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出会いはカードゲームで  作者: 徳田武威
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第五章 松葉財閥の麗  5

『おほほほほほほほ! 楽勝! 楽勝ですわ!』

 松葉の高いが何処か心地の良い笑い声が木霊する。

 天然か計算か分からないが……この挑発に乗っちゃ駄目だ。

 俺は自分にそう言い聞かせる。松葉ははっきり言ってかなり変わっているが、プレイスタイル自体は正当派、王道を行っている。今も俺達のチームの一人を他のプレイヤーと共闘して潰していた。

「君が王道なら俺達は邪道だ」

 俺は紗月に話していた作戦を実行に移す。

「マグナスを召喚」

 俺は自分の手持ちに有る最強のカードを召喚し、そして……手持ちのモンスターを全て進軍させた。

「畜生、癪だが今は劣勢だ。的場の策に乗るとするぜ」

 紗月もモンスターを全員進軍させる。つまり俺達の城を守る者は一人も居なくなった。

『おおおおほほほほほほほほ! 万策尽き果てて玉砕覚悟の特攻ですの? けれど、それで私の軍勢を抜けるかしら? 無謀が通るほど、このゲームは甘くないですわ?』

 松葉は迎え撃つ様に自陣に使い魔を配置した。使い魔は自陣に居る間は回復するので、自陣近くで戦線を展開する方が有利に事を進められる。

「いや、もう君とは戦わない」

 俺達は松葉の方に向かう事なく他の二人のプレイヤーの城を目指した。確かに他の二人もプラチナだけあって上手い、しかし、松葉に比べれば倒すのは可能だ。

「的場。俺が合わせる!」

 紗月のデッキは妨害で、どちらかと言えばディフェンスの強い使い魔が多い、紗月は的確に俺の使い魔を敵から守った。

「行ける」

 俺は固有スキルを使いながら、敵の主要アタッカーを狙う。アタッカーが倒れれば紗月へのダメージも減るからだ。

『ふむ……中々やりますわね。即席の連携ではない。かなり練りこまれています。確かにこれでは玉砕覚悟の速攻も通ってしまうかも知れませんわ』

 松葉はそう言うと自らの軍勢を進軍させた。狙いはガラ空きの俺達の城。

『しかし! 万に一つも貴方達に勝機を与えませんわ! 私が貴方達の城を落として差し上げましょう!』

 高笑いをしながら、松葉は俺の城を壊滅させた。ディフェンスの使い魔が居ないのだから当然だ。

『松葉財閥の後継者、この松葉麗は勝利を約束された者! 貴方達は私が熱くなって貴方達を止めに入ると読んだのでしょうが、私の史上目的は勝利! 勝利こそ全て! 勝つ可能性が一番高い選択をするのが王者の歩む道ですわ!』

 松葉はそのまま紗月の城に向かう。俺達が相手の城を落とすのには最低でも後二十カウント必要だが、松葉が辿り着けば五カウントで落としてしまうだろう。

『紗月さん! この勝負に勝って貴方を頂戴しますわ!』

 クレオパトラ率いる松葉の軍勢が、紗月の陣地に足を踏み入れた――。

『固有スキル発動。『終焉を招く悪戯』《ロキズトリック》』

 その瞬間、紗月の使い魔であるロキの固有スキルが発動する。その効果は、トラップを設置した範囲内に敵使い魔が入った時、その使い魔に隣接する使い魔諸共混乱状態にし、敵味方関係無く攻撃を加えるという物だ。

『トラップ! どうして!』

 松葉の悲鳴の様な声が響いた。それに紗月はニヤっと笑う。

「確かに松葉お嬢さんよ~お前の言う通りだと思うぜ、勝利こそ史上の目的、負けてしまったら何もならねえ。だがよぉ、俺はやられっぱなしっていうのは嫌なのよ。だからちっと仕返しさせて貰ったぜ」

 そう、俺の作戦はむやみな特攻じゃない。この罠に松葉を嵌める事だった。そして王道を行く松葉ならば、俺達が特攻を仕掛ければ必ずこう来る事は読めていた。通常トラップ使いを相手にする時は、雑魚使い魔でトラップの有無を確認するのがセオリーだが、俺達がヤケになったという油断から松葉はそれを怠った。

『どういう事ですの! こんな所でロキのトラップなど! 私が攻めないで守りに徹したら大量のマナを無駄にするだけですのに!』

「そうそう、確かにそうだ。しかしお前が相手にしてるのはトラップマスターモグラ様とその相棒だぜ。王道だけじゃこの道は通さねえ」

「ふふ、ノリノリだな。紗月」

 俺は楽しそうにしている紗月を見て笑う。やはり俺の仲間は超一流のプレイヤーだった。

『しかし! ですわ! この混乱状態が終われば私の城攻めは完成するわ! それまでに貴方達が私の城を落とせて?』

 松葉が震える声で叫ぶ。こちらの声は聞こえないだろうに、会話は成立していた。

「そりゃ……無理だろ。だがな」

 紗月は優雅にアルティメットスキルのボタンを押した。

『アルティメットスキル発動……『凱旋門』《リターンゲート》』

 紗月のアルティメットスキル、それは戦場に居る紗月の使い魔を全て自陣の城に戻すという物だ。

「トラップマスターの真骨頂は相手を欺く事だぜ。アルティメットスキルを早々に使用したお前に俺の罠から逃れる術は無い」

 城に戻った紗月の兵が混乱状態に有る松葉の兵に襲いかかる。初期に大量のマナと奥義を使っていた松葉にそれを防ぐ術は無い。

『いやああああああああああああああああああああああああ!』

 松葉の可愛らしい悲鳴。それは勝敗を表していた。

「さて! 後はお前が決めろよ! 大将!」

「任せろ」

 俺はワグナスを松葉の城の前に進撃させる。そして――。

『固有スキル発動……『最強の英雄』《ヒーロー》』

『パリィイイイイン』

 ワグナスの必殺技と同時にガラスの割れるような音とと共に城が破壊された。

「よっしゃ!」

 紗月が手を俺に伸ばした。俺はそれをパンと叩く。

 激戦を制し、俺達は勝利の余韻を楽しんでいると目の前に松葉が対面の台からこちらに向かって歩いてくる。その顔は悔しそうに俯いていた。

「今回負けたのは……他の二人が未熟だったからですわ。私、自身が負けたわけではありませんわ」

 震える小さな声で松葉はそう言った。その発言に紗月は不機嫌そうに眉を顰める。

「はぁ? 負けは負けだっていうの。チームのせいにするなんて二流の――」

「紗月、ちょっと待って」

 俺は紗月の言葉を途中で遮った。するとぷ~と紗月の頬が怒った様に歪む。

「確かにそうだね。松葉さん。俺が君と一対一で戦ったら、多分負けていたと

思う。本当に強かったよ」

「敗者に慰めの言葉を……」

 瞳に浮かぶ涙を松葉は必死に堪えている様だった。紗月はそれを見て溜息を吐く。

「慰めたら慰めたで文句かよ」

「いや、違うよ紗月。俺は慰めてなんか無い。松葉さん。本当に俺はそう思っている君は実際強かった。でも松葉さんの戦い方は仲間を支配する物。俺達の戦い方はお互いを信じる物。だから最後に読みを誤ったんだと思うよ」

 トライブ・ウォーは敗者にもポイントが戦績によって与えられる。プラチナになればチームプレイも出来るが、完全なる自己犠牲は出来ない。それが出来た分だけ、俺と紗月が上回った。

「仲間……ですの?」

「うわぁ~的場ってそんな感動的な事を言うんだ~引くわ~」

 紗月は俺をからかう様に俺の脇腹を突っついた。俺は紗月のおでこにデコピンをする。

「仲間……確かにこの松葉財閥後継者、松葉麗には不要の存在でしたわ」

 松葉はそう言って俺に向かって手を伸ばした。

「もう一度名前を伺っても良いかしら?」

「的場翔です。君は……松葉麗さんだよね」

 あれだけ自ら自己紹介してくれたのだから忘れる訳が無い。

「ええ、的場さん。今回は完敗でしたわ。約束通り、私は二度と貴方達の前には現れません。それでは紗月さん。さようなら」

「あ、ああ……」

 余りに潔良い松葉の態度に紗月は戸惑っている様だった。売り言葉に買い言葉だったが、紗月だって本心から二度と近づくなと言った訳では無いのだろう。

「ちょっと待って」

 だから俺は松葉の事を呼び止めた。

「ん? 何ですの?」

 優雅に髪を振り払いながら松葉は振り返った。しかし、その肩は微妙に震えている。プライドの高いと一目で分かる彼女が敗北した事のダメージは負けっぱなしで生きていた俺とは比較にならないのだろう。

「いや。まだ俺の要望を聞いて貰ってないのだけど?」

「はぁ? 何言ってんだよ的場」

 すると隣に居る紗月が苦いものを食べた時の様な顰めっ面で俺を見た。俺はその頭を撫でる。

「私は紗月さんと賭けをした覚えはありますけれど、的場さんと賭けをした覚えはありませんわ」

「うん。でもまあ俺と紗月はチームメイトだし、二人で勝ち取った勝利だからさ。俺も何か欲しいなって、いいでしょ? 松葉さん財閥の後継者だし、多少のお願いなら」

 自分でも滅茶苦茶だが、まあ、言われた本人である松葉さんは失望したような表情で俺を見ていた。そんな顔を絶世の美女にされるとさすがに傷ついた……。

「言ってごらんなさい。そのお願いを叶えるかどうかは聞いてから決めますわ」

 どうやら聞くだけ聞いてはくれるらしい。良かったあのまま帰られた物凄く格好悪かった。

「……松葉さん。俺達のチームに入ってよ。俺達と仲間になってよ」

「……はぁ……絶対言うと思った」

 紗月は肩をガックシ落として溜息を吐いた。そして恨めしそうな目で上目遣いに俺を

見る。

「私が……仲間に……」

 松葉さんはびっくりした様に目を見開いていた。そして口元を手で覆う。

「うん。今度大会に出るんだ。その大会に一緒に出てくれたら嬉しいなぁ……って」

 ボリボリと俺は頭をかいた。そう言えばリサにこれ以上チームに女性を入れない様に言われたが、まあ……いいか。

「しかし、私は負けましたわ。紗月さんも私が加入する事は本意では無いはず」

「別に紗月は本当に君を嫌ってるわけ無いさ。紗月はトライブ・ウォーが大好きだからさ、きっと良い友達になれる。ほら、紗月握手」

 俺はそう言って紗月の手を後ろから持つと操り人形を操る様に手を伸ばした。

「的場殺す。的場殺す。的場殺す。的場殺す……」

 何だか怖い事を言っているが今は聞かない事にしよう……。

「良いんですの……私で」

「俺達は松葉さんが良いんだ。それに俺達皆、友達居ない逸れ組だからきっと仲良くなれると思うよ」

 余計な事を言わない様に俺は紗月の事を抱き込んだ。すると紗月は苦しいのか顔を赤くしていた。

「どうかな?」

「私は……」

 松葉さんの紗月に向けられた手が迷っている様に彷徨う。しかし、やがて松葉さんは手を完全に下ろした。

「……いいでしょう! 私、松葉麗が貴方達の仲間になって差し上げますわ。光栄に思いなさい! おおおおおほほほほほほほほ!」

 高飛車にこんな笑い方をする人間が本当に居るんだなというくらい思いっきり松葉さんは笑った。俺も釣られて少し笑う。

「よろしく頼むよ」

 俺は手を差し出した。すると松葉はすっと手を引く。

「失礼。私男性とは握手はしない主義ですの」

 そんな……そんな主義が有るのか……。

「よろしくお願いしますわ! 紗月さん!」

 松葉は強く紗月の手を取った。紗月は最早諦めたのか、されるがままである。

「私がリーダーになったからにはどんな大会でも無敵ですわ! 皆さん私のフォローをお願いましすわ!」

「おい! 誰がお前をリーダーと認めた! リーダーは的場なの!」

「お、俺ぇ?」

 いや、そんな話しはしてないだろ紗月……。

「しかし先程的場さんは私の方が強いとおっしゃいましたわ! ならば私が一番上に立つのは当然!」

「はぁ? それなら俺の方が的場よりお前より強いし! つうかお前がリーダーなんて絶対やだし」

「あら、幾ら紗月さんが可愛くても聞き捨てなりませんわ。紗月さん! これからソロで勝負しましょう!」

「はぁ? 望むところだし」

「二人とも元気だなぁ……」

 結成された仲間達のチームは早速瓦解しそうだった――。



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