害獣退治 3
リプレトは第二弾の攻撃のため水の中に隠れてしまっている。
「どうやって、外に出す?」
マーシェはリュックから火炎瓶を取り出した。しかも二本も。
「出てくるのを待って、これをぶつける。」
たしかにリプレトの体毛は脂ぎっている。燃えればよく燃えるだろう。
「アホか。命中して、燃えたとしても、水に潜られたら最後じゃねぇか。だいたい、旅するのにそんなもん持ってくんなよ。」
火炎瓶はたしかに重い。マーシェは口を尖らせる。
「持てるんだからいいじゃない。結構役に立つのよ?」
リプレトの周りは底のないほどの膨大な水。確に火炎瓶ではせいぜい少し皮膚を焼いて終りだろう。
「今頃何、計画立ててるんですか。相手はリプレトだと昨日のうちに言っていたでしょう?」
シー・ルナが二人の会話を聞いて、横から口を挟んだ。
「また、来るぞ。」
リグがリプレトが水鉄砲の準備が整ったのを感じとり声をかける。
攻撃はシー・ルナを狙ったものだったが、シー・ルナはそれをひょいっと横にかわす。リプレトは攻撃を終えるとすぐに水の中に潜ってしまう。
「皆バラバラに分かれて、まずは目潰しです。」
「あいつに目なんてないぞ。」
「口ヒゲのことでしょ。」
水面ではゆらゆらと触手が何かの木の枝の様に揺れていた。
「攻撃を仕掛けているときが一番狙い易いでしょう。頭を破れそうならそれでもいいですが、触手に絡め取られないよう用心してください。」
特に何も考えていなかったマーシェ達は首を縦に振る。
「リグ、出てくる時は言ってくださいね。」
「オーケー。」
水の騒音の中に巨大な生物が動く気配を感じとるように目をつむり神経を研ぎ澄ます。ぴりっとした違和感、リグはそう感じた。
「来るぞ!」
リグの掛け声と共にマーシェは左、ジンは右へ跳ぶ。シー・ルナはそのまま動かず囮役だ。
水しぶきをあげ、リプレトは勢いよく頭部を出し、シー・ルナに向かって口を大きく開く。と同時に口の奥から水が噴出される。
「ふっ!」
リプレトの右手に陣取っていたマーシェは短く吐く息と共に鎖鎌の鎌の方をまずは上の触手を狙って繰り出す。
ジンもまた、地面を蹴り、地面を張っている下の触手を剣でぶつ斬りにしようと上段にふりかざす。
「ジン! 避けてください!」
水鉄砲を軽く避けたシー・ルナが短剣を構えながら突撃していく。
リプレトは近くで見るとかなり大きく、頭だけで高さが約一メートル、幅が二メートル弱あるようだ。触手はさらに長く三メートルはありそうだ。
その顔が、突如口を開けたままジンの方を向く。
「しまっ…!」
水量は少ないが噴き出した水がジンを襲う。
リプレトの一番近くまで迫っていたジンは激しく地面に叩きつけられ背中を打つ。
「がはっ。」
肺の空気が押し出される。マーシェが投げた鎌を操り上の触手を切断しようとしたとき、後ろから足を引っ張られ、思いきり前方に倒れる。受け身を取り、足に絡み付いたものを見る。
「ちっ!」
それは長さを利用して回りこんだリプレトの触手。
そのまま、滝壺へと引っ張られる。
「くおああぁあ!」
リプレトが叫ぶ。
シー・ルナが下の触手を刺していた。だが、切断にはいたっていない。彼はもう一本の短剣で触手を斬りつけた。
左上の触手がシー・ルナを横からはたこうとするが、シー・ルナは触手を地面に縫い付けたまま、それをかわした。
右上の触手に足首を捕まれたまま、暴れられたマーシェは、なんとか抜け出そうと、先程投げた鎌を手元に鎖で引き戻す。
「もぅっ、股関節抜けたらどうしてくれんのよ!」
鎌を触手に斬りつけ、ようやく足首が解放される。
リプレトはシー・ルナの短剣を別の触手で弾き飛ばすと、水中に戻っていった。
「って~。移動は鈍いクセに首はあんな俊敏だなんて反則だろ。」
「油断しましたね。」
「もぅ! あのヒゲ固すぎっ!」
「切れないことはないので、次で仕留めましょう。」
リプレトは水を蓄える時間が多少長いので出てきていないときは、作戦タイムとなる。もちろん見張りはリグだ。
「そろそろ、来るぞ。」
リグの言葉に皆体勢を整え、散開する。
リプレトは出てきた瞬間、水を個分けにして三方向へと撃つ。
「学習してやがんのな。」
皆、水の塊を余裕で避ける。
「ジンよりも頭が良いわけですね。」
シー・ルナが真面目な顔で言いながらリプレトへ向かっていく。狙いは先程傷付けた左下の触手。
「ぁあ!?」
シー・ルナの言葉を聞き返すと同時に左上の触手を今度はしっかり切断する。
「やだなぁ。冗談ですよ。」
切れかかっていた触手を今度は完全に斬りつけて、とうとうリプレトの左側の触手はなくなった。
リプレトは右側から左側へ水を噴き出しながら頭を振る。
「わっ。」
マーシェは慌て飛び退く。
「あー、もう。また斬れなかったわ!」
苛立たしげに叫び、分銅をジン達の方を向く事でがら空きにになった頭に投げる。鎖は途中で右上の触手に絡め捕られ、引っ張られるが、マーシェは鎖を離さず、たぐり寄せるように引っ張りながら、リプレトに向かい走る。
リプレトの正面からはジンとシー・ルナが攻撃を仕掛ける。
シー・ルナは絡んで来ようとする右下の触手を斬りつけ、ジンは正面から顔面を割ろうと構える。
「はっ!」
マーシェは岩を蹴り、リプレトの頂点を狙い、鎌を降り下ろす。だが、鎖を引っ張られ、鎌が届かない。
「っく!」
マーシェにリプレトの意識が向いた隙に、ジンが顔面を破った。
「くらえっ!」
「くおああああぁぁぁっ!!」
リプレトは断末の悲鳴をあげてその場に倒れた。
「あー、意外に手強かったなぁ。魚なのに。」
「リプレトは分類的に魚ではないんですが…。」
「どうでもいいって、そんなこたぁ。」
ジンはリプレトが完全に息絶えたことを確認すると、その場に腰を下ろした。
「お尻、濡れるわよ。」
「全身ずぶぬれだっつーの。」
シー・ルナは落ちているリプレトの触手の一本を巻き取り、大きめの麻袋に詰め込んだ。
「少し休んだら、戻りましょう。」
「せめて、服が乾くまで休もうぜ?」
シー・ルナは首を振る。
「帰りはあの動物の死骸がない場所を歩いて行こうと思っているので、少し遠回りになります。夕方までには村へ到着したいので。」
「お前、甘すぎ!」
「そうですか?」
ジンはむっつりした顔で上着を脱ぐと力いっぱい絞る。ミシミシと布が悲鳴を上げる。
「ん。悪ぃな。」
黄緑色のタオルをリグはカバンの中から取り出して、ジンに渡す。
「しゃーねぇなぁ。」
それを受取り、ジンは曖昧な笑みを溢す。
「げろ甘ね。」
マーシェは呆れたように、乾いた石に腰かけ、頬杖をつく。
確にリグは小さいが、それにしても甘やかし過ぎということに気付いてないのかと、マーシェは不思議に思う。
「旅をしていくんならもっと鍛えなきゃ。」
村へ戻ったらとりあえず剣の特訓をしてやろうと、決意するマーシェだった。