03話 変化
だいぶお待たせ致しました。
読んでいただけたら幸いです。
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なにか温かく柔らかいものに包まれている気がして、目を開けた。視線の先には木で作られた天井と、暖かい光を放つランプのようなものが見えた。
「・・・ここは?」
確か、昨日ヒナという女性の家を見つけて出ていけと言われて・・・。そこで僕は気を失ったような気がする。
それにしても、ここは明らかに家の中のベットだ。布団も枕も今まで使ったことのないほど綺麗でふかふかとしている。僕には似合わない、汚してしまう前に早く立ち去らなければ。
「あっ」
ベットから立ち上がろうとして上体を起こした時、部屋の扉の方から聞いたことのあるような声が聞こえた。扉の方を見つめると影の中から黒い猫、リンが歩いてきた。そして僕の座っているベットの上にひらりと飛び乗った。さすが猫なだけあって全く音がしなかった。
「よかった・・・目が覚めた。ちょっとそのまま寝て待ってて、ヒナを呼んで来るわ」
そう言ってリンは僕の額に尻尾を軽く触れさせ、また扉の方へと消えていった。
急に現れて、急に消える不思議な猫だった。
寝て待っていてと言われたが、どこの誰のものかもわからないベットにこれ以上僕がいては行けない気がして立ち上がろうとした。そして、足に力が思うように入らずに顔面から床に激突してしまう。
「うぅ・・・いたい・・・」
鼻を思いっきり強打してしまい折れたんじゃないかとも思い手を当てると折れてはいなかったが、やはり鼻血は出ていた。大量出血という程ではなかった為、床に血を垂らすようなことにはならなかった。床を汚さなくてよかったと少年が安心したところに人の足音が近づいて来た。
勢いよく開かれた扉から昨日の黒髪の女性が顔を見せる。
やっぱりここはあの女性の家だったんだ。また、出ていけと言われるに違いない。少年は反射的に身を縮める。
ところが、その女性はそのまま少年へと歩み寄り、顔をあげさせ目を見つめた。
「大丈夫?体のどこかにおかしなところはない?」
僕を気遣うような素振りを見せ、鼻から出ている血を持っていたタオルで拭いてくれる。正直、昨日の姿と違いすぎていた。
「転んで鼻を打っただけね。折れてはいないようだからすぐに鼻血も止まると思う。体の方は大丈夫?」
僕の鼻にタオルをあててくれる女性は微笑を浮かべながら優しく僕に聞いてきた。
「・・・あの、足に力が入らなくて・・・。ベットも汚してしまって・・・その・・・」
てんぱりすぎて自分でも何を言っているのかわからなかった。それほどまでに彼女の変貌ぶりは凄まじかった。
また、出ていけと言われて拒絶をされると思ってしまったから尚更だ。
「ベットは気にしなくていいの。汚してもらっても構わない。足に力が入らないだけ?他はない?」
「・・・多分、大丈夫だと思います」
「そう。他に異常があったらすぐ言ってね。」
そう言うと華奢な体で僕を支えてベットに寝かせてくれた。
僕は出ていかなくてはならないのではないかと思う。
そう思ったが、口には出さない。そしてかろうじて出たほどの大きさの声で僕は彼女に聞いた。
「・・・あの、人間は嫌いだったのでは?」
「そう。私は人間が嫌い。でも嫌いなのは人間だけ。最初はあなたも人間だと思ってしまったけど誤解だったみたい。酷いことを言ってしまって本当にごめんなさい」
彼女は頷いた後に、申し訳なさそうな顔で続けた。
「それは、僕が奴隷だからですか?」
「違う。奴隷だとしても人間は人間」
さらにわけがわからなくなった。ならばなぜ人間の僕に対してこんなにも優しくしてくれるのだろうか、これは夢なのだろうかとも思えてきた。
「簡単な話だわ。少年、#貴方__アナタ__#は元々人間ではなかったのよ」
そんな僕にまたどこかから現れたリンが言った。
「僕が・・・人間じゃない?」
そんなことは初めて知った。僕には奴隷となるまでの記憶がない。物心がついた頃にはもう奴隷として生きていた。人間じゃないと言われてもピンと来ない。オークやゴブリンの類なのだろうか?そんなに酷い見た目をしているのだろうか。今まで僕は自分の姿をちゃんと見たことがない。腕や足の怪我は見えるが、流石に顔や背中の部分まで見ることは出来なかった。
人間でないのなら僕は一体何者なのだろう。
「じゃあ・・・僕は何なのですか・・・?魔族かなにかなの、ですか?」
女性のとても綺麗な紫色の瞳を見つめる。
そして、彼女は僕の目を見つめたまま衝撃の一言を放った。
「君は、人間でも魔族でもなく天族なの」
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