第五章 松葉財閥の麗
「疲れた疲れた疲れた~」
ブツブツと文句を言いながら紗月はソファーを枕にゴロンと横になった。
「これなら神代に勝てるかな?」
俺も疲れていたので炬燵に突っ伏した。
現在、俺達が居るのは一人暮らしの俺の部屋だ。1DKと狭い部屋の中心に炬燵が有り、二人でそれに入りながらデッキを練っていた。
「さぁ~分かんねえ~。まあしかし、いいセン行ってんだろう。この俺様が英知を絞っているんだから」
紗月は寝転んだまま無防備にそう応えた。俺の角度からは紗月の長い髪しか見えない。
「そうだよな……じゃあちょっと眠ってからゲーセンに行くか」
俺は欠伸をしながらそう言った。
埼玉大会まで後、一ヶ月を切っていた。新たなデッキを作ろうと俺と紗月は試行錯誤を繰り返している。そして煮詰まってきた時に、紗月が合宿を提案した……何故か俺の家で。
「ふぁ……じゃあちょっと寝るわぁ」
紗月は半眼になりながらそう言うと俺の所までトテトテと歩き、何故か俺の膝を枕にして眠った。
「…………おい」
「ふぁ~何?」
可愛らしくコクンと紗月は首を傾げる。普段人見知りでゲーセンに行く時もサブアカウントを使い、目深に帽子を被り、俺の背中に隠れているのに、俺と居る時は伸び伸びとしている。というか自由過ぎる。
「いや、何? じゃないでしょ? 膝枕しちゃってるんだけど。女の子的にそんなに無防備なのはどうなの?」
「……ムラムラする?」
「いや……するよ普通に」
困った事に俺も年頃の男だ。紗月みたいに可愛い子に甘えられて反応しない方が可笑しい。
「別に、手を出しても俺が言わなければリーザにもばれないんじゃないの?」
小さく笑いながら紗月は俺の顎を撫でた。言葉は乱暴な少年の様なのに、指の感触はとてもきめ細かい滑らか物だった。
『ボフン』
俺は傍らに有ったソファーを紗月の顔に押し当てた。苦しそうに俺の膝で紗月がバタバタと動く。
「お前はもうちょっと自分を大切にしろよ。今はいいかも知れないけど、もし本当にこれから先、好きな奴が出来たらそん時に後悔するぞ?」
『むぐむぐ……』
紗月はソファーを顔から剥いだ。そして俺の鼻を摘む。
「親みたいな事を言うんだな。優しい様に見えて……やっぱりお前は残酷だよ。拒絶でも肯定でも無い」
「ごめん……」
「罰としてお前はこのまま膝枕しとけ」
「分かった。ゆっくり休んでくれ」
しばらくすると小さな可愛らしい寝息が聞こえて来た。寝顔は穏やかで百パーセント俺を信頼している様だった。
「こんな風にされたら……普通に好きになってしまうよな」
俺はどうしたいのだろうか。初めて会ったのがリサで無く紗月だったら、でもリサと出会わなければ紗月とも出会わなかっただろう。そして何よりリサの笑顔が俺の中にずっと居るのを感じる。
「勝たなくちゃな神代に」
俺は何度目か分からない想いを胸に目を閉じた――。




