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56 深い失意

「…ネアのことは…わかりました…。なら…王女様に会わせてください!すぐにでも会って…話だけでも…」


「リア様もお忙しい身でして…今日中には無理ではないかと…」


「ふざけないでください!俺…こんなところで…くそっ!」



ボフッ!…



意味もなく…やり場のない怒りでベッドを叩く俺…。


どうしようもできない…。

そんな無力感に支配されそうだ…。


そんな俺の様子を見ても動じず、メイドさんは淡々と告げる。


「お夜食を用意いたしましょうか?特にこの季節にはぴったりのマネの鍋料理がありますが…」


「…いりません…」


「そうですか…それでは何かあればそちらのお電話をお使いください…それでは…」



ガチャ…キィィィ…バタン…。



メイドさんもいなくなった部屋で…俺は途方にくれてしまった…。

せっかく…この異世界で生きようと思ってたのに…。

こんなことになるなんて…。


ネア会いたい…。


今はそれだけしか頭になかった…。



※※※※※※※※※※※※※※※



…はぁ…疲れた…。

なにもする気になれない…。

食事も…ネアの手料理以外食べる気にもなれないし…。

さっきからウロウロするだけだ…。


…気がつけばすでに深夜…。

たぶん…ほとんどの人は寝静まった頃のはず…。


なんとかしてここから脱出したいけど…。


窓ははめ殺し。

ドアは頑丈な造りで、鍵が外からかけられている…。


ここからの脱出は難しそうだ…。

いや…脱出したとしても見張りがいるかもしれない…。


仕方ない…。

明日…リアとの話し合いに賭けるしかないか…。

もっとも…俺の話を聞いてくれるかはわかんないけど…。


そんなことを思っていると…



ガチャッ…キィィィ…



扉の開く音…。

本来であれば誰もここに来ることはないはず…。

もしかして…ネアが助けに来たとか…


「…ふむ…どうやら落ち着いておるようじゃな…」


「…!あなたは…!」


「ふん…なんじゃその目は?…まぁ気持ちはわかるがな…」


リアが…俺を連れ去った張本人が入ってきた…。

白のネグリジェを身に付け、透き通るような肌を露出させている…。


なんのつもりなんだ…。


「…何の用ですか?」


「そう邪見にするな…。少し様子を見に来ただけじゃ…」


…様子を…。

そんなことを言って油断されるつもりなんだろうか…。

狙いがはっきりしないけど…俺を利用しようとしているのはわかりきっている…。


気を付けないと…。


リアは小馬鹿にしたような笑みを浮かべると…俺の心を見透かしたかのように口を開く…。


「さて…妾がこうして入ってきたのは…お主としても都合がよいのではないかのう?」


「なっ…なんのことですか!」


「ふふん…どうやら妾と話がしたいと言っていたそうではないか…」


…メイドさんから聞いたのか…。

よほど俺の事が気になるのだろうか…。


「…それなら話が早いです…。俺を出してください!」


「…無理じゃ」


「なっ…なんでですか!」


「お前は妾のものになったからのぅ…。未来永劫…ここでこき使うつもりじゃからな…。逃がす気はないぞ…?」


未来永劫…。

相手が危険な王女様とあって、嘘やハッタリではないように思える…。


こんなとき、不思議な力でなんとかできれば…なんて思ったけど…。

さっきから念じてもなにも起きない…。

どうしよう…。


そんなことを思っていると…



パラッ…パラリ…



「なっ…何をしてるんですか!!」


「ふむ…どうやらお前もこういったことは初めてかのぅ?」


リアが…身に付けていた衣服をどんどん脱いでしまった…。

まるで…俺を誘惑するかのように…。


美しく…月明かりに照らされたリアの体…。

やや膨らんだ胸や柔らかそうな肌…。

そこから漂ってくる女性特有の甘い匂い…。


それは…俺の心を乱しているようで…。

…でも…そんなものに負けるわけには…!


「…そんなことしても…俺の心は動きませんよ!」


「そうかのぅ?…お前も男であるなら…妾に対する欲望も持っておろう?遠慮することはないぞ?」


いたずらに微笑むリア…。

まさか…俺の心を試しているのか?

ネアと天秤にかけてどちらをとるのか…楽しんでるんじゃ…。


そんな俺の疑心暗鬼にも臆することなく、リアは近づいていく…。

そして…


「さて…これでもかのぅ?」


もう俺の目の前まで…。

こんなに異性に近づかれるなんて…心臓がドキドキする…。



ギュッ…



「…うっ!」


俺の反応を観察するかのように…今度は俺の手を優しく握るリア…。

細く…それでも健康的な女性の手…。


俺の手を滑らかに触り…うっとりしている…。


「…不思議じゃのぅ…お前を見ていると奪いたくなる…。あんなエルフにはもったいないと思うほどにな…」


「なっ…!かっ…からかわないでください!!」


「からかってはおらんぞ?なんなら…ここで妾の純潔を捧げてやろうかのぅ?」



ドサッ…



そのまま…俺はリアに押し倒されるようにしてベッドへ…。

ホントなら逃げることもできたのに…なぜかできなかった…。


俺には…ネアが…。


「…どうじゃ?お前の心臓も鼓動が速いようじゃが…」


「こっ…こんなの…間違ってます!」


「む?」


「こんな…無理矢理なこと…俺は納得しません!」


「…納得…?」


「それに…あなたもこんな形は嫌じゃないんですか!?王女様とはいえ…めちゃくちゃです!」


「…」


俺の必死の説得…。

正直うまくいくとは思えないけど…自分の本心をそのまま伝えることに…。


「…お前は…そんなに妾が嫌なのか?」


「えっ?」


「妾はこんなにも美しいのに…お前は嫌いなのか?」


「はっ…話をそらさないでください!」


「そらしてなどおらん!!」


一瞬…ビックリするほどの覇気が…。

感情的になった王女様の勢いは…俺の体全体を響かせるほどだった…。


…一瞬の沈黙のあと…


「…もういい…今日はやる気をなくした…」



サッ…



リアは俺から一旦離れると…すぐに衣服を身に付けていく…。

表情からは落胆の色が…。

まるで…自分の思い通りにいかなかったことが不満なようで…。


「…つまらん男じゃな…」


去り際に呟く声…。

俺はその言葉に反応することなく…リアの後ろ姿を見るだけだった…。



ギィィ…ガチャン!



…扉が閉まると…今度こそ誰も部屋に入ってこなかった…。

まるで…俺を一人にするかのように…。


さっきのリアの言葉…。


なにか引っ掛かる…。

どういう意味だったんだろう…。


どちらにしても…俺はここから出られない…。

それに…ネアにも会うことができない…。

そう思うと…また深く落ち込んでしまった…。

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