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出会いはカードゲームで  作者: 徳田武威
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最強の棋士 2

「で? 何? お前はあれか? 神代に勝ちたいって事か?」

 ピエロのカードを弄りながらジトっとした目で紗月は俺の事を見た。

「うん。まあ……そうだけど」

「無理だな。無理、無理。絶対無理」

「即答じゃねえか……」

 もうちょっと希望に満ちた答えが聞きたかったが、紗月は馬鹿にした様に笑う。

「他の奴ならまだしも、神代は無理だぜ。あいつは別格だよ。あいつの前じゃ、大抵のプレイヤーが将棋の駒に成り下がる」

「紗月でも勝てないのか?」

 俺がそう言うと紗月はズズズと音を立てて俺が奢ったオレンジジュースを啜る。

「……悔しいが奴だけは無理だな。何度か対戦したが、こっちの手筋を完璧に見切っている。トラップにわざと嵌っている時さえあるんだ。しかし、気付いたら負けてる。俺は大抵のトッププレイヤーと戦っているが、一度も勝った事が無いのは奴だけだ」

「そうか……」

 紗月がここまで言うんだから、神代の実力は本物なんだろう。それに勝とうとするなんて俺は結構な無茶をしているのかも知れない。

「第一さ、何で俺が神代倒す為にお前に協力しなきゃいけないわけ?」

「いや、だって紗月。お前と俺は同じチームじゃん」

 何を急に言い出すだろうかこの子はそういえば会った時から不機嫌そうだ。

「確かに俺はお前と組むって言ったよ。けどな、お前リーザの為に勝つとか思ってんだろ。何で私がお前の恋愛成就の為に戦わなきゃいけないんだよ?」

「いや、恋愛成就って……別に俺とリサはそんな関係じゃないし……」

「うっざ! いいからそういうのは、お前の恋愛ゴッコに俺興味無いから」

 女っていうのはどうしてこう訳の分からない事で怒るんだろうか……しかし、それを指摘したら火に油を注ぐ様な物なので俺は黙っておく。

「第一不公平だろ? お前は姫様を救うナイトよろしく神代と戦えば良いが、俺が戦うメリットって何だよ? それが無いとやる気がしねえな? ああん?」

 何かを期待する様な目で紗月はウインクする様に片目で俺を見た。俺は何だか体が重くなる様な感覚を味わいながら、紗月が欲しているであろう言葉を言ってやる。

「で? 俺が神代に勝てたら紗月は何が欲しいの?」

 紗月はそれを聞いた途端ご馳走にありついた旅人の様に目を輝かせた。

「別に欲しい物なんて無いけどよ~俺はこう見えてお嬢様だし」

「お嬢様なの?」

 いや~全くそんな風に見えない。ただ普段の紗月は確かに言われればそんな感じかも知れない。

「そうだよ。だから物欲は別に無い。しかし~まあ、面白そうだからこんなのはどうだ?」

 紗月は俺の鼻先に指を突き立てた。あぶねえな……。

「お前が俺の彼氏になる」

「え……おおわぁ!」

 俺は驚いてそのまま椅子から滑り落ちた。打ち付けた腰が鈍い痛みを伝えてる。

「彼氏って……何? 付き合うって事?」

「そうだよ」

 耳まで真っ赤にして口を結びながら紗月は俺を見ていた。

「急にそんな事言われても……」

 正直こんな展開は予想していなかった。でも紗月の様子はとても冗談には見えない。勿論、紗月は可愛いから告白された事は嬉しい。普段の俺なら喜んでオッケーしただろう、しかし、今の俺には即答出来なかった……。

『的場君』

 元気で何処か甘い声、俺の脳裏の片隅にリサの姿が有った。

 俺が僅かに目線を逸らすと紗月は何処か傷ついた顔をした。そしてふっと小さく笑う。

「この条件が飲めないなら俺とお前は組めないよ。組まないじゃ無くて組めない、じゃあな」

 紗月はそう言うと席を立った。紗月の言わんとする事は分かる。紗月は真面目で良い子だ。俺の事が好きなら全力で戦いたい。俺が紗月の思いに答えないなら、きっと紗月は全力で戦え無いと思ったのだろう。だから別れを告げようとしているのだろう。

 俺には勿体無い女の子だな……。

 振り向いた寂しそうな背中を俺は見ていた。その姿が遠ざかって行く。そしてそれで良い。気持ちに応えられないならそうした方が良いんだ――。

「……………………何だよ」

 不機嫌そうな顔で紗月は俺が握り締めた手を見ていた。

「…………何だろうな」

 ポリポリと俺は頬をかいた。本当に体が勝手に動いたとしか……いや、そんな事は無いか、俺は自分の意思で紗月の手を取ったんだから。

「俺はさ、このトライブ・ウォーやる前はさ、適当にバイトして、休日はパチスロして、まあ、何だそんな事を繰り返してたんだよ」

 紗月の顔から険しさは消えていなかったが、紗月はその場で待ってくれた。だから俺は続ける。

「でも……トライブ・ウォーを初めてリサと会って夢中になってよ。ギャンブルも面白いけど、それ以上に久しぶりに熱くなれたっていうか……で、紗月お前と出会った。それから毎日一緒に練習してよ。お前変な奴だけど凄い楽しかったっていうか……」

 ギュッと握る手に自然と力が籠る。

「お前が辛いとかそんな気持ちは分かるんだ。でも、それ以上にお前と会えなくなるほうが辛い。お前と一緒に遊んだ事は俺にとっては久しぶりに楽しい事だったから……」

「……随分勝手だな。自分の事ばかりじゃないか」

「ああ、そうだ。だからこれは俺の我侭だ。紗月、お前は辛いかも知れないけど、俺はお前の事気に入ってるし好きだから。俺とチームを続けてくれ!」

 普段の俺だったらこんな事は言わないだろう。紗月が可愛い女の子っていうのもきっと関係してるだろう。でもそんなモンは知らん。一緒に戦いたい。それだけは嘘の無い気持ちなんだから。

「…………ちっ」

 紗月は俯いて小さく舌打ちをした。しかし、再び顔を上げた時は笑っていた。

「お前、最低だな。それじゃあリーザのキープじゃねえか」

「違う、紗月は俺の友達だ」

「馬鹿……」

 ドン! っと結構強く紗月は俺の胸を叩いた。そして頭を俺の胸に押し当てる。

「協力してやる」

「紗月……」

「でも勘違いするなよ。俺は俺の為に協力するだけだ。俺も神代に勝ってみたいし、的場……お前がまだ心変わりする可能性も有るからな」

「ありがとう」

 それしか言えなかった。そしてこんな言葉を言った自分に驚く。

 俺は今まで学校の行事に一切本気で参加していなかった。運動会も合唱会も何もかも、適当にやって、一生懸命やっている奴を馬鹿だとすら思っていた。だが、今はどうだ、たかがゲームに熱くなっているのを感じる。

「しかし的場よお前、まだ深刻な問題が残っているよな」

「? 何が?」

「何がじゃねえんだよ、お前本当にノミ並みの知能しかねえな。いいか? 埼玉大会はチーム戦なんだよ。お前、私とお前じゃメンバーが足りないじゃねえか」

「ああ、確かに……いや、どうしよう。紗月って誰か知り合い居ないのか? 結構古参プレイヤーだろ?」

「はぁ? だから前にも言ったが俺はチームに所属してねえんだよ。野良プレイヤーだ。だからお前みたいな弱小プレイヤーと組んでるんだよ」

「そっか……確かに紗月あんまり友達居なさそうだしな――」

 そう言った瞬間に腹部に強烈な肘鉄を貰い、俺は蹲る。

「まあ、それは地道に探すしかないよな」

「言っておくが俺は人見知りが激しいからな、気に入らなかったら全く話さねえから」

「面倒臭いな! 紗月は!」

 それから俺達はしばらく話し合ったが、取り敢えずメンバーより先に戦術を練ろうという事になった。確かに勝つ算段が無ければ、メンバーを集めても仕方が無いか。

「なあ、紗月。何か神代に勝つ方法は無いのかな?」

「勝つ方法ね……まあぶっちゃけて言えば有る」

「有るの!」

 さっきは無理だと言っていたのに紗月の答えは先程とはまるで真逆の物だった。

「そりゃそうだろ。同じゲームで同じカードを使っているんだぜ。そりゃ勝てる可能性が無いと可笑しいだろ」

「それじゃあ、その方法は?」

 俺が聞くと何故か苦い顔で紗月は腕を組む。

「それは……神代のチームメイトを叩くって事だな。神代は完璧だが、チームのメンバーも神代と同じ完成度じゃない」

 希望的な観測だった。しかし、それに俺は違和感を覚える。するとそれを察したのか紗月が続ける。

「勿論、そんな事は他のトッププレイヤーも試したさ。だがそれでも神代は崩れない。大局感っていうのか。神代にかかれば、二流の奴だって一流にしちまうのさ。しかも取り巻きは全国トップスリーの強者。穴なんて無いのさ」

「いや、なら勝てないだろう」

「そうだな。勝てない。神代は天才だ。しかも戦えば戦うほど、将棋で言うなら他人の棋譜すらも自分の物にしてしまう。神代が知らない戦術なんて奴には無い。だがそんな神代に俺は一回だけだが、善戦した時がある」

「すげえな。さすが紗月。それでそれはどんな時だったんだ?」

 その戦いにこそ、打倒神代の秘策が有るのだろう。俺は期待を込めて紗月に

尋ねる。

「勿体ぶる事じゃ無いから言うがな。それは俺が新戦術の闇即死デッキを試した時だった。その戦術を使ったのは俺が初めてだから当然神代も見るのは初めてだった。所謂、初見殺しさ、コンセプト通り、神代は大多数のモンスターを後半失った。しかし、まあ情けない話し、俺はそれでも負けちまったんだが……」

 紗月はカードケースから机にカードをばら蒔いた。

「俺はトライブ・ウォーのカードを殆どコンプリートしてる。的場、お前はこの中から自分だけの戦術を作りだせ、神代に勝つならそれしか無い」

「新しい戦術か……」

 俺は紗月が作った戦術を使った事はいくつも有る。どれも斬新で、そしてトライブ・ウォーの歴史を作り変えて来た。そんな偉業を俺に成し遂げろと紗月は言っている。

「だが、それでも神代には届かないかも知れない。俺が闇即死デッキを使った時も、今思えば、神代はわざと上手く戦術が決まる様に動いていた節すらも有った。俺のデッキを味わい尽くした感じだったぜ」

「おいおい。不安になる様な事を言うなよ……」

「まあ、考えても仕方無いがな。取り敢えず的場は新しいデッキを作る事だけに集中しろ。俺も一緒に考えてやるから」

 こうして俺達の神代を倒す為の新しいデッキ作りは開始した――。



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