2 エルフと花と…
俺が絶望していると…後ろからネアの声が…
「…どうしたの?池なんか眺めて…」
「いっ…いや!なんでもないよ!ちょっと喉乾いて…」
「そう…まぁいいけど…」
ネアは特に思うこともなく…そのまま前に進んでいった…。
とりあえず誤魔化したけど…参ったな…。
こんな不自然極まりない格好でいるなんて…。
…いや…ここが異世界ならこんな姿でも大丈夫なんだろうか…。
…でもなぁ…ネアは
「変わっている」
…って言ってたし…。
なんか…これからの生活が不安になってきた…。
―
…
「…ここよ…。ここが私のお家…。あんまり荒らさないでね…」
歩き続けて数十分…やっとの思いでたどり着いた…。
もうくたくた…早く休みたい気分だ…。。
ネアの家は小ぢんまりとしたレンガ造りの家…それもかなり頑丈そうだ…。
建てられて日が浅いのか…意外と綺麗な感じがする…。
こんな風景…滅多に見ないよなぁ…。
庭には色とりどりの花が植えられていて、中には見たこともないものまで…。
チューリップのような花がたくさんあるし…こういうのが好きなのかな…。
そんな風に見ていると…
「…気に入った?」
「…えっ!?」
突然…横からネアの声が…。
ビックリした…。
ちょっと夢中になってたかな…。
「なんか…じっくりと眺めていたから気になっちゃって…」
「あっ…うん…えっと…」
なんだろう…さっきまでのツンケンした態度が一気に柔らかくなったような…。
「私…お花を育てるのが好きなの…。最近はチェロンの季節だから…あっ…!チェロンっていうのはね…この青色のお花なんだけど…」
…なるほど…花が好きなのか…。
俺が庭の花を眺めていたから…優しくなったのかな…。
俺自身はそんなに花には興味ないけど…なんとか話を合わせてみよう…。
「チェロン…いい名前だね…。誰かからの贈り物?」
「ううん…お店で売られてた種から育てたの…。けっこう貴重なお花だから…大事にしないと…」
「へぇ…そうなんだ…。俺も育ててみたくなってきた…」
「ふふっ…」
おぉ…意外と話が続くなぁ…。
この調子なら…女の子ともわかり合えるかも…。
「もっと大切なお花もあるけどね…」
「へぇ…そのお花は…どこにあるの?」
「…」
えっ…?
どうしたんだろう…突然黙っちゃって…。
…もしかして…地雷踏んじゃった?
「…ごめんね…ちょっとそれは教えられない…本当に大切なお花だから…」
「…そっ…そうなんだ!…え~と…」
明らかに女の子のトーンが…。
さっきまでの和やかなムードが一瞬にして落ち込んじゃった…。
どうしよう…。
「グリン…足を洗うなら井戸があるから…そこの水を使って…。私は…先に家に入るから…」
そう言ったネアはすぐに家の中へ…。
なんか眼を押さえながら歩いていったけど…泣いてたんだろうか…。
あぁ…俺…悪いことしちゃったなぁ…。
―
…
ザバァ…ピチャピチャ…
ふぅ…スッキリした…。
井戸の水って初めて使うから…どんなものか不安だったけど…。
思ったよりぬるくもない…。
けっこう綺麗だし…。
足の痒みも取れて良かった…。
それにしても…
異世界に転生して…エルフの女の子と出会って…一緒に生活する…。
なんだか…現実世界じゃあり得ないような展開だよなぁ…。
でも…ちょっと嬉しいかも…。
…とはいっても三日間だけだ…。
一人で暮らせるように色々調べないといけない…。
特に…この世界のことについては…。
…家とか…食べ物とか…お金とか…。
うぅ…考えるだけで頭が痛くなりそうだ…。
まずは働くこと考えないと…。
でも…この格好で雇ってくれるかなぁ…。
―
ガチャ…
「…ネア…入るよ…」
毛布で覆ったまま…ドアノブに手をかけて家の中へ…。
ネアは…この部屋にはいないっぽいな…。
物が散らかっているわけでもない…よく整理された部屋だ…。
普段から掃除とかよくしてるんだろうな…。
ネアの性格がわかる気がする…。
…
家の中を見てわかったんだけど…俺が住んでいた日本とは違った生活を送っているようだ…。
森の中だからか…電気やガスといったライフラインは無いように見えるし…。
原始的とは言わないまでも…少し変わっている気もする。
台所を見てみると…冷蔵庫なんてものはない…。
あるのは包丁やまな板…あと煮たりするための竈なんて物が…。
すごいな…こんなの初めて見た…。
普段からどうやって食材を保存したりしているんだろう…。
…氷で冷やすとかかな…。
明かりをつけるための電球もない…。
あるのは机の上のランタンだけ…。
…本当に別世界…。
俺の知らない生活がそこにはある…。
でも…不思議だ…。
なんだか落ち着けそうな気がする…。
こういう…田舎っぽいところって気持ちいいよね…。
そう思っていると…
タッ…タッ…タッ…
「グリン…一応これに着替えて…。すごくボロボロだけど…」
奥の方からネアがやって来た…。
手には薄汚れた衣服…。
生地はわからないけど…それなりに厚そうだ…。
「あっ…ありがとう…」
俺はネアから服をもらうとき…一瞬彼女の顔を見て…
「…っ!!」
ちょっと…心が傷ついた…。
眼の周りが少し赤みがかっている…。
俺のいない間に…泣いていたんだろう…。
大切な花…。
きっと…よほど大事ななにか…泣くほどの何かがあるんだ…。
これからはできるだけ、気を付けないといけないな…。
―
…
ゴソゴソ…スッ…
おぉ…めっちゃ暖かい…。
ネアからもらった服…見た目からは想像もつかないほどしっかりしてる…。
体にすごくフィットしてるし…動きやすい…。
ズボンも…ゆったりしてる…。
「…この服…すごくいい!ありがとう!ネア!」
嬉しさのあまり…勢いよくお礼を言ってしまった…。
俺の大声に…ネアはちょっぴりドン引き…。
「…ぅ…そっ…そう…。ならいいけど…」
恥ずかしいのか…眼を合わせようとしない…。
うぅ…今度からはもうちょっと控えめに伝える方がいいな…。
「…グッ…グリン!…そろそろご飯食べるから…用意するの手伝って…」
あっ!
もうそんな時間か…。
そう言えば腹ペコだし…。
なんか食べたくなってきた…。
「うん!手伝うよ!俺…なにしたらいい?」
「とりあえず…お皿とスプーンを用意して…。そこの食器棚にあるから…」
「わかった!」
他人の家だからたくさん食べるわけにはいかないけど…楽しみになってきた!