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出会いはカードゲームで  作者: 徳田武威
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第五章 松葉財閥の麗  4

第一章が長かったのにここまで読んでくれた方がいらっしゃったらありがとうございます

「デッキは新しいデッキじゃなくて何時も使っていた奴にしよう」

「……良いのかよ的場? プラチナランクとのガチ勝負なのに、新デッキを試さなくて」

「ああ、仮にも紗月を賭けた勝負だ。万が一にも負けたくない」

「的場……」

「それに、最初で最後って訳じゃないさ。俺達が勝った後に練習に付き合って貰えば良い」

「フン! 俺は勝ったらもうあいつとは話さないからな!」

 紗月はそう言ってそっぽを向いた。子供みたいなその様に俺は少し笑う。

「あの子もそんなに悪い子じゃないよ。それくらい紗月も分かってるんだろ?」

「ふん。まあ、的場はあの女に夢中だからな」

「それ以上に紗月に夢中さ」

「馬鹿! 馬鹿! 畜生、やってやるぜ。あの女、俺の罠に完全に嵌めて同じプラチナでも格が違うって事を見せて、泣かせて、それを俺はあいつの様に高笑いして見ててやるぜ!」

 どうやら紗月にもモグラとしてのスイッチが入ったらしい。こうなった紗月は絶対に負けない。

 俺達のデッキ構成は俺が七英雄、ワグナスを主体としたパワーデッキ、紗月がロキを主体にした妨害デッキだ。お互いの得意デッキだし、バランスが取れている。お互いがこのデッキを使用しての勝率は九割を越える。

『おほほほほほ! 私のデッキはご存知! ロイヤルデッキですわ!』

「凄いな……対面に座ってるのに声が完全に聞こえて来るんだけど、完全に独り言だよね?」

「的場、気にするな。ああいう痛い奴はたまに居る。そしてロイヤルデッキって何だよ……そんなデッキ聞いた事ねえよ……」

 松葉のせいで周囲にギャラリーが集まっていた。更に言うなら俺を含めて三人がプラチナランクの戦いだ。これは結構珍しい。

「おい……的場見ろ、あいつのデッキ、これはクレオパトラデッキだ」

「クレオパトラデッキって……」

 俺はゲーム画面を確認しながら言葉に詰まる。俺は今となっては殆どのカードを知っている。勿論この王冠を被った美女、クレオパトラの事も、しかし……。

「ああ、はっきり言って弱い。通称ネタデッキだ。これでプラチナかよ。笑わせるぜ」

 紗月は余裕の表情を浮かべる。確かにクレオパトラデッキはクレオパトラの固有スキルである《甘え上手な瞳》〈ラブテンプテーション〉が適用される使い魔が極端に少ない。つまり相手がする事がこっちに丸分かりで対策も容易に出来てしまう。低ランク同士の戦いならば、協力無比なその力が発揮される事があるが上位ランカー達の間ではとっくに淘汰された存在だ。

「そう……だな」

 しかし、俺はこのデッキから、何というか黒いモヤの様な得体の知れない物を感じた。だが、勿論気のせいだという事が大半を占めるので、俺はその感情を胸に押し込める。

『TRIBE WAR』

「いくぜおら!」

 威勢の良い声とは反対に、静かに深く紗月は罠を張っていく。その罠に松葉のチームメンバーは次々と足並みを乱されていた。

「何だよあの女! 威勢の良い事を言っている割にはやっている事は堅実なマナ集めか! そんな隙を与えるわけがねえだろうが!」

 紗月は荒らしを切り上げると松葉の陣地に向かう。マナを貯め切られてしまったら、クレオパトラの強力な固有スキルが炸裂してしまう。それを未然に防ぐ一手だ。

『固有スキル発動……『狂乱の宴』《マッドパーティー》』

 紗月のウェアウルフの固有スキルが発動する。その効果はウェアウルフのアタック力を二倍にする。しかし、副作用として敵味方関係無く全方位に攻撃をしてしまう。扱い難い技だが、紗月は自らの使い魔もろとも敵を殲滅するつもりだ。そのタイミングが絶妙で紗月の一流たる所以だ。

『おほほほほほほ! 甘いですわ! 固有スキル発動! 『隷属する民』《サボディネイト・ネイション》』

 しかし、それと同時に松葉の使い魔である。ファラオのミイラが固有スキルを発動した。その効果は指定した敵の攻撃を自らに全て受けるという物で、紗月のウェアウルフの攻撃は全てミイラが受けて消滅した。

「馬鹿が! 俺は一人でもクレオパトラの能力を受ける奴を削れれば良かったんだ。ファラオのミイラは基本スペックが高い代わりにスキルが糞で本来スキルを使う要因じゃねえ。マナの無駄遣いだぜ!」

 このやり取りは紗月の荒らしが成功した。俺もそう思っていた。

『おほほほほほ! 全く皆さん考える事が同じですわね』

 しかし、そんな紗月の声が聞こえていたかの様に松葉の声が響いた。

『アルティメットスキル発動……足を引っ張る魔女ウイッチ・ドラッグ

 戦いはまだ中盤、だが松葉はここでトライブ・ウォーの要であるアルティメットのスキルを発動する。

「ウイッチ・ドラッグだとぉ! 糞ドマイナーな!」

 紗月がそのアルティメットスキルに目を見開いた。このスキルは範囲内に居る使い魔が死亡した際、復活までの時間を二十カウント遅くするという者だ。勿論範囲内ならば、味方の使い魔にも適用される諸刃の剣。

『紗月さん! クレオパトラは囮、貴方は必ず私を荒らしに来ると思いましたわ。けど、真の女王は民を強化などしません。民は駒! 女王はただ存在するだけで価値のある存在なのですわ!』

『固有スキル発動……『死の問答』《デスクエスチョン》』

 中型の使い魔スフィンクスの固有スキルでウェアウルフと乱戦に来ていた紗月の小型使い魔が抹殺された。恐らく松葉のマナはゼロに近い。

『足並みを乱しに来たのでしょうが乱されたのは紗月さんの様ですね。私はこれからマナを貯めて、ゆっくり止めを差して差し上げますわ』

「くっそ! この俺が嵌められるとは!」

 紗月は悔しそうに台を叩いた。俺は紗月に声をかける。

「紗月。落ち着こう」

「ああん! 落ち着いてるよ!」

 イライラした様に紗月は俺を睨みつけた。俺はそれに笑みを返す。

「大丈夫。紗月の方があの子より上手いよ。けど……俺達にも油断が有った。デッキに騙されたが、松葉さんも相当に技量があるし丁寧だ。全国一を自負するのも伊達じゃない」

「……ああ、確かに上手いな。糞ムカツクが」

「多分、松葉さんは本気で来てる。あのデッキは確かにワンパターンだ。しかし、それは逆に言えば、相手がしてくる事も良く分かってる。だから対応が上手い。俺達も松葉さんの裏をかかなきゃならない」

 ここまで話すと紗月は冷静になったのかカードを動かしながら俺の方を見詰めた。

「何か策が有るのか?」

「ある」

 俺は紗月が安心する様に力強く頷いた――。



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