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出会いはカードゲームで  作者: 徳田武威
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第一章 ギャンブラーの休日

呪文とか考えられる人を尊敬しています

「あ~駄目だ。今日は設定入ってないわ。回収だ」

 俺はタバコに火を点けながら天を仰ぐ、気力は最低を越えて、脱力してしまっている。

的場まとば君さ。今月ヤバくない? 負けまくってるでしょ?」

 俺の隣で永井ながいが笑う。ダボダボのTシャツに黒縁の眼鏡をかけたお洒落とは無縁の男だ。

「まあな。しかし、糞。何なんだよあの俺の隣だけ馬鹿みたいに出る現象は」

「まあしょうがないじゃない。昔から的場君。ヒキが弱いし。ギャンブルやめたら?」

「あ~辞めてえよ。しかし、また一週間くらいすると行っちまうんだよ」

「依存症じゃん。フリーターだし、将来どうすんの?」

「あ? まあ適当にそのうち就職するよ」

 何だか何時もこんな会話をしている気がする。会話からも分かるように俺はフリーターで、ギャンブルが好きな、まあろくな人間じゃない。そんな奴とまともに付き合ってくれるのは高校時代から友人のこの永井修平だけだった。

「いつもそんな事言ってるよね~まあ良いけど。それよりこれからどうする? 僕は明日仕事だから帰ってプレゼンの書類作るけど。ウチ来る?」

 ちなみに永井は大学を卒業して普通のIT企業に入社していた。残業はあるがきちんとお金は貰えるし、良い職場らしい。

「いや、邪魔しても悪いし、俺もそろそろ帰るわ。朝一で並んで眠いし」

「そっか、それじゃあまた。僕、御徒町だから」

「おう。じゃあな」

 俺は手を上げて答えると駅に向かって歩き出す。永井と分かれると何だか力が抜けてしまった。

「帰るとは言ってもまだ早いな……飯でも食ってくか?」

 独り言を呟きながら店をぼんやりと眺めていた。すると耳にジャラジャラと聞き慣れた音が聞こえて来た。

「ゲーセン……か」

 俺は目の前に有る建物の前で止まった。入口にはUFOキャッチャーが並べられ、若者って言うほど俺も歳を食っちゃいないが、学生達が遊んでいた。

「そういえば……最近行ってないな」

 ゲーセンは大学生以来行ってない。当時はメダルゲームや恪ゲーに嵌ったが、ある程度金を持ってパチンコ屋に行くようになると、金を賭けている刺激が無いせいか、自然と疎遠になっていた。

「タバコも吸いたいし、久しぶりに入るか」

 俺はUFOキャッチャーを抜けて店の階段を上がる。すると一気に店内がゲームの音で騒がしくなった。

「うるせえな。相変わらず」

 しかし、この五月蝿さが良い……と、俺は思う。何でもそうだが、騒がしい物は人の心をワクワクさせる気がする。

「メタルスラッグか。昔、永井と良くやったな。結構古いゲームもあるじゃん」

 全く知らないゲームも有ったが、俺がガキの頃にやったレトロゲームも多数置いてある。今のゲームは正直意味が分からないが、これなら出来そうだ。

「どうせなら、全部のフロアを回るか」

 久しぶりのゲーセンを満喫すべく、俺は他のフロアを見て回る事にする。ゲームフロアの次は音ゲーのフロアーだった。

「何だこれ……」

 眼鏡の太った男が凄い勢いで画面にタッチしている。画面には女の子のキャラクターが踊っていた。

「すげえ勢いだな……ていうか、何の機械なんだ?」

 昔はドラムやギタービートマニアが最新だった気がするが、今のは何というかデザインもスタイリッシュで、近未来に来たみたいだ。

「しかし、俺がやるのはちょっとキツイな」

 どう見てもこのフロアに居るのはベテランというかやり込んでいる人間に見える。そんな所で下手なプレイを見せるのも恥ずかしかった。

「これが最上階か」

 音ゲーフロアはざっと越えて俺は最上階にやって来た。このフロアは比較的静かだ。

「おおう。麻雀か~久しぶりにやろうかな……永井麻雀出来ないし」

 ドラゴンのマークが付いた筐体にテンションが上がる。他を見たらこれをやる事にしよう。

 ブラブラと最上階を回る。どうやらここは他とは違い、何やらテーブルにカードを置いてプレイするタイプの機器が集められている様だった。そんな中、俺は一つの筐体に目を奪われた。

『トライブ・ウォー』

 戦士・ドラゴン・海人? ・妖精・神・モンスター。確認出来ないのも居るがそんなキャラクターが描かれたでかい筐体が相当な台数並んでいる。一台のでかいモニターには全国ランキング戦が映し出されていた。

「何かすげえな。こんなの有るの? 今のゲーセンは」

 俺が昔見たアニメの軍用のシュミレーターの様な、進化の粋を集めた筐体だった。その周囲にはこのゲーセンで一番賑わっていて、プレイしてない者もパイプ椅子に座りカードを眺めている。

 俺はそんな中隅っこに空いているスペースを発見した。そしてそこにはトライブ・ウォーの小冊子が置いてあった。俺はそれを手に取り眺める。

「う~ん。良く分からん」

 一通り眺めて見た感想がそれだった。どうやら自らの使い魔を使用して、相手の陣地を奪えば勝ちのゲームらしいが、操作が相当複雑だった。一読しただけでこんなゲームですと、説明するのは困難だろう。

 俺はタバコに火をつけてペラペラと小冊子をめくっていく。多分、このタバコが吸い終わる頃には、小冊子を捨て麻雀に行っていただろう。

『初心者でも安心の分かり易いチュートリアル。一回試して見てね!』

 しかし、最後のページのこの一文に俺の目は止まった。チュートリアルがあるならば、まあやれん事も無いかな……と折角ゲーセンに来たんだし最新のゲームを体験して帰ろうかなという気が起きた。

「あん……何だよこれ、結構色んな物買わなきゃいけないんだな」

 よし、やろうと思い席を立ったがどうやら小銭を入れれば直ぐに出来るゲームという訳では無いらしい。どうやら個人カードとスターターデッキが必要な様だ。しかし、親切にもそれらは筐体のすぐ横に有った。

「五百円って結構高いな。まあ、パチスロやって今日五万スって来た俺の敵では無いが」

 俺は取り敢えず個人カードを購入する。すると妖精の刻印がされたカードが出て来た。続けてスターターデッキを買う。

「これでいいんかな?」

 俺はキョロキョロと店内を見渡した。すると無制限だとか、何だとか訳の分からん事が書いて有った。意味が分からないので一番人の居ない席を探しそこに着席する。

「一回三百円かよ。マジやばだな」

 俺はコインを入れた。すると可愛らしいエルフの妖精が現れ、ユーザー名を決める様に言ってくる。俺はタッチパネルになっている筐体に触れてユーザー名を入力する。

「轟金剛……と」

 そうしてやっとチュートリアルが開始された。スターターデッキのカードを筐体にセットする様に言われた。俺は適当にそれを並べて行く。

やべえ、ちょっと恥ずかしいな。おっさんがカードを並べる姿ってきつい物が無いか?

 しかし周囲を見るとサラリーマンなのか、スーツを来たおっさんが物凄い形相で画面にタッチしていた。まあ、あれくらいはここでは違和感無いのか~。

『使い魔を召喚するにはマナが必要なの。マナの供給源まで使い魔を移動してね』

 どうやらカードをタッチし、使い魔を選び、行きたい場所をモニターでタッチすれば、移動出来るらしい。意外と簡単に操作出来き、俺は安心した。

『次は攻撃だよ。カードを斜めにして……』

 妖精のチュートリアルは続く、そこで基本の操作は大体掴む事が出来た。具体的に分かったのは敵の陣地で有る三つの城を落とせば勝ちらしい。勿論敵はそれを防衛し、敵もこちらの城を攻めて来る。それらの駆け引きが必要な様だ。

 更にこのゲームはインターネットを通じてプレイヤー同士三対三の試合が特徴の様だ。自分と味方の協力が必要な様だった。

「う~ん大体分かったし、チュートリアルはもういいや」

 俺は妖精が説明している最中だったが、チュートリアルを飛ばした。どうせ一回しかやらないのだし、ガッツリ知ってもしょうがない。

 すると画面がマッチングを開始した。初戦はNPCとの対戦みたいだが、味方側は全国のプレイヤーから選ばれるらしい。しばらく待っていると、ゲームが始まった。

『ゴウゴゴウォオオオオオオオオ』

 何とも形容しがたいが、炎の様な音が左右のスピーカーから流れる。まるでその場に居る様な臨場感がある。

「え~まずはプレイヤーを移動させて、マナを確保」

 マナが僅かに溜まったら、コストの低い使い魔を召喚する。

「これか、レッドスライム」

 カードをタッチすると画面上に赤いスライムが現れた。ビヨンビヨンと跳ねて、テンションが高い。

《名・スライム、属性・火、種族・モンスター、クラス・アタッカー、アタック・10、

ディフェンス・20、コスト・10》

「うん。取り敢えず敵陣に突撃だな」

 俺はパネルをタッチして敵陣を指差した。スライムはヌルヌルとゆっくりと進撃を開始する。

「おお、戦ってる~」

 スライムは敵陣に着くと敵の半魚人と戦っていた。そして直ぐに消滅した。

「弱い! レッドスライム弱いぞ!?」

 しかし、その頃にはマナが溜まり二体目のモンスターで有る。ヘドロバンドが召喚された。

「何か俺のカード、キワモノしかいないんだが……まあ、いいや」

 ヘドロバンドを再び突撃、ヘドロバンドは相手に絡みつく様に攻撃している。

「それにしても凄いなこのエフェクト? 動き。一体一体全く違う動きしてるよ。全キャラに対応してるのか?」

 まるで映画を見ているような派手な戦闘が繰り広げられていた。これは面白い。応援したくなる。

 ヘドロが粘っていると、味方の増援がやって来た。騎士になった剣士、名はデュラハンと表示されている。

「すげえ、格好良いな」

『固有スキル発動。冥府の一閃』

 見ていると画面のデュラハンが光輝く、そしてアップになると技のエフェクトが表示され半魚人に向かって放たれる。

「強い。デュラハン強い」

 なるほどあれが固有スキルか。俺も使ってみよう。

 俺はデュラハンに倣い、ヘドロの固有スキルを発動する。

『固有スキル発動、沼地生成』

 ヘドロバンドが爆発的にでかくなり、そして周囲に弾け飛んだ。周囲の地形が沼地に変化する。

『ウォオオオオオオオオオオオオオ!』

 ヘドロになった地形で敵と味方が激戦を繰り広げている。

「それだけかよ!」

 どうやら俺のヘドロは無駄死にだったらしい。というか、ヘドロで馬の足を取られたデュラハンは敵の小人の弓兵に撃ち殺された。

「なるほど奥が深い、味方が死ぬという多大な被害は出たが……」

 味方が近くに居なくて良かった怒られそうだ。

 気を取り直して俺はマナを貯める。そして終盤になり、大砂虫という巨大なモンスターを召喚した。

「おお、強い強い。圧倒的じゃないか」

 大砂虫はドンドン敵を押し潰して行く。ドラゴンも飲み込み、向かう所敵無しだった。

『WIN』

 そして大砂虫の一撃で敵の城は陥落した。NPCが相手とはいえ、中々やりごたえが有った。

「お、結構遊べたな」

 時間は十分以上経っている。パチスロで五分間に千円使う事を考えれば有意義な遊びだったかも知れない。

「さて……どうするかな……」

 カードを買ったは良いが、しかし、これからもやるとは思えない。何処かに捨てて行こうかな? と俺が周囲をキョロキョロしていた時だった。

「あれ? もう止めちゃうの?」

 後ろから聞こえた声に俺は振り返る。するとそこには快活そうな笑顔を浮かべた少女が居た。

「? ああ、そうだけど」

 俺は周囲を見渡す、空いている筐体はまだ有るし、順番待ちでも無い様だが……。

「そうなんだ~ねえ、お兄さんってさ、初心者でしょ?」

「ああ。今日初めてやったけど」

 何だろうこの子は随分グイグイ来るな……。

「まあ、もう満足したよ。最近のゲームは凄いな」

「そうでしょ? 特にトライブウォーは最近のゲームじゃ一番面白いよ。奥が深いし、でもお兄さん。満足するのは早いんじゃない? お兄さんはまだトライブウォーの面白さを百パーセント理解しているとは言えないと思うな」

 ニコニコと楽しそうに少女は笑う。良く見るとかなり可愛いし、俺は話を聞いてもいいかなという気になっていた。

「へえ~じゃあ君は俺が知らないこのゲームの面白さを知っているわけだ」

「勿論。だから私がこれからお兄さんにそれを教えてあげましょう」

 少女は胸に手を当てて自慢げに微笑む。何だか随分幼い様に俺は見えた。

「とにかくまずはデッキ作りだね。技術の体得は後々、トライブウォーの魅力はグラフィックとカードの格好良さだよ」

 そう言って少女は背負っていた熊のリュックサックをドスンと机に下ろした。そしてそこからアルバムの様な物を取り出すとそれを開いた。

「じゃ~ん。凄いでしょ私はトライブ・ウォーのカード、限定品も含めて全種類持ってるんだよ?」

 アルバムだと思ったのはカードケースらしい。大量のカードがそこには並べられていた。

「凄いな……ていうか、全種って何枚くらい有るの?」

「う~ん。増え続けているから今あるカードって事になるけど、今は一0九二種だよ」

「一0九二!」

 凄まじい数に俺は正直引いてしまう。

「いや、カードって幾らぐらいかかるの? やばく無いか?」

「あははは。カードに値段はかからないよ? ゲームを一プレイしたら一枚カードが排出されるの」

「いや、それにしたって、ワンプレイ三百円だろ? 全種類ダブり無く出たとしても三十万くらいかかるじゃねえか」

 いや、実際はダブらないで全種集めるなんて不可能だから、その何倍もかかっているはずだ。

「あはっ! 確かに排出だけで全種集めるのはお金が幾ら有っても足りないかもね。 でもカードショップに行けば売ってるし、自分が持っているカードでもダブりは売っちゃうから、そんなに全種を集めるのは難しく無いよ。でも大会限定品とか有るから、そっちを集める旅費が寧ろきついかも。北海道とか行く事有るし」

「はぁ……何か凄いな……」

 ただただ呆然だった、カードゲームにそこまで心血を注ぐ意味が分からない。

「あはは。でも私の場合はそんなにお金掛かってないかも、大会とかで賞金も貰ってるから。まあ他の人から見たら使ってるかもだけど」

「大会? 賞金とか出るのか?」

「うん。アメリカで優勝すれば、結構な額を貰えるよ。一番大きい大会で一千万くらい。トッププレイヤーはこれで食べてる人も居るし」

「そうなのかよ。という事は君もアメリカとかに行くのか?」

「うん! 日本の上位ランカーは国際大会には連れて行って貰えるから。あ、ちなみに私は日本ランキング四位ね」

「へえ~すげえな……」

 凄いと言った物の、それがどれくらい凄いのかはピンと来なかった。しかし、まあ相当やり込んでいる事は理解した。

「あ、そう言えば自己紹介してなかった。私の名前はリーザ。よろしくね」

「リーザって、どう見ても日本人に見えるけど? 渾名?」

「渾名っていうか、ユーザーネームね。本名を教えるのはちょっと恥ずかしいから。それに私の場合こっちの方が浸透してるから」

「いやでも俺、君の事リーザって呼ぶの恥ずかしよ」

「う~んなら。リサとかで良いんじゃない? それなら日本人にも居るし恥ずかしく無いでしょ? それより、お兄さんの名前は?」

 コクンと首を傾げる仕草が可愛らしい。俺は変に無防備なリサに顔を背けながら答える。

「的場だ。よろしく」

「的場さんか~珍しいね。渾名は何?」

「無いよそんな物」

「ふふ、そっか。じゃあ的場君。折角だから私がカードの説明をしてあげましょう」

 そう言うと嬉しそうにリサはカードの説明を始める。これは限定品で~とか、これは人気が有るとか……まあマニアは自分のコレクションを語るのが好きらしいから彼女もその一種なのだろう。

「お、これロマサガじゃん」

 そんな中、俺の目にある一つのカードが目に止まった。それは昔俺が嵌ったゲーム、ロマンシング・サガ2に出てくるボス、七英雄の一人がカードには描かれていた。

「ふふ、トライブ・ウォーはタイアップも沢山されててね。これはその一部、こういったのも魅力なんだよね~」

 良く見ると他にも何処かのゲームでみたキャラがある。これがあのグラフィックで動くならファンは嬉しいかも知れない。

「マニアックな所で行くならライブアライブとかね。タイプ人で出てるよ。固有スキルが特徴的でかなり使い辛いけど」

「ほうほう……」

 リサの説明は分かり易くそして面白かった。この時俺は固有スキルにはコンボがある事を理解した。

「それでこれが私が一番気に言っているカードで、私がこのゲームをやるきっかけになったカード」

 そう言ってリサは一枚のカードを取り出した。そのカードの名はリーザ。リサのユーザーネームと同じだった。

「でもこれ、別にレアとかじゃないぞ?」

 さっき教えて貰った限りだと、コモン、レア、スーパーレア、レジェンドと四つの段階が有るらしいが、リーザはコモン。つまり一番出やすいカードだ。

「うん。殆どの人が持ってるし、すっごく使い辛いカードだから。あんまり人気が無いんだけど、私はこれが一番好きなの。私がゲーセンでモニターを見ていた時、リーザが使われてたんだけど、固有スキルでダイスを振るんだけど、それがすっごく可愛いの。しかもダイスに成功すると覚醒して綺麗な女の子になるんだ~。あの瞬間が私は一番好き」

 リサはその時を思いだしているかの様にカードを撫でる。

「それがきっかけで始めたら奥が深くて夢中になってたら上位ランカーになってました」

 照れた様に笑うリサ。綺麗に揃った白い歯が見えて、それが何だか彼女の人柄を表している様だった。

「すげえな、そんだけ夢中になれるって単純に凄いと思うぞ」

「へへ、だから的場君にも楽しんで貰えたらなって。思って声をかけたんだ」

「……どうして俺に?」

 リサはまあ、特別アイドルみたいに可愛いってわけでは無いが、十分に可愛らしい女の子だ。そんな子が声をかけてくれれば正直悪い気はしないし、期待してしまう部分も有る。

「う~とね……」

 それからしばらくリサは何かを考える様に腕を組んだ。しかし、しばらくするとあっけらかんと笑った。

「的場君が物凄く下手だったからかな!」

「おい……」

 自覚はしていたが改めて言われるとちょっとイラッとする。

「ごめんごめん。でも何だか初めてプレイしていた頃を思いだしちゃって、しばらく後ろから見てたんだけど、あのヘドロバンドのシーンで、ちょっとやられちゃった。おかしくて」

 ヘドロバンドという事は俺が味方を巻沿いに死んだシーンの事を言っているのだろう。

「大胆なプレイングだよね。それに的場君は他の初心者と違って真剣にやってたし、楽しんでいる様に見えたから、思わず声をかけちゃった」

「そっか、まあいいけどよ」

「じゃあ、早速新しいデッキを組んで再チャレンジだよ。私が初心者でも扱い易いコンボを教えてあげるから。それを的場君が使って行くって事でどう?」

「おう。頼むわ」

 俺達は笑い合うと二人で……というか主にリサがデッキを作った。そして俺はそれを手に筐体に向かう。

「基本的な事はやりながら説明していくから」

 リサはちょこんと俺の隣に座った。俺は若干触れる身体に正直ドキドキしながらもプレイを開始する。

「相手に付いたらスケルトンはカードを斜めにしてこう! そうすれば斬撃が出るから」

「こうか?」

 俺は言われた通りに操作してみる。しかし、意外にタイミングと敵との距離が難しく、スケルトンはウロウロしていた。

「ちょっと遅いよ。貸して……こう!」

 リサは俺のカードを手に取ると素早く手を動かした。すると凄まじい速度で斬撃が繰り出される。斬撃の雨が降っていた。

「出来なくてもいいけど出来た方が多少有利なの。だから斬撃はマスターして!」

「お、おぅ……」

 ゲームが始まると中々リサはスパルタだった。勿論、教え方は丁寧で優しいだが、妥協を許さないというか、斬撃一つ取っても完璧にマスターさせようとしている様だった。

「う~ん。的場さん。こうだよ。こう」

 そう言ってリサは俺の手を取るとスっとカードを引いた。それから何度も何度も俺の体を使って斬撃を繰り返す。

 しかし、この態勢は……端から見るとバカップルの様に見えないだろうか? それが心配だった。

「タイミングを見極めて今の感じで。それじゃあ的場さんやってみて」

 リサはそんな事は微塵も思っていなかったのだろう。スっと体を離した。俺は言われるがままにやってみる。

 タイミングを見極める、ね……。

 俺は自慢では無いがパチスロぐらいしか趣味が無いのでかなり打ち込んでいる。その中でビタ押しという技術が有るが、それは回転する図柄をコンマ一秒で止めるという物である。ちなみに俺はそのビタ押しが得意で、回転していても図柄をはっきりと見る事が出来た。

「リサのおかげでタイミングは掴めた……」

 回転する図柄を止める事に比べれば斬撃のタイミングを見極める難しく無い。やり方さえ分かれば後は簡単だった。

『ザンザンザン!』 

 スケルトンが斬撃を開始する。それが決まると普通に戦っている時よりも相手のHPが削れた。

「上手い! 凄いよ的場さん!」

 リサが隣で手を叩いて喜んでいる。その無邪気な様子に俺も自然と笑みが溢れた。

 その後、アタッカー、ディフェンダー、マジシャンの順にこれはスキルを覚えた。リサの説明は論理的で初心者の俺にも分かり易く、短い時間で体得する事が出来た。

「スケルトンが壁になって、アークデーモンの固有スキルで相手の陣地を荒らす。そして七英雄のワグナスの固有スキルを使って、そうすれば相手は使い魔の再生に時間がかかるから、足並みが崩れるよ」

 基本が身に付いた所でリサはコンボを教えてくれた。コンボは決めれば固有スキルの効果が相乗効果として上がる。更にエフェクトもついているので格好が良かった。

「何かさっきと違って侵攻の速度が早いな」

「あはっ! さっきの的場君は相当泥仕合してたからね。他のプレイヤーも初心者だし、そうなると物量戦になっちゃうね」

『WIN』

 俺のワグナスの一撃が敵の拠点を落とした。三つの拠点を落とすのにさっきの半分の時間もかからなかった。

「面白いな……」

 さっきと違い、戦況を理解出来たおかげで、自分の功績というのが良く分かった。トライブウォーの戦術の深さを感じられた気がした。

「そうでしょ!」

 リサが嬉しそうに俺の肩に手を置く。

「でももっと面白くなるよ。今回はNPCが相手だから好きな戦術が通ったけど、これがプレイヤー相手だったら簡単に通らない。けど、それを掻い潜ってコンボが決めるとそれが最高に気持いいの!」

 共感して貰えた事がよっぽど嬉しかったのか、リサは饒舌だった。

「良し。じゃあ、基本プレイを抑えた所で実践編に入ろうか?」

「実践?」

 実践と言われても今、丁度対戦をしたばかりだが。

「今まで的場君がプレイしてたのはストーリーモードってやつで、コンピューターとの対戦、今からやるのはマルチプレイだよ」

「そうなのか……でも俺は初心者だぜ? 上級者と当たっても勝てないと思うが」

「それは大丈夫だよ。マッチングはクラスを元に選ばれるから、ちなみに的場君は今日から始めたからブロンズのEだね」

「そうか、それなら安心だな」

 格ゲーをゲーセンでやって来た世代だから、完全なランダムで選ばれるのかと思っていた。

「しかも今日やるのはタッグ戦だよ。私と一緒のチームになって戦うの」

「へ~そんな事が出来るのか?」

「うん。フレンド登録しておいて、タッグ戦を選べば大丈夫。三対三だから、一人は知らない人になっちゃうけどね」

「そうか。まあ、楽しそうだな」

 正直、色々教わったのでリサのプレイに興味が有った。

「うん。じゃあ私、隣に座るね」

 そう言ってリサは俺の隣の筐体に座る。そして隣で俺にタッグ戦のやり方を教えてくれた。

「的場君はさっきの感じで良いよ。今回は私がサポートデッキを使うから」

「? デッキに種類があるのか?」

「あはっ。ごめんごめん。公式じゃないんだけどね。主力で戦う人をアタックデッキ。守りに特化した人をディフェンスデッキ。他の人をサポートする人をサポートデッキって呼んでるの」

「そうか……まあ良く分からんが頼むよ」

「うん。任せてください!」

 リサはそう言うと胸を張った。

『マッチング中……』

 画面にはリーザという名前と轟金剛という名前が表示されている。しばらくすると画面に六人の名前が出揃った。

「ねえ、轟金剛って何の名前? アニメ?」

「いや、パチスロ」

「え? 的場君ってパチスロとかやるの?」

「うん。まあ」

「私、ギャンブルって嫌い。勿体無いじゃん」

 結構言難い事をリサはズバッと言った。しかし、その真っ直ぐさが俺には不快では無かった。

「あっそ」

「ふふ、だから的場君。トライブウォーやろうよ。パチスロよりずっと面白いよ?」

「ああ、この試合に勝てたら考えても良いよ」

「よ~し言ったね」

 ネコ科の動物の様に鋭い笑みをリサは見せた。さっきとは雰囲気が違う、本気と言う事か。

「まあ足を引っ張らない様に頑張りますかね」

 俺は背伸びしながらそう言った――。


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