第六章 結束 3
「上手く行くのかしら……」
埼玉大会の前夜俺はトイレに行こうと一階に降りていた。すると居間から声が聞こえた。どうやら紗月と松葉さんが話している様だった。
「何がだよ」
「……紗月さんも分かっているのでしょう? 的場さんの策が針に糸を通すほどの難事だという事を」
明日の大会について……というより、俺の策について話しているようだった。俺は盗み聞きするつもりも無かったが、何となく入るのを躊躇ってしまう。
「ああ、そうだな」
紗月は同意した。確かに俺も無謀だと思う。
「けど、俺はあのデッキから的場の本気を感じたよ。善戦をしようなんて考えて無い。神代に勝とうと思っている」
「ええ、確かに……ふふ、拙い所もありますがね」
「だからこそ……だよ。だからこそ俺達があいつを支えてやらなきゃならない。あいつを大会でピエロにしない。あいつの夢は俺が叶える。いや……俺達が叶える。だから松葉。明日だけは仲良くしてやる。お前もあいつの力になってやれ」
「ふふ、本当に紗月さんは的場さんが好きなんですね。どうしてそんなに好きなんですの?」
「うるせえよ。お前に関係ないだろ」
「いいえ、言わなくても分かりますわ。彼は純粋ですものね……彼は松葉財閥の私では無く、松葉麗を見てくれる。紗月さんもそうなんでしょう? 私達は何処か殻を被っていた。けれど、彼はそれを破ってくれた。
「…………」
「協力しますわ。松葉財閥、松葉麗では無く。ただの松葉麗が。だから勝ちましょう」
「ああ、勝つ。絶対にな」
俺は静かにその場を去った。二人にかける言葉が思い浮かばない。ただ――。
「絶対に勝つ」
人生で初めて。俺はこの言葉を本当の意味で使った気がした。
『ピリリリリリ』
その時、俺の携帯が鳴った。俺はリサからかな? と予感を感じながら携帯を見ると、やっぱりリサからだった。
「もしもし」
『もしもし的場君?』
リサの声は明るい。俺はその声を聞くだけで何だか楽しい気持ちになる。
「ああ、そうだよ。どうだ? 元気か?」
『勿論だよ! ねえ、的場君。今確か大宮に居るんだよね?』
「ああ、そうだけど」
『実は私も今、大宮に居るんだけど。良かったらこれから会えない? 街を散策したいんだけど、女の子一人じゃ危ないでしょ?』
「そうなのか。ああ、構わないよ」
『うんじゃあ八時に駅前で待ち合わせで』
そう言ってリサは電話を切った。久しぶりにリサに会える。俺は何処か緊張しながら、二階に上がった――。