本当の依頼
「…え……?」
俺は向かってくるクリムに、腰にある隠しナイフでその脇腹を刺した。
「そ…んな……わた…しは……」
クリムが言い終える前に彼女は倒れ……動かなくなった。
「……悪い」
そう、俺は小声で呟いた。
「勝者!レント選手!」
「ウォオオオオオオオオオッ!」
相変わらず観客うるさい。……さて、あの男がどう動くか……。
「オオット!どうやらこの闘技場にぃ、何者かが侵入したみたいだぞう!?」
……多分あらかじめ近くに待機させ、この司会の声を合図に入って来るか……だな。
案の定、司会がそう言った瞬間、壁際で爆発が起こり……なぜかものすごいドヤ顔のあいつが入ってきた。
「動くな!おれは上層部から貴様らの捕縛命令を受けている……素直に投降するんだな」
ラスタとかいう男、所謂警察みたいな存在で、この闇バトルそのものの壊滅、闇バトルのの関係者の捕縛を命令されてきたわけで……俺はその協力者として今まで行動してきた。
闇バトルでトップになれれば、はっきり言ってここの連中をほぼ掌握できたと言っていい。
今の俺はこの闇バトルをどうとでも出来る存在なのだ……そんな俺と警察っぽいあの男とで一気に闇バトルを潰す。これが俺たちの目的だ。
「そうです、貴方達に義はありません」
「怪我したくなきゃ、さっさと降参するんだな」
アリスに蒼馬まで連れて来てやがる……。
ん?あいつらが俺の顔見て微妙な表情を浮かべてるんだが……。
「レントさん……あなたもそっち側に行ってしまったんですね……」
んー?どういうことだ……?なんか完全に敵対してる空気になっているんだが……。
不意にあの男の方を向くと周囲にばれないようにしてサムズアップをして……微笑みかけてきた。
嵌められた……あの男…アリスたちに俺が闇バトルに手を出したと言って本当の事を言わなかったな……あの態度は本気じゃなく後で本当の事を言うんだろうが……すごいムカつく……。
仕方ない、ここは……。
「ククク……今の俺に勝てると思うか?」
かなり悪い笑みをあいつらに向ける。……フッ、あの男、恐らく俺が「違うって」と反論するとでも思ったのかかなり驚いてやがる……ざまあ。
これでいつかあの男の顔を驚愕の色に染めるという目的は果たしたわけだ。
「レント様、どうしますかい?」
ガラの悪い男が話しかけてきた。今の俺はここの選手たちを指揮できる立場に居る。
「そうだな……返り討ちにしてやるといい……一網打尽だ!」
まあ、お前らが……な。俺の命令で一斉にアリスたちに選手たちが向かっていく。
ちなみに……さっきの爆発で開いた穴から、マナが入り込んでいる為、この空間で魔法が使えるようになっている。つまりここで俺が使うべき魔法は……。
「オーラ、アンチオーラ」
俺はオーラをアリスたちに、アンチオーラをクズ共に向けて唱えた。
「なっ…力が……まさか!」
中々察しが良いな。
「アリス……俺がお前らと敵対すると思うか?」
「レントさん……」
「よし、一気に片付けるぞ!」
「はいっ!」
俺たちはクズ共を縛り上げた。はっきり言ってこのメンツに、援護魔法が掛かっている状況、簡単に終わる。
「いやあ……あの時は本当に裏切ったのかと思ったよ」
「お前が悪い」
この男……面白半分で俺を敵だとこいつらに教えた奴が、俺を攻める権利があると思うのか?
「でもびっくりしました」
「アリスには迷惑を掛けたな」
「ところでレント?」
「……なんだ?」
この男……話に割り込んできやがって……。
「君のその装備の代金……君の報酬から引かせてもらってもいいかな?」
よくないわっ!と反論したいが……ここは……。
「いいが条件がある」
「条件?」
俺は倒れてるクリムからナイフを抜き、傷口に最高級の回復薬をかける。
そう、彼女を俺は殺しはしていない。ナイフには麻酔薬が塗られてあり、相手の意識を奪うことができる。それのおかげで、周りに死んだと思わせることもできるわけだ。
そして後で治療をしとけば……問題はないはずである。
「この少女は……?」
「条件、それはこのクリムって子を見逃す事だ」
「理由は?」
「この子は仕方なく参加したようなもんだからな……罪は軽いはず」
「軽いが無実では……」
「その代わりに、想定してない俺の装備代金を払ってやるって言ってんだ」
「……仕方ない、その少女の処遇は君に任せる」
「ああ……」
こうでもしなければあまりにも可哀想だ……俺に殺されかけ、さらには目が覚めたら何もかも終わってる……あんまりだろう。
「帰るぞ……」
「はい」
「おう」
俺たちはクリムを連れて、ギルドに帰った。




