第六章 結束 4
『――早く帰ってこいよ』
『おほほほほほ! 戦いの前夜にデートとは、中々いい身分ですわね?』
二人から嫌味に近い送り出しを受け、俺は駅前に向かう。埼玉の夏は暑かったが、夜風は涼しく心地よい。
俺は約束のモニュメントの前に立った。約束の時間は八時だが、十分くらい前に着いてしまった。
「ああ……明日か」
自然と俺は夜空を眺めていた。街灯が明るいせいで、綺麗とは言えなかったけど、それでも、何も無い空を見ていると色んな事を考え――。
「わ!」
「おわぁあああああああ!」
いきなり背後から大声を出しながらタックルをされ、俺は自分でもみっとも無いくらい驚いてしまった。そしてそんな事をする人物は一人しか心当たりが無い。
「へへ、びっくりした?」
俺が振り返るとそこには屈託の無い笑みを浮かべたリサが居た。あの日出会ったままの姿で、俺は緊張が何処かに消えてしまったのを感じた。
「びっくりするに決まってるだろ」
「ふふ、ぼ~とセンチメンタルに立ってたからからかいたくなっちゃった」
「馬鹿センチじゃねえよ。まあぼ~とはしてたけどよ」
俺はしばらくリサと話した。リサは電話の時のリサと変わらず、そして俺はやっぱりリサを可愛いと、思い出補正無くそう思った。
「なんか、変わらないね。的場くんは」
「そんなに直ぐに変わるかよ」
「でも、ちょっと格好良くなったかも」
小さく顔を赤らめながら、リサはそう言った。そう言われるとなんだかむず痒くなる。
「ちょっと歩こうか」
「ああ」
俺達は並んで歩き出した。繁華街は賑わっていて、夜なのに人通りは多かった。
「大宮ってゲームセンターが多いと思わない?」
「確かに多いよな。まあだから大会の場所に選ばれたんだと思うけど」
「ふふ、そうだよね。だから昼間はゲームセンターに居たよ私」
「何だよ。それならその時、連絡すればいいじゃねえか」
俺がそう言うとリサは頬をリスの様に膨らませた。
「ふ~ん。でも、昼間は的場君、お・ん・な・の子に囲まれて忙しいでしょ」
「いや……別に」
「まさか二人目のメンバーも女の子とはね~しかも可愛いんでしょ?」
ニッコリとした笑顔が怖い……俺は背筋が凍り付くのを感じた。
「それは……まあ成り行き……別に意図した訳では……」
「ふふ、冗談だよ」
「いや、冗談に聞こえないって」
女の子はどうしてこうも冷たい目が出来るのかと、俺は戦々恐々である。
「でも……嫉妬したっていうのは本当かな……だって的場君、いつも楽しそうに紗月さんや、松葉さんの事を話すんだもん」
リサは爪を弄りながら上目遣いで俺を見る。
「もしかして……どっちかと付き合ってたりする?」
「付き合って無いよ」
紗月とは……確かに純粋な友達とは言えないかも知れないけど、付き合ってるわけでは無い。
「そっか~へへ、なんか安心した」
リサは屈託の無い笑みを浮かべた。そして再びゆっくりと歩き出す。
「そうだ。カードショップ行こうよ。この近くに有るの」
「良いけど……リサはもう全種類持ってるだろ?」
「それでもカードが一杯並んでるとワクワクするんだ! それに実は友達と一緒に行った事が無いんだよね~だから的場くんと初めて行きたいな」
「まあリサが良いなら俺は良いけどよ……」
「良し、じゃあこっちだよ」
そう言って自然にリサは俺の手を握った。しかし……リサの耳は真っ赤になっていた。
「ああ」
俺はそんなリサを見て笑った――。