第七章 執念 10
『何だか神代名人と轟選手が白熱していますね……リーザさん』
『え……えっと……はい』
『ふぉっふぉ。お嬢ちゃんはあの兄ちゃんと付き合っておるんかい?』
『い、いえ……まだ付き合っているとか……では』
『ふぉっふぉ、可愛らしいの~あの神代が執着するだけは有る。しかし、お嬢ちゃん
も見る目が有るの~』
『え……』
『はっきり言ってあの轟という男、凡夫よ。才能の輝きを感じぬ。しかし、それでも神代に勝とうという意思は純粋じゃ。数々の天才を喰い尽くして来た神代を前に心折れず立っておる。それだけは賞賛に値する。やはり惚れた女の前では格好を付けたくなるのかの~?』
『それは違いますよ……』
『ほぉ……では何故じゃ?』
『簡単ですよ松方さん』
リサは笑った。その声から俺はリサの笑顔がはっきり想像出来た。
『彼はTRIBE WARが好きなんです』
……そうだな。リサ。俺はこのゲームが好きなんだ。
「待たせたね。神代さん」
残り四十秒、それは俺達に取っては最低限で、神代達に取っては十分だった。神代達の使い魔は機神マキナの固有スキルによって何重にも強化されて居る。更に、無限絡繰や、悪夢の国といった敵混乱や、敵の移動速度を低下させる固有スキル持ちもマナを余らせている。
『君に頼まれたから待った訳では無い。私が自分の意思で待った』
「そうかい。じゃあ早速始めようか!」
俺達は神代達に向かって散開した。一箇所に固まっていると、混乱や、移動低下を相手に仕掛けられる恐れが有る。
『愚かな……悪手だ』
しかし、神代達もそれを読んでいたいたのか、包み込むようにして俺達を囲んだ。
『これで軍を抜けて城を落とそうとしても即座にフォロー出来る。君の勝算は私以外の二人どちらかを三人で突破するしか無かった。まあそれをさせない為の魔界汽車ドーンだがね』
神代の強化された軍勢が迫る。一体一体が強化によって力を増幅させている。
「神代が近づいて来た! 紗月!」
『おう』
紗月が自爆岩を前に出す。そして固有スキルを発動する。
『固有スキル発動。粉砕土石流』
自爆岩の固有スキル。自らを破壊する事によって周囲に居る使い間に大ダメージを与える。
『甘い……固有スキル発動。平和の風』
それに対応する様に神代が楽園の風見鶏の固有スキルを使った。その効果は範囲内に居る使い魔の固有スキルを無効にするカウンタースキル。
『自爆など、真っ先に読んでいる。追い詰められて焦った様だな。ここでコストの高い自爆岩を落としている様では話しにならない』
神代は俺の策を読みきっている。自爆岩はただ自爆しただけの無駄死に……神代は俺達を完全に封殺する気だ。
『アルティメットスキル発動。自動修復機甲』
『アルティメットスキル発動。次世代の強化』
そして今度は神代の陣営が仕掛けた。立て続けにアルティメットスキルを発動し、使い魔を強化していく。
『例え全員が凱旋門を使って逃げたとしても、城の差で私が勝つ。しかし、君の使い魔では私の軍勢は倒せない。頼みの綱の自爆も完全に封殺した。これで完全に詰みだ』
「よくしゃべるんだな神代さん」
『……確かに、そうだね。私は恐らく君が嫌いだ。凡夫のまま私に挑み、あまつさえ私を挑発した。ここで完全に君の息の根を止める事にした』
「ふふ、嬉しいよ。神代名人にそこまで言って貰えて。しかし、まだ俺にはリーザが居る」
『やってみたまえ、例え四分の一でリーザの覚醒に成功したとしても、もうここまで強化された私の使い魔には通じない』
「それは試してみないと分からないさ」
ここが……最後だ。ここでリーザの固有スキルが決まらなければ負けは確定してしまうだろ。
『的場君……』
インカム越しにリサの声が聞こえた。俺の本名を出してる。きっと思わず出てしまった言葉なのだろう。
「神代さん。俺のリーザは特別性だ。必ず俺の味方をしてくれる。そう……約束してくれたんでね」
『何を――』
神代の言葉と同時に俺はリーザの固有スキルを発動する。
『固有スキル発動。妖精のサイコロ〈フェアリーダイス〉』
『う~ん……えい!』
妖精姫リーザがサイコロを投げる。そのダイスを祈る様に俺は見詰めた。
『出ろ……』
『出なさい』
紗月と松葉さんの声が聞こえて来る。まるでダイスに想いが届けという様に、熱がこもっている。
『お願い……』
リサの声、本当は中立の立場なのに、しかし、純粋に嬉しかった。
俺は……どうしてこんにムキになってカードゲームなんてやっているんだろうか……これが、仕事だったり、スポーツだったら、誰か褒めてくれるだろうか?
関係ねえよな。
何に夢中になったって関係ない。俺はただ、この勝負に勝ちたい。それだけだ!
『来おおおおおおおおおおおおおおい!』
俺は叫んだ。ただただ、そんな事したって結果は変わらないのに叫ばずにはいられなかった。
『コロン……コロン――』
ダイスが完全に停止した。そのサイコロをリーザが抱きかかえる。
『さあ! ダイスの結果は!』
司会の声。それと同時にリーザがサイコロの目をこちらに向けた。
『てへへ……一だよ』
一……周囲に居る味方使い魔を全員土属性にする……ハズレ目。
『む、無情ぉおおおおおおおおおおおおおおお! サイコロの目は一だ! 勝負有ったぁあああああああああああああああああ!』
『運も味方しなかったか』
神代がつまらなそうに声を漏らす。勝負はついた賭けは――。
『俺の勝ちだ! 神代!』
俺は叫んだ。それと同時に紗月が固有スキルを発動する。
『固有スキル発動。報われない愛』
紗月がミンネゴールドのスキルを発動させる。そのスキルは味方使い魔の固有スキルの範囲を広げるという物。それを紗月は俺のヘドロバンドに負荷した。それと同時にミンネゴールドは消滅する。
『何……ヘドロバンドを強化……だと…………ぬ!』
そこで神代は何かに気が付いた様に声を漏らすと魔界汽車ドーンに機神マキナを乗せる。
「もう遅い」
『固有スキル発動。沼地生成』
しかし、もう既に俺はヘドロバンドのスキルを発動させて居た。その効果は、自分が自爆する代わりに周囲の地形を特殊地形沼地に変化させるという物だ。俺がトライブ・ウォーを始めたての時に、使用方法を誤ったスキル。
その効果はミンネゴールドのスキルにより威力を増し、俺達を囲んでいた神代達を含め、全てのプレイヤーの使い魔をスッポリと沼地に収めた。
「さあ、ここからは泥試合だ。付き合って貰うぜ、神代」
『ふん……全く愚かと言わざるおえない、足場を悪くして、確かにこちらの機動力は奪われた、だがそれだけだ。これでは力勝負に持ち込んだだけ、力勝負は寧ろこちらに軍配が上がると分からないのか?』
「勿論これで終わりの訳ないだろ。お前を倒す為の策だぜ。ここからだよ」
俺は次のカードに手を触れた。
『固有スキル発動。破滅の剣』
諸刃の剣士の固有スキルを発動する。その効果は自陣の城にダメージを与える代わりに、その間、この諸刃の剣士を超強化する物だ。
『バリーン! バリン!』
城のゲージがみるみる削られていく。
『どういうつもりだ? これではより状況は悪くなる……』
『俺の出番だな。的場』
紗月が意気揚々とアルティメットスキルを使用する。
『アルティメットスキル発動。残虐者の宴』
紗月がこれまで温存していたアルティメットスキル。それは範囲内で自らの使い魔が死滅した場合、そのコストに応じて自分の城にダメージを受ける。
『おほほほほほほ! 更にダメ押しですわね。この松葉麗の戦慄する様な奥義、とくとご覧あれ』
『アルティメットスキル発動。英霊召喚』
松葉のアルティメットスキルは敵味方関係無く作用する。その効果は、死んでいる使い魔のコストに応じて、味方使い魔が強化されるという物。これも松葉さんくらいしか使わない超ドマイナーなカードだ。しかし、完璧過ぎる神代は勿論一体も使い魔を殺して無い。だが俺達はもう三体も使い魔が死んでいる。
『まさか……最初の爆弾岩は囮か』
「勿論通ればそれが一番良かったよ。けど……これで、お前の機神マキナと強さは並んだ……いや、越えたぜ」
『いいや……それは無い。確かに中々楽しませて貰ったが、君の勝利条件は私のチームの使い魔を全て倒すという物。しかし、この沼地で何人倒せる? 倒している間に君達の城のゲージは尽きる!』
「確かにこのままじゃ無理だ。だがな、言ったぞ神代! 賭けは俺の勝ちだと! 松葉さん!」
『おほほほほほほほ! 分かっていますわ!』
『固有スキル発動。沼地の通行証』
沼地の魔女のスキル。それはタイプ土の味方使い魔を沼地限定で移動スピードを上げるという物だ。普通なら、諸刃の剣士はタイプ・無。この効果の対象にはならない。しかし、リーザによって土属性に変えられた今なら沼地の魔女の固有スキルは諸刃の剣士に付加される。
諸刃の剣士が沼地を滑る様に疾走し、神代のチームメイトで有る凛堂とす~たんの使い魔に襲いかかる。相手も強化されていたが、それでも確実に相手の使い魔を葬っていった。
「最初から判定勝ちなんて目指して無い! お前との真っ向勝負で俺は勝つ!」
『何故だ……土属性に変えるだけならば、他にコストも少なく、汎用性の効く使い魔が居るはず。何故リーザだったのだ?』
「確かにそうだ。だが、そうすれば、あんたは俺の意図を完全に読みきっていただろう、このデッキは完全にあんたを倒す為だけに作ったデッキだ。百回戦って、あんたのいう通り九十九回負けたとしても、たった一回、一度だけでもあんたに勝てるなら、俺はそれに賭ける!」
諸刃の剣士が魔界汽車ドーンを破壊する。残るは神代のメインカード。そして最強の機神マキナのみ。
『不合理な! しかし、まだ私の優位は変わらない! 手負いの君と、無傷の私では勝敗は目に見えている!』
「そうだな。ここから先は俺とお前の一騎打ちだ!」
俺の剣士と神代のマキナが激突する。鍔ぜり合いをしながらお互いに斬撃を繰り出す。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
会場から歓声が上がる。ここが最後の勝負。勝負の結末がこの二人の戦いに掛かっているのだから。
『こうなる事を予見していたというのか! 君は!』
「いや……そんな完璧な絵図は俺には描けないよ。俺はあんたと違って天才じゃない。ただの凡夫さ。でも、そんな中、俺を支えてくれた仲間が居た。針に糸を通す様な難事を、俺を信じて完璧にやりのけてくれた。だから俺は今、あんたと同じ土俵に辿り着けた!」
戦いは激化していく。しかし、このままでは確実に俺が負ける。乱数の違いではどにもならない差がそこには有る。
『確かに……ここまで私を追い込んだ者は棋士の中にも居ない。認めよう。君は凡夫だが、最強の挑戦者だと言う事を……そして、君はまだ切り札を隠しているな』
「! ……どうかな」
『とぼけても無駄だ。この土壇場で何故アルティメットスキルを使わない? それは使えないからだろ? 恐らく推測するに、君のアルティメットスキルは地形変化、煉獄陣だろ?』
煉獄陣。それは試合が開始する前にセットするタイプ。設置型のアルティメットスキルだ。設置した場所の範囲内に居る使い間に少量ずつだがダメージを与える。
『君の考えはこうだ。私と話しながら、一瞬で私を焼き尽くせる所までダメージを与え、そして機動力を活かして自分は陣の外に逃げる。しかし、この煉獄陣には欠点が有る。それは範囲が広い代わりに、与えるダメージが弱いと言う事だ。ならばこうすればどうする?』
『アルティメットスキル発動。原始状態』
神代が回復のアルティメットスキルを発動させた。それにより三分の一まで減っていた体力が半分ほどになる。
『このまま戦い続けて君が倒れれば、君らが仕掛けたアルティメットスキルの効果で君たちの城は完全に落ちる。しかし、ギリギリまで戦えば、例え煉獄を放った所で、私のマキナは倒し切れない。惜しいが一手及ばなかった様だな』
確かに状況は神代の言う通りだ。俺では一手及ばない。そこが俺の限界。
『これで終わりだ』
神代の刃が迫る。俺では神代には敵わなかった――。
そう……俺だけならば!
『アルティメットスキル発動……』
『無駄だ。死期を早めるだけだぞ』
「神代さん確かに俺一人だけではあんたには勝てなかった。けどな」
『凱旋門〈リターンゲート〉』
『転身……』
深く神代が呟いた。俺のアルティメットスキルは自陣に俺の使い魔を戻す物だ。神代の刃は空を切る。
「俺には……仲間が居る。悪いね最後まで締まらない男で」
『おらぁあああああああああああ! 死ねや! 神代!』
『おほほほほほほ! 最後はこの松葉麗が華麗に決めて差し上げますわ!』
紗月のドワーフの斧と、松葉さんの沼地の魔女の魔法が神代に襲いかかる。当然、この二体の使い魔もリーザによって土の属性を得ている。
『ズブ……バリン!』
二人の攻撃が突き刺さり神代の機神マキナを破壊した。それと共に、虐殺者の宴の効果で神代の城も崩壊する。
『決まったぁああああああああああああ! 何と……まさか! 神代名人の長い不敗神話
に終止符が終結! しかもそれを成し遂げたのは今大会が初出場の! 全く無名のチームが成し遂げた……優勝は! チーム轟!』
「勝った……」
俺はドッと疲れ背もたれに寄り掛かった。今でも信じられない。後、一秒試合が長引いていれば、それだけで神代は勝っていた。それほどに紙一重の戦いだった。
「やった! やったぞ! 的場!」
ドンっと強い勢いで紗月が俺に抱きついた。その顔には無邪気な笑みを浮かべている。
『おほほほほほほ! やはり私は勝利を約束された者。さっきの的場さんの勝利の女神も私の事でしょう?』
「ああ、そうかもね」
じわじわと体を快感が満たしていた。俺は二人に笑みを浮かべる。
『それでは! 素晴らしい戦いを見せてくれた両チームにステージに上がってもらいましょう!』
俺達はステージに上がった。そこには既に神代が立って待っていた。
『まずは両チームに惜しみ無い拍手を!』
会場から地面が揺れる様な拍手が鳴り響く。その音が俺の体を叩いた。
『おめでとうございます! 轟さん!』
司会が俺に向かってマイクを伸ばす。あんまりこういう事は慣れていないので、俺は苦笑いを浮かべた。
「ありがとうございます」
『熱戦でしたね! どうですか? 戦ってみて感想は?』
「いや……本当に、運と仲間に恵まれました」
『確かに、試合中の轟さんの熱の籠った言葉は仲間にも届いたと思いますよ!』
「え? いやちょっと待って、俺の声ってあれは仲間チームと敵チームにしか聞こえないんじゃなかったの?」
『え、いや……当然会場中に流れているんですけど……聞こえないのは会場から轟さん達への声です。戦況に影響しちゃいますので』
「マジかよ~ああああああ!」
俺は頭を抱えた。それも勝つ為の手段とはいえ、臭い台詞を連発していた気がする。
「良かったじゃないか的場。お前の勇姿はきっとニコニコ動画に晒され、しばらくネタにされるだろう」
紗月がいい笑顔で俺に追い討ちをかけた。俺は再び泣きそうな声で叫んだ。
『えっと……では、お待たせしました。神代名人。今回の戦いの感想を』
司会からマイクを受け取ると、神代は話し出す。その無表情からは敗北のショックを感じない。
「少し聞いていいかな、轟くん」
「はい。どうぞ」
「もしあの時、私が君の提案に乗らずに攻めていたら、君はどうするつもりだったんだ?」
「負けてましたね。何も出来ずに」
「では、爆弾岩だ。もしあそこで私が風見鶏の操作を誤り、固有スキルを使えずに、ヘドロバンド、リーザ、諸刃の剣士、沼地の魔女、どれかに使っていたら?」
「負けてましたね」
「リーザの他の目が出たら?」
「負けました」
「ふぅ……」
神代は深く溜息を吐いた。
「確かに君は運と味方を信じたその結果という事かな? これは」
神代の言葉に俺は首を振る。
「いや、違いますよそれは」
「どういう事だい?」
「俺が信じたのは運と仲間と……そして、神代さん。貴方だ。貴方は絶対ミスをしない。俺を完全に完封してくれる……そう最初に信じたから、この作戦に賭けたんだ。もし、一つでも貴方のプレイにミスが有ったら、俺の策は通らなかった思う」
「なるほど……」
その時、初めて神代はニコッと笑った。
「敵を知ろうとした事は有った……しかし、敵を信じるという事は私の人生には無かった。ふふ、勝負を極めたと思っていたが、ははは! 私もまだ旅の途中だった様だ」
「まあ、まぐれだから気にする事無いですよ。多分、もう勝てないと思うし」
「ふふ、私は負けるのが死ぬほど嫌いでね。このまま逃がしはしないよ。また戦おう、君、名前は?」
「的場翔です」
「そうか……的場君。今度は私が挑戦者だ」
『あ! ちょっと神代名人!』
神代は呼び止める声も聞かずに、悠然と堂々と会場を去っていった。その姿は本当にどこぞの英雄みたいだ。
『ふぉっふぉ、神代ぉ~今日はわしと飲むか』
その肩に腕をかけ、緒方さんも去った。本当に自由な人達だ。
『えっと……その……あ、そうだ! トロフィー! 優勝した轟チームにはトロフィーが贈られます!』
司会がそう言うと、トロフィーを持ってリサが現れた。そして俺の前に止まると嬉しそうにハニかんだ。
「本当に優勝しちゃったね」
「おう。びっくりしただろ?」
「本当に凄いよ。的場君は私の王子様だね」
リサからトロフィーを渡される。トロフィーなんて貰ったのは小学校の俳句コンテスト以来だ。
「おめでとう。的場君」
「ありがとう」
こうして大会は終わった――。




