪の毛も赤の瞳も光っている…。それが…より一層存在感を増しているようだ。
「…こうして集まってもらったのは他でもない。以前から問題になっておった、この国の財政状況…。そして、民衆の不平不満についてじゃ」
…横暴そうに見えたリアも、この国の行く末には苦労していたんだろうな…。もっとも…マリーさんの話を聞いたから、そう思ったんだけど…。
「多くの者は先代から続いた悪政によって苦しんでおった…。貧しいものは貧しく…豊かなものは手厚く…。じゃが…妾はそのような舵取りは好かん。そこでじゃ…これからはそうしたやり方をやめ、より効率よく金を産み出していこうと思う」
ザワザワザワザワ…
リアの突然とも言える宣言…。それはここにいる人々にとっては困惑するものだったようだ…。でも仕方ないかも…。今になって政治のやり方を変えましょう…なんてのも、貴族階級の人々からしたら面倒極まりない。
「リア様!それはどういった政策なのですか!」
「私たちにもわかるように…」
「まさか…儂らの金を下のものに回すなどと…」
次々と沸いてくる反発…疑心…。それはリアに対する非難をぶつけるかのようで…。それでも…
ズォォッ…!!
「「「!!!」」」
リアの威圧によって一瞬にして静まった…。表面的にとはいえ、敵対勢力は容赦なく処刑する暴君…として振る舞っているのが相当効いているようだ…。
「…ふむ…。とりあえず静まったようじゃな…。お前たちの気になることはこれから説明していこうかの…」
皆の視線を集めてなおぶれることのないリア…。その口からは事前に決められていたかのように、スラスラと言葉が流れていく…。
「まず…この国の税制についてじゃが、基本的には富めるものには重く…貧しいものは軽くするつもりじゃ。以前のような貧しいものにだけ負担のかかる税収は無しと言うわけじゃが…異論のあるものはおるか?」
…
リアからの問いかけに、皆一斉に黙るしかないみたい…。本心としては当然認めたくないだろうけど、リアの気迫…そして現実的な問題を前にしたら仕方ないと思ったのかも…。
「次に、働くものに対する賃金制度じゃが…最低賃金の引き上げを行う。そうじゃな…現在の1.5倍ほどにするかのぅ…」
「「「…!」」」
部屋に広がるあきらかな動揺…。おそらくここにいる貴族階級の人々にとっては、痛いところを突かれたようだ…。
多くの人々を雇い、少ないお金を渡してきた今の労働体制への変革…。間違いなく反発も大きなものになる…。大丈夫なのかな…。
「待っていただきたい!そこまでされたら…こっちの経営も傾いてしまうではないか!」
「そうよ!いくらなんでも横暴すぎるわ!」
「もう少し考えていただけませんか!」
うわぁ…なんか予想はしてたけど、やっぱり無茶だよ…。リアも考え直す必要があるんじゃないのかな…。
そんなことを思っていると、リアはうんざりしたようにため息をついて一言…。
「…くだらんのぅ…」
「「「…!」」」
一瞬…その場の空気に溢れんばかりの憤りが…。それでもリアは周りのものに聞こえるように、無礼とも言える言葉を並べ立てる。
「お前たちは自らの行いに胸を張れることができるのか?妾が調べただけでも、ここにいるもののほとんどは私腹を肥やしておるようじゃぞ?それだけではないな…。一部には命を落とした労働者の存在をうやむやにして、事実を揉み消したものもおるようじゃな?」
…今気がついたんだけど、リアは本当に目敏いというか…。『熱光石』の件でもわかったんだけど、ただふんぞり返っている王女様とは思えないほどしっかりしている。たぶん…そこら辺にいる貴族の人よりも周りが見えている。
もっと前から…この人が国のトップに立っていれば、今の現状は変わっていたのかもしれない…。性格はアレだけど…。
「ここであえて言おう…。前国王はクズであったと!強きを助け、弱きを虐げるだけの愚王であったと!もしお前たちもその愚王を支持するなら…妾は容赦せん!変わるなら今じゃ!この国に…これまで見たこともないような栄光を見せてやろうとは思わんのか!」
リアの力強い演説…。それは今まで見た中でもっとも気高く、覇気に溢れるものだった…。この人なら…もしかしたら…
「うるせぇぞ!この売女野郎!!ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!」
ガチャーン!!…パリンッ!!
その時…後ろの方から乱暴な音を鳴らしながら一人の男ががなり立ててきた…。テーブルにおいてあったグラスや皿が割れて、食べ物も散らばっている…。
「…ったくよぉ!王女様だかなんだか知らねぇが…なんでもやっていいと思うんじゃねぇ!!俺たちにとっちゃ…今のこのヌルイ感じが居心地いいのはわかりきってんだろうが!あぁ!?」
なんだか…これからひと波乱が起きそうなんだけど…。




