表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出会いはカードゲームで  作者: 徳田武威
4/29

トラップマスター紗月 2

『おい……スゲエぞ……』

『S級ランカーのモグラじゃん。俺初めて見たかも……』

 俺がバイトを終え、早朝の睡眠を取り、何時も通りに地元のゲーセンに行った時の事だった。何時もは割と空いているトライブウォーの席が僅かながら賑わっていた。

「珍しいな」

 しかし、俺はそれに長い時間関心を払う事無く席に着いた。バイト中に考えた新しいデッキを試す為だ。

「今回は隠密デッキだ」

 リサと初めて出会い、別れてからもう二ヶ月になる。俺はあの日からトライブウォーを一日も欠かさずプレイして来た。そのおかげか、ランキングは順当に上がり、シルバーのBクラスまでランクを上げていた。

 まあこれには毎日の様に電話してくるリサの存在が大きい。リサは最新の情報から初心者の上達の仕方まで丁寧に教えてくれるから。

「デッキにはいくつかのコンセプトがある」

 これもリサの言葉だ。コンセプトには数え切れないほど種類が有り、全国に自らのコンセプトが広まると、かなり名誉な事らしい。この隠密デッキも、あるプレイヤーが考えたデッキで、俺はそれを使わせて貰ってる。

『TRIBE WAR』

 戦いが始まる。何時もの様にマナを集めに行く。しかし、隠密デッキはここからが既に

違う。

「ブリンガーを召喚」

《名・ブリンガー、属性・闇、種族・人、クラス・マジシャン、アタック・10、

ディフェンス・10、コスト・10》

 狩人であるブリンガーは固有スキルに罠を張る能力が有る。設置した罠に敵がハマると低コストのモンスターならば一撃で倒せる。更にブリンガーはマナの供給所、城、敵使い

魔に触れるまでは、全く敵画面には映らない。これだけ聞くとかなりの強カードだが、罠を張るコストが高い、更にブリンガー自身、アタッカーに瞬殺されるという戦闘能力の低さから見つかってからは全く役立たずになってしまう。それ故に、序盤で如何に相手を牽制出来るかがポイントになる。

「敵の一人は殲滅型か……こいつの周囲に罠を張っておこう。他は味方に任せる」

 ある程度のレベルに達すると敵もトラップの存在を計算に入れてくる。まるで将棋の様に有効打を探す様になる。ここで言えば敵の壁モンスターがトラップを踏んでしまう事が俺にとって最も厳しい。だから高コストが必要な敵を狙う。しかし、それは相手も想定に入れているだろう。

「モグラ二式を見せてやる」

 そこで俺が使うテクニックはモグラが考案したトラップである。

「半蔵を召喚」

 半蔵もまたブリンガーと同じく敵の視界に映らない。トラップを使えるキャラクターである。

 それをブリンガーの前に移動させる。すると敵の壁役の使い魔と半蔵が接触した。

 戦闘が始まるとみるみるうちに半蔵のライフが削られていく。俺は半蔵を逃がしながら回復地点を目指す。

 それと共に敵はマナが溜まったのか大型の使い魔で追撃をしかけて来た。残りHPの少ない半蔵と壁役しか居ない今が攻城のチャンスと見たのだろう。

『固有スキル、狩場』

俺は敵が動いたのを見てブリンガーの固有スキルを大型使い魔の進行方向にセットした。俺が半蔵のトラップ設置に失敗したと思っていた相手は警戒する事無く。そのトラップに入り込んだ。

『ザンザザン!』

 敵がトラップを踏んだ瞬間。隠れていた弓兵が現れ、敵のドラゴンに向かて雨の様に矢を降らせる。それによってドラゴンのHPは半分ほど削られた。

 それにこの状態では追撃など出来るはずもない。敵は自らの陣地へと退散する。それによって、俺の城を攻めて居る使い魔は完全に孤立した。俺の陣地は勿論他の仲間に近かった為、多少城は削られたが、敵使い魔は消滅した。

 その後も俺は敵の足並みを乱し続け。結果俺達は勝利した。今回は直接的では無いにせよかなりチームの勝利に貢献出来たと言っても良いだろう。

「う~ん。割とセンスあるんじゃね?」

 俺はかなり上機嫌でタバコに火を付けた。勝利を確信した時、または勝利した時にタバコを吸うのは俺のルーティーンになっていた。

『何それ……全然、駄目。素人、私のコンセプトに全然近づいて無い。トラップの位置バレバレだし、今のシルバーってこんなにレベル低いの?』

 するとその時だった。横からボソボソっと声が聞こえたのは。ボソボソ話していて何だか分からないが、かなりネガティブな事を言っていた気がする。

 俺がそちらを見るとそこには眼鏡をかけたお下げの少女が居た。前髪が長く夜の廃墟で出逢えば幽霊と間違えるかも知れない。カードを持ちながらこちらを見ている様に見えた。

「センスとか……ワラって感じだし。あんたクラスは何処でも居るし。コンセプトパクるなら私の動画くらい見ろよ。基本は出来てるけど後は糞。典型的な脳筋野郎。お前は大型デッキでも使ってオナニープレイをしてろ」

 声は物凄く小さいが何だか俺に向かって言っている様だ。放っておくのはおくので気持ちが悪かった。

「あの……何か用?」

 俺がそう聞くと少女の肩がビクッと上がった。それと共にカードをポロっと手から落とす。

「よ、よ、よ、用ぅ?」

 かなりうわずった声で少女は応えた。これでは俺が気弱な子に絡んでるようだ。

「あ、カード落ちたよ」

 俺はそう言ってカードを拾い上げる。するとそこには不気味に笑うジョーカーが描いてあった。

「あ、ありがとう……」

 少女はそのカードをおどおどと受け取った。その瞬間。

「ち、別に拾ってくれなくても良いんだよ。俺が直ぐに拾うんだからよ。何だ? 普段モテないから女の子とのちょっとした触れ合いを求めてんのか? キッしょい」

 ブツブツと念仏の様だが、流石にこの距離だと良く聞こえた……。

『カチ……』

 俺はタバコに火を付けてゆっくりと吸う。まあ態度が不遜だと言われる事は有るが、女の子に貶されて傷つかないわけではない。

「いや……全部聞こえてるんだけど。君は結局誰なの? 俺に恨みでも有るの?」

 すると少女は眼鏡をクイッと上げた。

「用? 俺が? シルバーの分際で生意気な。いっぺんケチョンケチョンにして泣かせてやろうか?」

「声ちっさ! 何? 取り敢えず俺と対戦したいって事?」

 何故ゲームをしていると俺は女性に絡まれるのだろう? 自慢じゃないが、顔も良くないし、街で逆ナンされた事など皆無である。

「対戦? 舐めた事言ってんな。俺と対戦だと? シルバーの分際で、でもまあ良いだろう。その無謀とお前の間抜け面に免じてこの俺が指導してやるぜ」

 少女は下を向いてブツブツ言っているが、言っている事はかなり攻撃的だ。

 どうしよう……かなり残念な子だ。しかし、対戦してあげたら満足するのか……なんかやる気になってるし、放っておくのは可哀想だな。

 俺は大人として精一杯の優しさを持って少女の非礼を許した。いや、実際はこんな子を相手にどうしたら良いのか分からなかっただけだが。

「じゃあ、マッチ対戦で」

「はっ……格の違いを教えてやる」

 マッチ対戦それは、店内に居るプレイヤーと戦うシステムだ。残りの四名は全国からランダムに選ばれる。

 俺はカードをセットしながら対戦相手の女の子のIDを見る。見ず知らずの男に喧嘩を売るのだからどの程度の実力かと思ったからだ。

『ランク・プラチナ。全国ランキング7位』

「え……」

 俺は思わず絶句した。リサと初めて出会った時の俺はトライブ・ウォーの事をまるで知らなかった。だが今はかなりやり込んでいる。だから分かる。全国7位。それはやり込むだけじゃ足りない。本当に自らのデッキを追求した者にしか辿り着けない領域だ。

「……プレイヤーネーム。モグラ……だと」

 そしてその名に俺は勿論覚えが有った。モグラ。隠密デッキを初めて開発し。色物カードと呼ばれた忍者を全国トップの地位まで上り詰めさせた。隠密デッキの開祖。俺が今日使っていたのもそのコピーに過ぎない。

「あの子だったのか……」

 俺は隠密デッキを作ったのは完全におっさんか、若い兄ちゃんか、まあ兎に角男の人だと思っていた。それがあんな少女がこの渋いデッキを作っていたなんて……。

「本当だとするなら感動すら覚えるな」

『SET』

 この時間は相手のカードと味方のカードを確認出来る時間だ。そして俺はモグラのカードを見て再び戦慄した。

「ミラーデッキかよ」

 モグラが選択したカードは先程俺が使っていたカードと丸々一緒だった。恐らく意図的に合わせて来たのだろう。これならば純粋に持ち主の腕が物を言う。

『TRIBE WAR』

 戦いのゴングが鳴った。俺は隠密デッキのテンプレ通り、半蔵とブリンガーを召喚する。

 モグラも最初は同じ行動をとっていた。その動きは淀みが無い。彼女が作ったデッキだから当然と言えば当然か。

「これはセオリーならモグラは無視して高コストの敵に向かうのが筋だが……」

 隠密デッキは所謂荒らし専門。自分よりも恪上のモンスターの足並みを乱し、その隙を味方について貰うのが定跡だった。恐らくそれはモグラも同じはず。ここは如何に敵の足並みを乱すかの勝負になる……。

 そのはずだった。

『固有スキル発動。土遁』

 俺が高コストに向かおうと隠密状態で進撃していた時だった。その通路に罠が張られて俺の半蔵は一瞬で消滅した。

「まぐれ……じゃない。でも俺がそっちに行かなかったら。全くの無駄じゃないか」

 見えない敵である俺を敢えて狙う真意が分からない。偶然だろうか……。

「いや、切り替えろ。まだ序盤。マナは十分にある。俺を狙っているなら。逆に味方は安全だ。足並みを整えて参戦する」

 俺はマナを自陣で溜める事に専念する。モグラは恐らく俺に罠を張る為に多大なマナを消費しているはずだ。しかし、俺はまだ半蔵とブリンガーを召喚しただけで固有スキルは使用してない。その状況ならば、まだ戦況は傾いて居ない。

 俺はブリンガーを敵陣深くに待機させる。足並みが揃えば何時でも戦える様にだ。その間にマナを使い半蔵と壁役の使い魔を召喚した。

「良し。これで半蔵とブリンガーが揃った。今度はモグラに読まれないように、相手の中型を荒らしに行く」

 俺がそう言ってカードを動かそうとした時だった。

『キィヤァアアアアアアアアアアアアア!』

 咆哮を上げながら俺の陣地に襲いかかる影。それは天空を舞う漆黒のドラゴン。それが唐突に現れ。俺の使い魔に噛み付いた。

闇竜あんりゅう? モグラか……でも、闇竜は隠密デッキで最もコストを使う使い魔。半蔵とブリンガーを召喚して罠を二つ張ったなら。絶対に召喚出来ないはず……」

 しかし、俺はそこで気付いてしまった。反射的に手で口を覆い隠す。

 トラップを張ったのは最初の一個だけか? そして、ブリンガーを召喚したと俺は思い込んでいたが、モグラは半蔵しか召喚していなかった? だがリスクが高すぎる。そんなんじゃ。城は丸裸だし、俺が高コストを狙いに行かなかったら全て破綻してたぞ。

 そんな事を考えているうちに俺の城は崩壊した。そして十分に足並みを揃える時間が出来たモグラはその間に俺の味方を妨害し、結局俺の陣営は城を三個落とされ、相手の城は無傷という完敗に終わった。

「強い……」

 悔しいという感情さえ湧いて来なかった。ただ俺はモグラのプレイに魅せられていた。

俺はモグラの席に向かう。するとモグラはカードを見ながらボソボソと呟いていた。

「ちょっと、連携が悪いし。私の意図を全然汲み取ってない。レベルに合わせたプレイをすべきなのか……」

「よっ」

 俺はモグラの肩をポンと叩いた。するとモグラの体がビクッ! と跳ね上がる。

「な、何だし……」

 モグラは何処か警戒した様に俺を睨みつけた。俺はそれに苦笑いを浮かべる。

「強いな。いや、正直驚いたよ」

「べ、別に貴方に言われなくても知ってるし、これで格の違いが分かったでしょ」

 そう言ってモグラは立ち去ろうとした。そんなモグラの腕を俺は掴む。

「きゃあ!」

 小鳥の様に小さな悲鳴だった。俺は少し乱暴だったかも知れないと反省する。

「悪い……なあ、向こうで少し話さないか?」

「……何言ってるか分からないし」

「う~ん。別にナンパじゃないぞ? ただ。君にさっきの試合について解説して欲しいんだ。俺は強くならなきゃいけないからさ」

「…………」

 俺がそう言うとモグラはしばらく黙り込んだ。初めて会った男だし警戒しているのかも知れない。

「ちょっとだけなら……」

「おう。ありがとう」

 モグラは無言で休憩スペースに向かった――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ