60 とあるハプニング
「それよりも…ご自身の立場を忘れたわけでは…ありませんよね?」
「…え?」
「あなたの腕にはめている魔法具…。それはあなたの感情とリンクしております。一度我々に対して強い敵対心を抱いたとき…または逃げ出そうとしたとき…爆発を起こすことをお忘れですか?」
あっ…そういえばそうだった…。俺が一人で逃げ出さないように、変なものを腕につけられたんだっけ…。
爆発するとは聞いてたけど…なんか怖いなぁ…。規模は腕を吹き飛ばすだけだから、そんなに威力があるわけじゃないけど…。
「…わかってますよ…。俺を縛り付けるためのものなんですよね?」
「そうです…。私たちに対する失礼な行為…それこそスカートめくりをするだけでも発動する可能性がありますので…下手な行動はしないでくださいね」
「いや…そんなしょうもないことしませんよ…って、スカートめくりでも発動するんですか…」
うーん…聞いた感じこの魔法具は使い勝手がいいのか悪いのかよくわかんないな…。とりあえず気を付けよう…。
―
…
…さてと…そろそろかなぁ…。歩き続けて時間も相当たってきたし…。奇襲をかけられることもなく、今のところ安全にここまで来た…。
まぁ…かなり準備してきたことだし当たり前かな…。この調子なら大丈夫だろう…。
…なんて思っていたら…
…ゼンポウ…キケン…トオマワリ…バクダン…アル…
「うっ…この声は…!」
俺は歩きながら頭を押さえた。周りのものには聞こえていないこの声…。間違いない…これは…
「にゃんこさんの言ってた…神様の力…」
一応俺に危害を加えるようなものではないって聞いてたけど…。こう…頭に響いてくるのはちょっと迷惑かも…。
それよりも…。この声がしたってことは俺を助けるため…何か危険信号を送ってるってことなんだろうか…。
前方に…爆弾?本当にそうだとしたら…ヤバイ!確かに爆弾なら俺達を吹き飛ばすことはできる…。どんな対策をしようとも事前に仕掛けられているなら…対応できない!
とにかく俺はマリーさんに向かって、危機的状況にあることを説明することにした…。
「マリーさん!大変です!この先に爆弾があるみたいです!えーと…別ルートで行かないと…」
焦りに焦った俺は、とにかく言葉を選びながら口を開いていく…。それに対するマリーさんの反応は…
「…何を言っているのかよくわかりませんね」
…当然の反応をすることに…。そりゃそうだ…。突然爆弾があるから遠回りしろ…なんておかしな話…。
でも…このままだとたいへんなことになる!なんとしても…説得しないと!
「とにかく!この道は危険です!早くルートを変更しないと…」
「…はぁ…。そんなことを言われてすぐにできるわけないでしょう…。これほど大規模なんですから…。根拠があるなら話は別ですが…」
「そっ…それは…」
ダメだ…。爆弾が仕掛けられていることがわかっても、誰が…どうやって…といったものはわからない…。
神様の力は詳細には教えてこないし…説得するのは難しそうだ…。どうすれば…
「なんじゃ?マリー…何やら揉めておるようじゃが…」
そんな俺達の様子が気になったのか…リアが俺達のもとへ…。さっきまでの気だるそうな様子はマシになったようだ…。少しばかり安心した…。
よし…とりあえず…
「リア…様!この先に爆弾があります!遠回りして向かいましょう!」
「…」
「このまま歩いたら甚大な被害が…。とにかくルートを変更しましょう!」
「…」
うーん…反応はいまいちだ…。まさかリアも俺の言葉を信じないのかなぁ…。そうだとしたら、何とかしないと…。
「リア様…どうされましたか?まさかとは思いますが…グリン様の言葉を…」
マリーさんは神妙な顔して主の答えを待っている…。たぶんリアの言うことには従うんだろうけど…どうなることやら…。
そんな俺達の様子にリアは…
「マリー…お前の考えも何となくじゃがわかる…。こんな小童の言葉を信じることができんじゃろう…?」
「…リア様…」
「じゃがのう…こやつには不思議な力がある。おそらく…妾と同じようなものがな…。妾はこいつを信じてみようと思う…」
「!…しかし…」
「なに…そう慌てるな…。妾にも考えがあってのぅ…」
「…リア様がそうおっしゃるのであれば…」
よっ…良かった…。とりあえず説得には成功したかな…?リアの考えってのが気になるけど…未然に被害を出さずにすんだからいいや…。
「さて…他のものにも伝えなくてはいかんのぅ…。ルートを変更し、そのまま目的地まで…マリー…グリン…頼むぞ?」
「…はい…承知いたしました」
「…はっ…はい!」
そんなこんなで…俺達はリアの指示にしたがって道を変更…。多少の混乱はあったが、皆渋々納得してくれたようだ…。
取引相手には失礼かもだけど、遅れても大丈夫…だよね?
―
…
「リア様!どういうつもりですか!指定時間に遅れておきながら…取引など…!」
うわぁ…やっぱりダメだったかなぁ…。今回の取引相手…パルヴォルーナ家の皆は相当ご立腹だ…。特に主人のリヴォル・パルヴォルーナさんは顔を真っ赤にさせている…。こんなんじゃ…取引なんてできないよ…。
「なんじゃ?妾に対して失礼ではないかのぅ…?」
「失礼なのはあなたでしょう!約束の時間を大幅にオーバーして…よくそんなことが言えますね!」
相手が王女様であるにも関わらず、リヴォルさんは語気を強める…。それだけ今回の取引は気合いを入れていたんだろうか…。そうだとしたら…悪いことしたなぁ…。
…と思ったら…
「ほぅ…なるほどな…。どうやら、最後まで隠し通すつもりのようじゃな…リヴォルよ…」
「はっ!?…なっ…なんのことを…」
突然のリアの問いかけ…。俺にも何を言っているのかよくわからない…。一体…どういう意味なんだろう…。
そう思った直後…リアの口からとんでもない言葉が紡がれた…。
「今回の件…妾たちに危害を加えようと爆弾を仕掛けたのは…お前たちじゃな?」




