第七章 執念 9
『えええええええええっとこれは……』
会場のどよめきが聞こえて来る。俺達は特設ブースに居るから、聞こえるのはよっぽど大きい声か、インカムを通して聞こえる進行役の声、そして仲間の声だけだ。だからここまで聞こえるという事は少なからず俺達の状況を見て困惑しているという事だろう。
『これはチーム轟、自陣に張り付いて動かないぃいいいいいいいいいい!』
そう……俺が考えた策は、全員が自陣で待機するという物だ。
『これはしかし! 神代名人の古代のアーティファクトが最大限に生きる展開! 状況は悪くなる一方だ! これはまさか! リザインか?』
トライブ・ウォーに置いて、完全に手詰まり、勝利の見込みが無い時に、自陣にカードを戻して相手の好きにやらせてやるといった光景は極稀にだが有る。しかし、それは恥ずべき行為で、対戦者からもあまり好かれない。
『投了かね』
その時、神代からインカムで声が届いた。使う機会は無いと思っていた。そして、むしろ神代は試合中に会話をしてくるとは思ってなかった。
あ~会話か……すればするほど相手に情報を与えてしまうかも知れない。しかも相手は神代だ。この会話は探っているのだろう。九十パーセント勝つ試合を百パーセントにする為、神代は俺から情報を引き出そうとしている。
ここは黙っているのが懸命なんだろう。しかし、何となくこの会話に応じていた。
『投了……したいなぁ……実際な。殆ど勝目の無い状況。これ以上戦えばみっとも無い醜態を晒すだけかも知れない』
『遠慮する事は無い。私の対戦者の中にも途中で心が折れて、リザインした者は多い、君だけでは無いさ』
『そう……心が折れた……折れていただろうな、俺だけなら……でも、俺は今、一人じゃない。一緒に戦ってくれる仲間が居るんだ。』
『ではまだ続ける意思は有ると言う事かな?』
「ああ、有る。ここで諦めるくらいだったら、最初から戦いを挑んだりしない。でも、神代さん一つ提案が有るんだ」
『提案?』
「ああ、折角だから最後は総力戦にしないか? 四十カウントまで待ってくれ。そこから俺達は神代さんの城を落としに行くよ」
『ふふ、そんな提案を飲む理由が無いな。今すぐ落としに行っても良いのだよ?』
「確かにね……でも俺は神代さんを倒す策が有る。それを見ないでこの勝負が終わっても良いのかな? それで本当に……リサはあんたに心を奪われるのだろうか?」
『どういう事かね?』
「いや、全力を出し切った俺を正面から神代さんが叩き潰したら、もう俺が言う事が無いさ。完敗だ。だけど今のままの敗北なら。俺は何度でもあんたの前に現れる。この作戦さえ決まれば、神代なんて目じゃない……ってね」
『ふむ、それは中々目障りだね』
「今のまま進んでもあんたの優位は変わらない。まあ、俺が怖いなら別に付き合ってくれなくても良いけどね」
『ふん……小物だな。こんな男の何処がリーザ君の心を惹いたのか理解に苦しむ』
「ああ、そうだ。俺は小物さ。ただのフリーター。何処までも適当な男だ。だが、今日はそんな俺があんたに勝つ」
『ふう……もう良い。付き合おう。君の戯言は聞くに耐えない。現実を教えてあげよう』
「それはどうも」
『君は妖精姫リーザにかけているんだろ? 運だけでは越えられない壁が有る事を教えてあげよう』
「じゃあ、まあよろしく」
俺はインカムを切った。何だかドッと疲れて溜息を吐く。
『おい、的場』
「ん? 何? 紗月」
『お前なぁ、あんな事を言ったら会場中を敵に回しちまってるぞ。相手は神代だ。会場はなんだかんだで、神代の圧勝が見たいのさ』
「そうか……そうだな……」
確かに俺は完全なヒールだ。これでは勝っても紗月や松葉さん。そしてリサにも迷惑がかかるかも知れない。
「悪いな紗月」
『馬鹿。謝るなよ。それだけ本気なんだろ?』
「そうだな。今日はどんなにこすい手を使おうと神代に勝つ。それが運でもまぐれでも構わない」
『ならいいじゃねえか。俺は元々野良プレイヤーだ。この大会が最後になったって構わないさ』
『おほほほ! 私も結構ですわよ。的場さんが如何に小物でも、いや、小物だからこそ、この松葉麗の輝きが引き立つという物ですわ!』
二人とも俺を励ましてくれてるんだろう。個性的だったが……。
「最後のギャンブルだ。俺の引きを信じてくれよ」
『期待してねえよ。お前は完全な所でスカす気もするし……まあ上手く行ったらキスぐらいしてやる』
『的場さんばかりずるいですわ! 紗月さん。この試合に勝ったら私にもキスして下さい!』
『…………まあ勝ったら考えてやるよ』
二人はそう言ってインカムを切った。俺はゆっくりと息を吐く。
「一発入れてやるよ。神代」
俺は画面を見ながらそう言った――。




