04話 とある少年の話
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「君は、人間でも魔族でもなく天族なの」
「え・・・天族?・・・ですか?」
女性の口からは少年の予想のはるか上を行く言葉が発せられた。天族というのは背中に大きな翼を持つ種族のことで、天の使いとも呼ばれている。〈ヨルの森〉がある〈ステア大陸〉には住んでいないと言われている希少な種族だ。天族の人々は白髪に碧眼という特徴をもっているらしいと言う噂もある。
それに対し、少年の髪は白銀色で目の色は深い碧色。薄汚れていてわからなかったが元々、中性的で少女にも見えるような綺麗な顔をしていた。今ではヒナとリンの世話のおかげで顔色もよく、元の綺麗さを取り戻している。
こぼれ落ちるような大きな目をふちどる髪と同じ白銀色の長いまつげ、日にあまりさらされることのなかった肌は雪のように白く、綺麗にしていれば貴族の子供にも見えるような雰囲気だ。
しかし、自分がそう見えていることは少年は知らない。
「自分では見えないかもしれないけれど、見た目の特徴もだいぶ一致している」
「・・・それと、背中に翼をもがれたような傷がある」
「治療する時勝手に見させてもらったわ、ごめんなさいね」
ヒナとリンが申し訳なさそうな顔で言う。
自分の背中には大きな傷があるらしい。少年はそんなことすらも知らなかった。
「あと、少年。貴方川の水を飲んだでしょう?注意しなかった私も悪かったけどあの川の水は毒なのよ。」
「えっ!?」
「貴方は気づいていないかもしれないけれど、私とあってから1週間は経ってるのよ。ヒナがいなかったら危なかったわ」
どうやら、自分は寝ている間に死の淵をさまよっていたらしい。話によると、ヒナが次の日に家の外に出ようとして扉の前で気を失って倒れている僕を見つけ、悩んだ末に家の中に入れて治療をしてくれていたらしい。その過程でリンも呼び出され、2人で世話をしてくれていた。
僕はその話の中で、この女性がやはりヒナと呼ばれる人だと知った。
「・・・人間だったとしても私は生き物を殺さない」
そういいながらしぶしぶヒナは僕を治療してくれていたらしい。優しいのか、怖いのか未だによくわからないけど僕の命の恩人だ。
「治療中に背中の傷に気がついて違和感があってわざわざ魔道具を使って魔力を調べたり、本を漁って見たりした結果あなたが天族だと気付いたのよ。」
少年の背中には深く抉られたような大きな傷が2つあった。肩甲骨のあたりにある2つの傷に気付いたヒナはリンと一緒に少年を丸洗いし、魔力を調べる魔道具などを使い少年のことを撤退的に調べた。
調べた結果、少年の魔力の属性適性は人間ではありえないものとなっていた。
一般的にこの世界における#人間__ヒューマン__#という種族は魔法との相性が悪く、1つ適正属性があることすら珍しく魔導士という存在はとても貴重だ。1つの国が抱えている魔導士は10人いれば良い方で、S級の冒険者のパーティーには魔道士は必須だと言われている。
対して、少年の魔力は適正属性が6つ、それぞれ【火魔法】、【風魔法】、【水魔法】、【雷魔法】、【光魔法】、【闇魔法】。
魔法に長けた長耳族でも適正属性が4つが最大と言われている。人間が長耳族を超える適性を持つことはまず、ない。
また、少年は魔力量も常人の域を超えていた。一般的な人間の魔導士の魔力量を100とすると、少年の魔力は50倍の5000程もあった。数値にするとわかりにくいがとてつもない量の魔力を保持していることは明らかだ。
そして、少年のそのとんでもない魔法適性から考えられるのは天族という種族。背中の傷が翼をもがれた時に出来たとすると納得がいく。
「私の治療ではあなたの翼を治してあげることが出来ない。力不足で・・・ごめんなさい。」
少年の背中の傷は特殊な魔道具でつけられたもので、ヒナの知識を持ってしても治すことは不可能だった。歯痒い、こんな子供にまで酷いことをする・・・できることならこの子の翼を取り戻してあげたい、とヒナは思っていた。
「いえ・・・その、僕の翼?は・・・治らなくても、大丈夫・・・です。」
まだ僕の混乱は続いていた。
それもそうだろう。今まで人間の奴隷として生きてきたのにいきなり自分は天族と呼ばれるおとぎ話に出てくるような種族だったと聞かされたのだ。
そんなことがあるわけが無い、これは死ぬ直前のなにか幸せな夢なのではと思う。
「そう・・・でも、もうあなたに出ていけなんて言わないから。ここにずっと居てくれてもいいし、あなたが出ていきたいと思った時に行ってもいい。でも、その体の傷が癒えるまではここにいて欲しい」
そんな少年を見て優しく微笑みながらヒナが言う。
ヒナの優しさが少年の傷だらけの心に伝わる。
奴隷として生きてきた僕は人の考えがある程度わかる。人の顔色を伺って生きてきたから。だからこそ、ヒナが心の底から想ってくれているのがわかった。
「・・・なら、僕はここにいてもいいということですか・・・?」
「「もちろん。」」
ヒナとリンが即座に応えてくれる。
初めて、少年に居場所ができた。
少年の目から出た涙が頬を伝う。
涙はあとからあとから止まることなく溢れ続ける。
「・・・・・・ありがとう・・・ございます・・・ぐずっ」
奴隷になってから何度も何度も涙をこぼす事があってもここまで暖かい涙が流れたことは無かった。
泣き続ける僕を、ヒナとリンは流れる涙がとまるまで温かく見守っていた。
そして、泣きつかれた僕は暖かい光と温もりに包まれ深い眠りへと落ちていった。
既存の文を少しずつ変えながらの投稿となっております。
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