クリムの依頼
「……ん…」
「気がついたか?」
「!」
クリムが起き上るなり、俺に警戒の目を向けてきた。
「安心しろ、何もする気は無い」
「……ここは?」
「俺のギルドだ」
クリムは突然自分の脇腹を見る。
「わたし…刺された気がする」
「まあ、刺したしな、ちゃんと治療しておいた」
「え?」
そんな不思議そうな顔を向けられても……。まあ、これから彼女が驚く事が起こるだろうが。
「あとこれ、薬の代金な」
「!どうして……?」
「一から説明すると時間掛かるがいいか?」
「うん」
それから俺は、クリムに闇バトルが潰れたこと、俺の目的などを話した。
「わたしを助けたのって……」
「……闇バトルに参加していたクズ共とは違うから……だな」
「しかもお金まで……」
「それは気にするな、それにまだ余裕がある」
そして暫くの沈黙が続いた後、突然クリムが真剣な表情で話しかけてきた。
「あの……お願いがあります」
「ん?」
「わたしの母は少し離れた村に住んでいます……薬はこの町で買えますが…薬を村まで届ける護衛をお願いできますか?」
「そうだな……ギルド長に相談してみる……てか、ギルドに依頼として頼めばいい」
俺はクリムを連れて、みんなの所に向かった。
「で、護衛をうちに依頼したいと」
「ああ、別にいいだろう?ギルド長」
「これは何日も掛かる依頼になる……一人しか行けないぞ」
やっぱそうなるよな……ならば。
「なら俺が彼女に同行する……二人は留守番で……」
「レントさん……」
その時、背後に悪寒が走った。振りかえるとアリスが微妙な表情でこっちを見つめて来る。
アリスが懸念していることくらい俺でも分かる。
「安心しろ、手は出さない……俺はアリス一筋だよ」
「…そうですね……すみません空気を悪くしてしまって……」
「気にすることは無いさ」
「はい……ありがとうございます」
「あの……二人はどのような関係で……?」
クリムがなんか興味ありげに聞いてくる。
「俺たち、付き合ってるんだよ」
「レントさん!」
「別に隠すことじゃないだろ……それにそう言っておけば彼女の方も弁えてくれるだろ」
後半はアリスにしか聞こえないように言った。
「……確かにそうですね」
「ああ、だから間違ってもそういうことは起こらない……はずだ」
「断言してください」
「悪い悪い」
「あの……」
おっと、内緒話しすぎたな。
「安心しろ、俺が責任もって村まで護衛する」
「はい、よろしくお願いします」
これで話は一応ついたな。いや、まだあったか。
「報酬についてだが……それは護衛中に俺から指示出すと思うから」
「今じゃなくていいんですか?」
「ああ、問題ない」
さて……クリムには聞きたい事があるからな……それを報酬にしてもらうか。
特に空中ジャンプとか空中ジャンプとか空中ジャンプとか。いったいどういう原理だ?
「さて、今日はもう遅い、詳しくは明日また……というか明日には出発するぞ」
「はい」
「あと今日の寝床はギルドの仮眠室使っていいからな」
「ありがとうございます」
しかしあれだな、だんだん礼儀正しくなっていったは良いが、完全に喋り方がアリスと被ってんぞ。
俺は軽くギルド長に挨拶すると、そのまま宿屋へと向かっていった。
「よ、レント」
「お前か……」
宿屋に帰る途中、ラスタとかいう男に話しかけられた。というかまだいたのか。
「さっさと帰れよ……」
「酷い言い草だな……まあいい、とりあえず協力、感謝するよ」
「そうかい」
「まだひと仕事あるのかい」
こいつ……俺の表情からそんなことまで読み取ったのか?
「ああそうだ、クリムの住んでた村まで護衛を頼まれた」
「物好きだねぇ」
「そうか?」
「おれから見たら闇バトルに手を出した犯罪者だからね……見逃したのは例外中の例外だよ」
「……あんな女の子を見捨てろと?」
「そう言われると困るなあ……まあ、頑張りたまえ」
こいつ……上から目線で……。
「はいはい……じゃあな」
「ああ、また逢う日まで」
もう二度と無いと良いな。
そんなことを考えつつ、俺は宿屋に向かった。




