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神様たちの賭けごと  作者: きめい すいか
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おいかけっこ 2

 春とはいえ、太陽が真上に上る頃になるとぐるぐる歩き続けたリグは汗だくになる。着ているマントは冬物ときたものだ。中は蒸し風呂だ。リグはあまりの暑さに、途中見掛けた公園で一休みすることにした。


「この町、広いし、そうそう見付からないよな。」


 大きな木の下にあるベンチにゴロンと横になる。


「はあ~~。」


 日に焼けていない、ひんやりとした木の感触がリグのピリピリとした心を癒す。心が落ち着くと、イッパイイッパイだった頭にもゆとりが出て、思考が回り始める。


「まずは宿だよな。路銀も通行証もねぇし。」


 せめて太陽との位置関係でも覚えていたら近くまで行けたかもしれない。だが、町並みを覚えていたリグは空をまったく見ていなかった。見上げるとフードがずれるからだ。もう一度、吐息を溢して目を閉じる。サワサワと頭上で葉が鳴っていた。


「そう言えば、あの宿に着いたとき風が吹いてたよな。」


 今の時期、風は東から吹く。


「………ダメだ、食肉植物の絵が強烈過ぎて思い出せない。」


 上体を起こし、息を思いきり吸う。緑の香りを感じながら今度はゆっくりと息をはきだした。何度か続けていると感覚が外に外にと広がっていくのを覚える。リグは眉間にシワを寄せて目を開けた。


「気持が悪い。」


 この町は人が多いゆえに気配が入り乱れ、まるで人混みに投げ出されたような酔いを起こす。ベンチに横たわると再び感覚を広げる。ラジーやイレナとは接触を避けたい。


「捕えた……っ!」


 がばっと、勢いよく起き上がる。


「ラジー義兄(にい)さんが近い。」


 ふと微かな視線を感じて背後を振り向くと公園を寝床にしているらしき年配の男性が不審げな目付きでリグを見ていた。


「………。」


 リグは何事も無いようにベンチを立ち上がると、ラジーの気配がある方向と逆へと歩き出した。公園を北側出口から出ていくとそこは住宅街だ。小規模の家がところ狭しと並んでいた。細い道を通っていくとさらに細くなり行き止まりの壁が現れる。区画整理などされていないのだろう、家と家の屋根が重なっていた。


「まるで迷路だな。」


 二度目の突き当たりで、回れ右をしながらぼやく。だが、状況は口調ほど余裕があるわけではない。


「義兄さん……。」


 近付くラジーの懐かしい気配にリグはフルフルと頭を振る。握った拳に力が入り、爪が食い込んでいた。


「ゴメン。」


 リグはキッと前を見据えると、入りくんだ細い道に姿を消した。



***



 マーシェもまた、知らない道を急いでいた。後ろからはイレナが何かと(わめ)きたてながら、追跡してくる。


「まったく、なんてしつこいのかしら!」


 マーシェはなんとかイレナを撒こうと曲がり道を何度も曲がっていた。するといつの間にか人がひしめき合う、大道りに出た。


「これは、木は森に隠せ、人は人混みに隠せって神々のおぼしめしね。」


 マーシェは人混みにすいっと姿を消した。だがしかし、イレナが大通りに姿を現すと、マーシェはすぐに見付かることとなった。


「金茶のポニーテール頭に中途半端な神官服着ている、十七八くらいの女ぁーっ!」


 マーシェの外見を大声で叫んだのだ。マーシェの近くにいた人々は、厄介事に巻き込まれたくないとばかりに、その特徴を持つマーシェから離れる。不自然な空間はあっという間にイレナに発見されてしまった。イレナはニヤリと口の端を吊り上げる。


「うっわー、悪そうな顔。」


 マーシェが振り返って感想を述べた瞬間、イレナは人混みをものともせず、ひゅっと風が裂かれる音とともに短く持った槍の切っ先をマーシェの鼻先につけた。


「不審者に言われたくないわ。」


 微動だにしない切っ先を面白く無さそうに眺めるとマーシェは腰に手を当て堂々と言ってやる。


「へぇ~、何にも悪いことしてないのに不審者扱いとはびっくりだわ。」

「何も悪いことしていないのに逃げたと?」


 二人は見えない火花を散らしながら、笑って話していた。二人を取り囲む人垣の境界線が徐々に広がっていく。けれど、何事が起こったのかと野次馬の列は増えていく。


「ちょっ、ちょっとすみません。」


 その野次馬の中からマーシェは馴染んだ声を拾う。


「シー・ルナ? 何やってるの、こんなところで。」

「ああ、やっぱり。どこかで聞いた声だと思いました。なにやってるって、それはこちらのセリフですよ。おや、イレナさんもご一緒で、こんにちは。」


 にこにこと緊迫した雰囲気を壊しながらシー・ルナは二人の間に割って入った。


「シー・ルナ様、お知りあいですか?」

「知り合いなの?」


 二人は揃って相手を指差し驚いた様子でシー・ルナを見た。


「ええ、こちらはリグのお姉さんでイレナ・トードージスさん。こちらは私の旅の仲間でマーシェ・スクレイ・ミージュさんです。」


 槍を構えた状態のイレナと刃物を突きつけられた状態のマーシェは至極まともな紹介をされ、ふと我に返ると観衆の視線がいたたまれない。


「ちなみにマーシェさん、先程の質問ですが、この大通りの隣の通りが私たちがお世話になっている宿の通りですよ。」

「って、シー・ルナ。そういえば、いいの? リグは会いたくないんじゃ……。」


 さらりと紹介され、大事なところを訊き逃すところだった。シー・ルナは微かに迷っているようにも見えたが頷く。


「一応、いきなり会わないようには伝えています。それとなくリグにも彼らがこの町にいることを伝えて、準備しようかと思っています。」


 マーシェは気まずげに目をそらしながら頭を下げた。


「ゴメン、いきなり会っちゃった。」

「えっ……、まあ、帰ってきてから巧く説明しましょう。」


 イレナは槍を下ろし眉を寄せた。


「ちょっとマズいわね。」


 その言葉にマーシェとシー・ルナの視線がイレナの方へ向く。


「何が?」

「ラジーはキラキを見たら絶対に会いに行っちゃうと思うわ。っていうか、確実に追い掛け回すに違いないわ。」


 いそいそと槍に白い布を被せると、一礼してその場を去ろうとする。


「ちょっと待って。そのラジーって人もシー・ルナに駄目だって言われてるんでしょ?」


 イレナは槍をこんっと石畳に打ち付け、自分に立掛けるとかりかりと頭を掻いた。


「あいつ重度のシスコンだもの。」


 少し嫌そうに呟く。


「なんていうか、キラキを間にリグとラジーでよく喧嘩してたもの。キラキはそれをオロオロしながらなだめてたけど。あんなにベッタリな兄が二人も居てイヤにならないもんだと感心したくらいよ。」

「でも、リグの為には……。」

「頭では分かってると思うよ。でもね、四年間も心配してた子が戻ってきたんだもの。あたしだって出来れば今すぐ会いに行きたいわ。でも、」


 イレナはいったん言葉を切り、困ったように眉をひそめた。


「アイツは我慢なんて知らない動物だから。」

「おや。」


 シー・ルナがおもむろにイレナの頭上を見た。がんっとイレナの頭が下を向く。


「いったー!」

「ダーレが動物だよ?」


 剣の鞘で後頭部を殴られたイレナは殴った人物に恨みのこもった視線をぶつける。


「あんた以外に誰がいるっていうのっ!」

「ヤレヤレ。僕はイレナよりも理性的だよ。ただキラキのことは可愛くて仕方がないだけで。」

「あたしのどこが理性的じゃないと?」


 にこりと笑って、ラジーの胸ぐらを掴む。

 シー・ルナは事の成り行きをにこにこと穏やかな表情で見守る。


「なんだかマーシェさんに似てますよね。」


 その言葉に素早い反応を見せるマーシェ。


「どこが!?」

「怒り方なんか、よく似てますよ。」


 睨まれつつもケロリとした調子のシー・ルナにマーシェは似てないわよっとそっぽを向く。

 胸ぐらを掴まれたラジーも慣れているのか、慌てる事なく、掴まれたまま口を開いた。


「理性的じゃないとは言っていないだろ? ただ、こんな衆人観衆のなか話し続ける君らの精神構造にはついていけないけど。」


 確かに減ったとはいえ、観衆はまだ事の成り行きをを見守っている。

 マーシェは最初こそ周りの目が気になったけれども、あっというまに慣れてしまって、周りの人間は畑のカボチャだ。


「それよりリグは? 追わなかったの?」


 きょろきょろとラジーが追っていたと思われるリグの姿を探す。


「キラキの事だよね。途中で完全に見失ったよ。マントを代えたかな? 目撃談がぴたりとなくなってね。」


 イレナもマーシェもやっぱり探してたのかという顔でラジーを見る。


「ん~。ちょっと心配なんだよね、あの格好。冬物のマントにフードだろう?」


 マーシェはリグのいつもの格好が頭に浮かぶ。


「何がマズイの?」

「今日は少し暑いから。」


 風が吹いているのでそうは感じなかったが、言われれば日差しが強く、長袖のシャツならばたくしあげてもいいくらいだ。


「熱中症ね。」


 イレナが難しい顔をする。


「倒れてなきゃいいけど。」

「ここ三年くらいはパタパタ倒れなくなったんですが。」


 安心させるかのようにシー・ルナが言うものの自信がないのか歯切れは悪い。


「三年って、それまではよく倒れてたの?」

「そうですね。ここ三年ほどは倒れなくても具合い悪そうにしてたりとか。ジンが入ってからは温室育ちだの、ひ弱だの言われて堪えていたみたいですから、体力付けを頑張ったみたいですよ。」


 どおりでジンがリグに甘いわけである。


「んなことよりっ!」


 マーシェは脱線しがちになる思考を祓うべく、頭の右上辺りを手でひらひらと空気を散らす。


「リグを探さなきゃ。」


 マーシェはきびすを反そうとしてシー・ルナに止められた。


「そうですね。ですが、マーシェさん迷子になるでしょう? 一緒に行きましょう。」


 子どもに諭すように優しく言われて少々バツが悪そうにむくれるが、マーシェに反論ができるハズもなく渋々といった様子で頷く。


「では、私共はあちら、ラジーが見失った公園辺りを中心に探索して行きます。」


 イレナはラジーをひっ掴み、今度こそ一礼してその場を去った。


「じゃあ私たちはあちらの住宅密集地でも探しますか。」


 シー・ルナがさし示したのは、イレナたちが向かった方向。


「なんで? リグの姉さんがあっちにいったじゃない。」

「そうですが、あちら方面で見失ったのでしょう? それに密集地は入り組んでますから隠れるには持ってこいじゃないですか。」


 説明されればそうかとも思うが、マーシェは何か喉に小骨でも引っ掛かったような気に襲われる。マーシェは見習いとはいえ神官だ。異質な力に敏感だった。ただ、それに伴う頭の回転が足りないだけで。要はなんとなーく変だなぁとは感じるものの、何が変なのか思いいたらず、ま、いいかとスルーしてしまうから鈍感なのだ。


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