トラップマスター紗月 3
「で、何を聞きたいの? まあお前クラスじゃ俺の言っている事の一割も理解出来ないだろうけど」
カードを片手にモグラは不遜な態度でそう言った。どうやらカードを持つとスイッチが入るらしい。声は相変わらず小さいが、おどおどした感じは消えていた。
「う~ん。取り敢えずどうして俺の伏兵の位置が分かったんだ? それに俺の狙いも読んでいた様に思えた」
「それは超簡単だし」
モグラはビッと人差し指を挙げる。
「お前、俺に勝つ為に戦ってたっしょ?」
「? そりゃそうだろ」
急に何を言い出すのだろうかこいつは勝つ為にプレイしているのは全プレイヤー共通だろうに。
「それが駄目」
しかし、そんな考えをモグラはバッサリと切り捨てた。
「勝とうとする意思。それはつまり最善を尽くそうという事だぜ? そんな考え、俺クラスになれば全部狙い撃ちさ」
「じゃあ、何だ? 俺はもう少し無駄な動作を入れれば良かったのか?」
「そんなわけねえじゃん。いいか? 俺が言ってるのは隠密デッキの肝は勝つ事に無いって事だよ。そのテーマを理解してないと、本当の意味で使いこなせねえ」
「テーマって何だよ?」
俺が質問するとモグラはガリガリと頭をかく。
「ちったあ自分で考えろよ。いいか? コンセプトがお前の真似した戦術だとするなら。テーマは自分がプレイに求める面白さだよ」
「面白さ?」
モグラの強さ。あれはとことん無駄を省いた物だと俺は感じた。しかし、モグラはそうでは無いと言う。
「自分がこのゲームでどんな風に楽しみたいのか。それが大切なんだ。だってゲームだからな」
「それで? 君のテーマは何?」
「俺か? 俺はな……」
モグラは悪そうな顔でニヤっと笑った。
「俺は相手が罠に嵌った瞬間ギョッとするのが大好きなんだ。勝ち負けは二の次さ。ゲーム画面越しからも伝わってくるぜ。相手のギョッとした様子は。それを追求したのが俺のデッキだ。実際お前もギョッとしただろ?」
「まあ、確かにな。まるで俺の画面を盗み見られてる様な感覚だった」
俺は見かけとのギャップに慣れて来てモグラのその態度が妙にしっくり来ていた。
「ふふ、そうやって楽しみつつ強いのが俺が一流たる証だよ」
「ああ、一流だな。俺も最近初めて結構ゲーセンに通ったけど、君ほど強い女の子に会ったのはリサの時以来だよ」
「リサぁ?」
その名を聞いた瞬間。まるで体内にマグマが発生した様にモグラの体温が上がった様に俺は感じた。
「誰だよ。そりゃ、俺よりも強い女が居るわけないだろ」
「うん。まあ実際戦った所を見たわけじゃないけど。リサも相当強いよ」
「だ・か・ら! 誰なんだよリサって奴は! 聞いた事ないぞ!」
イライラした様にモグラは机を指で叩く
「ああ、妖精姫リーザだよ。俺にトライブ・ウォーを教えてくれたんだ」
「リーザ!」
モグラはバン! っと周囲が振り向くくらいの音を立てて机を叩くと、ギョッとした様な目で俺を見る。
「お前リーザに会った事が有るのか?」
「うん。だから最初に教えて貰ったのがリサだって。何? 君も知ってるの?」
まあ有名らしいからな。知ってても可笑しく無いのかも知れない。
「知ってるに決まってんだろ! あの忌々しい女……」
どうやら余り友好的な関係は築いていないようだった。
「会った事があるのか?」
「ねえよ。俺は公式戦には一切でねえ。野良プレイヤーさ。でも対戦した事は有る。俺の罠を尽く外して来やがる。厄介な野郎だ」
「へ~戦績は? やっぱりリサの方が強いのか?」
俺がそう言うとモグラは興奮した様に唾を飛ばす。相変わらず声は小さいが。
「馬鹿言うなよ! 確かに対戦成績は四対六で負け越してるが。それは単純にデッキ相性が悪いだけだ。実力で、負けたわけじゃねえ」
「そっか~」
「てめえ、この……っチ! 第一気にいらねえんだよ。ちょっとトライブ・ウォーが強くて、テレビに出てるから男達にちやほやされて舞い上がってる勘違い野郎だろ! 気にいらねえんだよ。ああいうキャピキャピしたサークルの姫みたいな女!」
そう言うとモグラはドカッと椅子に座ってそっぽを向いた。
俺は普段ならそんな暴言は受けながしただろう。しかも知り合いとはいえ他人の事だ。適当に聞き流していれば人間関係は円滑に進む。しかし、何故かその時は俺はほんの少し、砂粒みたいに小さな少しだが、モグラの発言に引っ掛かりを感じた。
「リサはそんな奴じゃねえよ」
「はぁ~出た出た! 信者乙! ロリコン乙!」
詰まらなそうにそっぽを向くモグラの手を俺はこちらを向かせる為に掴んだ。
「違う。俺の事はどうでも良い……でもリサは誰よりもトライブ・ウォーが大好きで、誰よりも楽しんでた。それを見もしないで、批判してんじゃねえよ」
「…………っ!」
モグラはびっくりした様な顔をすると俺の手を振りほどいた。そしてその手を握り締める。
「っち……何ムキになってんだよ……糞」
俺はそう言われて確かに珍しく熱くなってしまった事を反省した。
「悪いな……君を傷つけるつもりは無かった。邪魔したな。テーマの話し、参考になったよ」
俺はそう言って席を立とうとした。すると今度は弱々しい力でモグラに手を握られる。
「待てし…………なあ、お前はトライブ・ウォーが好きなのか……その、リサとか抜きにしてよ」
唐突だったから俺は少し固まった。ここの問いに正解は有るのだろうか? しかし、まあ分からんから俺は思った通りの事を言う。
「多分、君と先に出会って、君が教えてくれたなら。それでもやってたと思うぜ。けど、リサのプレイに俺は魅せられたんだ。リサが居なかったらここまでのめり込んでは無かったと思う」
「そうかよ……」
モグラは少し俯いた。しかし、やがて顔を上げた。
「俺の名前は伊賀見紗月。ユーザーネームはモグラだ。お前の名前は?」
「俺? 俺は的場翔。ユーザーネームは轟金剛」
「何だよその轟金剛って名前は!」
「パチスロのキャラの名前だが」
「パチンカスかよてめえ!」
「いや、最近はやってない」
「けっ! そうか……なら的場! お前明日も何時でもいいからこのゲーセンに来いよ。俺がみっちり隠密デッキの基本をレクチャーしてやる」
「はぁ?」
モグラ……今は名前が分かって伊賀見の考えが全く理解出来なかった。どういった心境の変化が有ったのだろうか。
「はぁ? じゃねえよ。この奇襲デッキ開発の開祖である俺が、お前を仕込んでやるって言ってるんだよ。ありがたいだろ! そうだろ!」
「まあ……そりゃ、仮に名誉な事かも知れないが……急にどうしたんだ? 伊賀見は寧ろ、俺が隠密デッキを使うのを嫌がってたじゃないか」
「伊賀見って言うな嫌いなんだよその苗字。紗月で良いよ……えっと、理由か? それは確かにお前にリーザの匂いを感じたからだよ」
「リサの匂い?」
「ああ、なんて言うか基本がしっかりしてるとことか……まあ、一番似てたのは諦めの悪さだな。他のプレイヤーはさっきの試合早々に諦めて個人点を狙いに行ってたが、お前は最後まで一人勝ちを目指してた。そんな奴を俺色に染めたら、リーザの奴も悔しがると思ってな」
ニシシシと性格が悪そうに笑う紗月。何だかそれが憎めなくて俺は笑ってしまった。
「じゃあ、明日また来るよ。電話番号を教えとくから紗月も教えてくれ。それと一つ」
俺は指を一本立てた、その指を訝しげ紗月は睨む。
「何だよ」
「俺が紗月に教えて貰う条件」
「条件って! お前! それ普通教える方が付けるモンだろ! どんだけ図々しいんだよ!」
俺はニコニコと笑を零す。何だかんだ言っても慌てる様子は子供だ。
「いや、簡単な事何だよ。お前、さっき大会には出ないって言ってただろ。俺、今度埼玉で大会有るんだけどさ。それに一緒に出てくれよ。メンバーが居なくて困ってたんだ」
「はぁああああああああああ? 何で俺がそんな事しなきゃいけないだよ。嫌だよ」
「まあ良いじゃないか。俺も初めてだし、初めて同士仲良くやろうぜ」
「ば、馬鹿かお前! 変な言い方をするなよ!」
紗月は顔を真っ赤にして俺の肩を叩いた。しかし、力は見た目通りで、猫がじゃれついて来たくらいの物だった。
「良し。まあ取り敢えずよろしくな……さて俺、バイトだからそろそろ帰るわ。また明日な」
「言いたい事だけ言って帰るのかよ。お前、明日俺は居ないかもしれないぞ」
「はは、紗月は来るよ。約束通り」
俺はそう言ってぽんぽんと紗月の頭を叩く。
「だって紗月はトライブ・ウォーが大好きだからな」
俺がそう言うと紗月は頬を膨らませた――。




