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二人旅

「待たせたな」

「大丈夫ですよ」


 翌日、早速ギルドに向かうと、既に準備の大半を終えたクリムが待っていた。


「もう薬も買ったので早速行きましょう」

「ああ」


 俺とクリムは早速トロイアの町を出ることになった。



「そういや、クリムの住んでるとこって……」

「…初めて名前を呼ばれました……えと、この山を越えて行きます」


 そういや今まで名前で呼んで無かったな。しかし……地図を見ていつも思うがトロイアの町……かなり不便な場所にある。周りにあるのは平原、森、洞窟、山岳地帯と数々の自然に囲まれながらも、近くに他の町は無い。ついでに海も近くに無い。どうやらティスカ王国でもかなり内陸にある町のようだ。

 だから当然、ここから一番近いと言われるクリムの住んでた村でも往復五日程度は掛かる。しかもこの山を越えて行かなきゃいかん。


「確かこの山は……うわ、ラプターの巣窟じゃねえか」

「…そうなんですか?」

「え?」

「わたしがトロイアの町に行く時は殆ど見かけなかったんですが……」

「それっていつ頃?」

「確か……一週間半前だったかと」


 その時期は確か……教団関連の依頼を受けてた頃か……つまり教団の連中が手駒確保の為にこの山一帯のラプターを捕獲していた可能性が高いな。


「あんなクズでも役には立つんだな」

「どういう意味です?」

「いや、こっちの話だ」


 つまりあまり敵と遭遇する機会が無いというわけだ。少しは楽になるな。


「そういや行きってどうしたんだ?」

「行く時は……なけなしのお金で馬車を……」


 なるほど、だから帰りは徒歩に……帰りも馬車でよくね?俺が金出せばいいんだし……いや、もしもの時があったとすれば俺のような護衛が居ればいか。


「あの、依頼受けたこと後悔してませんか?」


 中々痛い所を突いてくる。だがたった今自己解決した。問題無い。


「いや、大丈夫だ……それよりも進もう」

「はい」


 まあ、ラプターは教団員が乱獲してたみたいだし……そんなもしもの事なんてほとんど起きる事はないな。……なんかフラグのような気がしてきたが大丈夫だよな……。



「……フラグ回収乙」

「なんの話です!?」

「いやなんでも……しかしあれだな……面倒なことになったな」


 フラグだった……今俺たちの前に居るのは……デフォンズドラゴンである。


「ガルァアアアアアアアアア!」

「縄張りにでも入ったか?」


 気性が大人しいはずのデフォンズドラゴンが珍しく怒っている。


「もしかしてエサになるラプターが居ないからでは?」

「……なるほど、教団員め、碌なことしないな」


「ガアアアアアアアア!」


 ドラゴンはブレスを俺たちに放ってくる……が。


「甘い!」


 俺は盾に魔力を込め、魔装障壁を創りだす。

 魔装障壁は、ブレスを完全に防ぎきったようだ。


「続けて……オーラ、アンチオーラ」


 勿論オーラは俺とクリムに掛ける。


「奴は弱体化してる……行けるはずだ」

「やってみます!」


 クリムは……あの時のように空中ジャンプをし、奴の頭上まで跳躍した。


「これで……!」


 そして奴の頭を二本の短剣で、斬り裂いた……まだ浅いか。


「最後は俺が決める!」


 俺は大剣を奴の胸に思い切り突き刺す。ちなみに今使っているのはバスターエッジだ。魔装斬の為に魔力を込めると耐えきれないのか、折れそうになる。だから残念ながら使えない。使えたら一瞬で片付いただろうな。


「ギャアアアアアアアア!」


 だがこっちにはオーラ、奴にはアンチオーラが掛かってる為、どちらにしろ楽な方だ。

 しかしあれだな。最早ドラゴンも俺の敵ではないな。


「すごい…!」

「……そうだ、クリム、あの空中ジャンプについて聞きたいんだが」

「え?」


 正直に言って、今クリムに一番聞きたい事である。


「んー、わかりますかね?今自分が足を付けようとしてる空間に魔力を込める感じ」


 ……なるほどな。要は魔装斬や魔装障壁と同じだ。魔法ではない、魔力を使った能力……というわけか。


「クリムも見たろ?俺の魔装障壁」

「あの魔法陣のことですね、もしかしてあれは……」

「ああ、盾に魔力を込めてな……つまり魔力のコントロールにはそれなりに自信がある」

「じゃあわたしの説明でよかったんですね?」

「ああ、さっそくやってみよう」



 ……うん。難しいわこれ。


「大丈夫ですか?」

「剣や盾と違って…実体の無い空間に魔力を込めるのが予想以上に難しい」

「……コツと言えば……魔力は小さく凝縮したものを空間に込める感じですかね」


 凝縮か……だが何もない所に魔力を流す事なんざ不可能だ。凝縮でもバカでかい魔力でも込められないような……いや違う。


「もしかしてタイミングって結構シビアだったりする?」

「慣れてしまったのでわたしはあまり気にはなりません……だからタイミングに関しては言う事ができませんでした、すみません」


 そう、これは俺が踏み込んだ瞬間、魔力を込め、一瞬しかもたない足場を創ること。

 つまり多分足場を創る事には成功している……後はそれを踏み台にできるかどうかか……。


「慣れが必要だな」

「頑張ってくださいね」


 まだまだ、クリムとの二人旅は始まったばかりである。

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