第二章 妖精王、リーザ
端的に言うとリサは凄かった。
『固有スキル発動・妖精舞踏』
リーザは開始早々、固有スキルを発動した。「スキルを活かすは中盤戦からだよ」と本人が言っていたのに、全く真逆の行動だ。
しかし、どうやらその効果は味方のマナ吸収を助ける物らしい。なるほど、そういうスキルも有るのかと俺は関心する。
『固有スキル発動・精霊花癒』
だがそれで終わりでは無かった。続いて直ぐに他の固有スキルを使った。今度は妖精の周りに花が咲き乱れる。
これは範囲内の味方のHPを僅かに回復させる物の様だ。こういった感じで付加を重ね優位を取るのがリサのスタイルなのかと俺は理解した。
「おい。リサ。大丈夫なのか?」
「ん? 何かな?」
「いや、スキル使うのは分かるけど、それだとディフェンダーもアタッカーも召喚出来ないじゃん。今、攻め込まれたら死ぬんじゃないか?」
今すぐ援護に行きたいが、俺のデッキは七英雄主体の終盤型だ。序盤には再生能力が高いだけのスケルトンしか居ない。
「大丈夫だよ。的場君。私は戦うつもりは無いから」
「へえ?」
そうこうしている間に敵のオーガが攻め込んできた。ゴリゴリのパワータイプに見える、一瞬でやられてしまうだろう。
『アルティメットスペル発動――』
「うえええ!」
すると何とリサは一試合に一人一回しか使えない切り札であるアルティメットスペルを発動させた。それこそ終盤の切り札。というか、序盤だとアルティメットスペルのゲージが溜まってない為、効果が薄いとさっきリサに説明されたばかりだ。
『移動妖陣!』
発動すると同時にフィールドが全て花畑に変わる。それと同時に舞っていて動けなかった妖精達が動き出す。
「確かに移動妖陣はマックスまでゲージを貯めないとエンチャントは得られない。けれど、移動するだけならこれで十分なの」
リサはそう言うと敵の攻撃から妖精を逃がす。
「いや、待てよ。それだと城が落ちちゃうじゃんか?」
「うん。そうだね。妖精が死なない程度にディフェンスして、城を攻撃させる。それで時間を稼げば、的場君のマナも貯まるからこっちの有利だよ」
「城を犠牲にして優位を取るか……」
素人の俺では考えつかないであろう戦法だった。これが上級者の実力か。
リサの予言した通り、俺達のチームは早々とメインのカードが出す事が出来た。
「七英雄が二体。NPCが相手でも出す暇が無かったのに……」
リサはサポートをしながらも絶妙な間合いで牽制していた。その為、マナの補充に事欠かなかった。
「さあ、後は的場君の番だよ。七英雄で相手を殲滅して」
「おう。分かった」
俺の七英雄達が敵陣に侵攻する。トライブウォーにはプレイヤーが持てる最大コストがある。上限で8だ。七英雄は二人とも2・5。かなりの高コストだが、二体出れば相手の高コストももろともしない。
『ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
城壁が壊れる音が鳴り響く。俺のマグナスが城を落とした瞬間だった。
「圧勝……だな」
快感というか、圧倒的な戦いに俺は呆然としていた。相手にも熟練の
プレイヤーは居た。しかし、リサは圧倒的過ぎた。相手が気の毒なほどに……。
「やったね。的場君」
俺に向かってリサは無邪気に手を伸ばす。ハイタッチだろうか? しかし、俺は気恥ずかしかったので曖昧に手を上げた。
『パン』
それにも関わらずリサは俺と手を合わせた。恥ずかしいがリサは満足そうだ。
『あの……リーザさんですよね?』
するとその時、後ろから遠慮した様なおどおどした声が聞こえた。俺とリサが振り返るとそこにはさっきまで周囲に散っていたトライブウォーのプレイヤーが居た。
「うん。そうだけど」
リサは愛想良く応じた。すると声をかけて来た短髪の男が嬉しそうに笑う。
「やっぱり! 僕ファンなんです。握手してください」
「ん? はい」
そう言ってリサは小さい手を差し出した。男はその手をがっちり掴む。
「ありがとうございます! ラスベガスの大会見てました! 四位入賞おめでとうございます!」
「あははは、ありがとう。負けちゃったけどね。研究されてたよ」
「後ろでも見てました。次の埼玉大会も応援に行きます」
「うん。ありがとう」
まるで有名人の様だ。リサも慣れているのか、対応に淀みが無い。
『どうしたの?』
『妖精姫が来てるって』
『まじぃ? 俺ファンなんだけど』
するとそれを皮切りにしてどんどん、リサに握手を求める者が現れた。ゲームセンターが即席の握手会に変わる。
『どうして上野に? 本拠地大阪じゃないんですか?』
「うん遠征にね。この辺カードショップも多いし、トライブウォーのレベルも高いから」
『あの! 俺ともフレンド対戦して貰えませんか?』
『あ、じゃあ俺も!』
次々に手が挙がる。どうやらリサと共に戦う事は名誉な事らしい。
俺はそんなリサをぼーと眺めていた。
このまま俺が居ても邪魔になりそうだな。軽く挨拶して帰るか。
筐体から立ち上がろうとした時だった。俺の服の袖がギュッと握られる。
「あはは。ごめんね。今日は友達と一緒にやる約束してるから……ね」
他の連中に見えない角度でリサは軽くウインクした。俺は戸惑いながらも軽く頷く。
『おい。あれ彼氏?』
『うっそ、マジで? 俺結構ショックだわ』
突然友達と紹介され俺は戸惑ったが、どうやらギャラリーのショックはそれ以上だったらしい。かなりざわざわしている。
「彼氏じゃなくて友達ね。余りいじめないでよ?」
しかし、リサの純真なその態度は直ぐに場を正常な状態に戻した。
「それじゃあそろそろゲームを再開しよ? 的場君。作戦はさっきと一緒ね」
「あ、ああ……」
正直後ろにこれだけギャラリーが居るとプレイするのが嫌だったが、そう言ってしまえば、リサが傷つくのが容易に想像出来たので俺は黙っていた。
「ふふふ、緊張してる?」
「バカ言え」
感が鋭いリサに俺は苦笑いを浮かべた――。
「はぁ~楽しかった~ね? 的場君」
「そうだな」
俺はビールをクイッと飲んだ。身体にアルコールが染み渡る。生き返る様だ。
「ぷはぁあああああああ! ビールが美味しい」
正面でゴクゴクとリサがビールを飲む。粋な飲みっぷりだった。
「うるせえよ……ていうか未成年じゃなかったんだな」
「何それ~私、これでも二十歳の大学生です」
これは俺にとって本当に意外だった。幼い感じがしたリサだったから。最初に飲みに行こうと誘われた時はこいつ大丈夫かよと思った。
「何歳くらいだと思った?」
「う~ん。高校生かと思ってたよ」
「ふふふ、それは子供っぽいって事かな? でも……残念だった?」
上目遣いで俺の事を見るリサ。可愛いんだがこれは計算でやっているのだろうか?
「別に……ていうか高校生と休日にゲーセンで遊ぶおっさんって結構キツイだろ。安心したよ」
「おっさんって、まだ的場君も二十五歳じゃん」
「アラサーだよもう。さっきもカードの動かし過ぎで腕が痛え」
「ふふ」
リサは上機嫌そうだった。負けた試合もあり、悔しがってはいたが、それでも心底プレイを楽しんでいる様に見えた。
「そういえば、大阪出身なんだって?」
「うん。まあ、大阪っていうか、滋賀だけど」
「ふ~ん。カードゲームで遠征なんてそんなのする物なのか?」
「まあたまにだけどね。旅行のついでとか。本当は女の子の友達とディズニーランドに来てたんだけど。私だけ一泊長く東京に居たの」
「そうか……」
大学の友達……俺は大学に行った事が無いから分からないが、リサの友達だから可愛いのかも知れない。
「紹介しないけどね」
う、本当に感が鋭いな。こいつは……。
「しかし、有名なんだな。妖精姫だっけ?」
「うん。ちょっと恥ずかしいけど、大会に出ていたら皆そう呼ぶ様になったね。女の子のプレイヤーは珍しいから」
「そうか。でも確かに妖精を一番使ってたな」
萌えというのだろうか、リサが使っていたキャラは殆どが可愛らしい女の子だった。
「うん。単純な攻撃は苦手な種族だけど、工夫すれば一番応用が効くから。それにやっぱり可愛いし」
工夫……その通りにリサは様々な技術を使っていた。まるで舞台で踊る妖精の様に、敵も味方も魅了され、リサを中心に回っていた。
「あれだけカードを使いこなせるのはリサぐらいだな。俺にはとても無理だ」
俺の言葉にリサは笑いながら首を振る。
「そんな事無いよ。的場君は一試合毎に成長してたよ。もう最初のデッキなら私が居なくても戦えるよ。多分、クラスでいったらブロンズのAくらいの実力はあると思う」
「そうか?」
確かに試合展開はマシになったが、それでもそれはリサのフォローがあってこそだ。
「そうだよ……そうだ!」
何だろうか急にリサの顔が何かを思いついたかの様に輝いた。
「的場君。今度の埼玉大会に出なよ。三ヶ月後の」
「大会?」
「そう、さっきもゲームセンターで男の子が言ってたでしょ? トライブウォーの公式戦が埼玉で有るんだよ」
「大会って言ったって……俺は今日始めたばかりの素人だぞ。そんなの場違いもいいとこだろ」
「そんな事無いよ。大会に参加する人のレベルだって様々だし、それに的場君はきっと強くなるよ」
「なんだよそりゃ……」
俺が呆れながら笑うと、リサはカードケースを取り出した。
「これと……これと……これ」
そう言って次々カードを机の上に置いて行く。
「今日、的場君が使ったカードだよ。これ全部的場君にあげる」
「おいおい。何言ってんだよ。大切なカード何だろ?」
「うん。でも的場君が使ってくれるならカードもきっと喜ぶよ。だから約束、このカードを持って埼玉大会に来ること」
「おいおい。強引過ぎるだろ」
「ふふ、別に破っても良いんだよ? それでも私は気にしないから」
ニコニコと笑顔で言うリサ。無邪気なその顔を曇らせる様な事は言難い。
「分かったよ……でもそれなら俺からも条件が有る」
「何?」
「リサの電話番号を教えろよ。俺が頑張って埼玉大会に行って、お前が居ないんじゃ馬鹿みたいだろ?」
「ふふ~何だかナンパみたいだね。そんな事しなくても私は埼玉大会に出るけど。しょうがないから教えてあげる」
そう言うとリサは携帯を取り出した。
「名前は秘密だよ。だから電話番号だけね。そうすればラインでメッセージも送れるでしょ?」
「それで良いよ」
「毎日ラインするね」
リサはクスクスと笑いながらそう言った。俺に連絡先を教えたいのか教えたくないのか良く分からなかった。
「毎日トライブ・ウォーの勉強をするんだよ。あ、そうだ……」
リサはポケットから定期を入れる様なカードケースを取り出す。
「これ、リーザのカード。私が初めてプレイした時、偶然出てきたの。記念に何時も持ち歩いてたんだけど。的場君にあげる」
そう言って取り出されたのは新品の様にとても綺麗なカードだった。いかにリサが大切にしていたのかが分かる。
「いいのかよ。大事なカードなんだろ?」
「ふふ、カード自体は皆持ってるカードだよ。でもこれを私だと思って頑張ってね」
リーザのカードはエルフ耳の女の子が元気に杖を振っている絵だ。確かに少しリサに似ているかもしれない。
「俺カードの保管とか苦手なんだよな……」
俺はカードを丁寧に他のカードと一緒にしまう。
「だから直ぐに返しに行くよ」
そう言うとリサは満面の笑みで笑った――。




