赤毛の少女
「こいつで!」
「うぎゃあっ!」
「止めだ……」
「ヒィ…助け……」
俺は容赦なく止めを刺す……さすがに命乞いをする奴を殺すと罪悪感がある……が、止まるわけにはいかない。
「勝者!レント選手うううう!」
「ウォオオオオオオオオオオオオッ!」
観客うるせえ……。しかしこれで十五人目か……かなり殺したな。一応、トップにはなっている。
最近じゃ俺を見るだけで震えあがる相手が居る。棄権する奴も居たな。
「しかしそろそろか……」
あの男から来る情報には、俺がトップになってから一日、つまり明日、仕掛けるつもりらしい。
あした最初の試合くらいはしなきゃいけないのか……棄権してもらうのも手か?
正直言ってこれ以上殺し続けていると本当に殺人鬼になりそうで怖い。
「たしか明日の相手は……こいつか」
デイムスン……普段は地下闘技場の入口周辺のスラムに住んでいるんだったな。
しかし……トロイアの町にスラムがあるとは……。
たしかにこの町は冒険者業が盛んだからな……実力主義な面があることは確かだ。
そして冒険者の資格を剥奪されてしまえば、残っている仕事は接客業か専門知識が必要になる鍛冶などの仕事だ。そして闇バトルに参加する奴のほとんどは、元冒険者で他に仕事が無い奴らだ。
それだけ聞くと哀れに思うが冒険者の資格を失うということは犯罪を起こさない限り無いようなもんだから結局はクズの集まりである。
ちなみにトップにでもなると、相手の情報を闇バトルの主催者から聞くこともできる。
大方、トップには逆らえないのとあまりトップがコロコロ変わることを良しとしないんだろう。
そして得た情報をつかい勝ってもらうと……。
「しかしこいつも元冒険者のようだ」
デイムスンは過去にギルドから金を巻き上げる行為をしていたらしい。
「だが儲けを狙うにしては妙に慎重すぎるところがあるな」
彼は目立たないように誤差レベルの金の巻き上げしか行っていない……長期にわたってやってたからかなりの額を盗んだのは確かだが……しかも問題が発覚する以前から証拠隠滅に全力も注いでたらしい。
結局彼の犯行がばれたのは問題が発覚してから数年経った後という……逃げ隠れるのがうまいのか……それとも、ただの臆病者か……。
「臆病なら……脅せば棄権してくれそうだ」
俺はスラムへと向かったのだった。
「ひったくりだああああ!」
スラムに来た途端、そんな声が聞こえてくると、人影が俺を横切った。
小柄な赤い髪の何か財布のようなものを抱えた……女の子だ。
そしてそれを追いかけるかのように……デイムスンが走って来る。
「待て」
俺は横切ろうとするデイムスンの腕を掴み、強引に引っ張る。
「いでええ!誰だ!」
「なあおっさん、あんたの財布……俺が取り返してやろうか?」
おそらくデイムスンはあの少女に財布を掏られたんだろう。
デイムスンは訳わからん顔をしていたが……。
「本当に取り返してくれんだろうな!?」
「ああ」
「じゃあ頼む」
そう言われ、俺は少女を追う。財布を取り返せれば……交換条件とかもっと穏便に事が進みそうだ。
「しかし……速いな……仕方ない、オーラ」
俺はオーラを自分に唱え、一気に少女に近付く。
「!」
「観念するんだな」
少女は観念したのか、俺の顔を見つめて来る。
……何か、泣きそうになってる。
「……やっぱいいや、行っていいぞ」
「……いいの?」
「ああ」
「……ありがとう」
そう言い、少女は走り去っていった。まあ、可愛いは正義と言うわけで。
「おい……どういうことだぁ?」
デイムスン……すげぇ怒ってるな。
「こちとら明日あのレントって化物と戦わないといけねえんだぞ!?その為の装備資金を…てめえ……」
この様子じゃ、俺が対戦相手ってことに気付いてないな……。
「悪いことは言わん、諦めろ」
「はあ?何言ってん……!」
俺はデイムスンに大剣を向ける。
「ま…まさか……」
「明日が試合の日だが……ここで殺してもいいんだぞ?」
「ま、待て!明日棄権する……だから命だけは!」
結局脅す事になってしまったが仕方ない。
「フッ、こいつは礼だ」
俺は一応一万Gをデイムスンに渡す。スラムの連中からすればかなりの大金だろうが今の俺には大したことは無い金額だ。
というか一千万Gて……かつて無い規模の金額だぞ。たった一万Gと思えてくる。
「わ…分かった、金、あんがとよ……」
デイムスンはまだ怖いのか震え声になっている。やっぱり臆病者だったか。
さて……これで障害は無くなった。明日になるだけでこの仕事は終わり……。
「デイムスンが棄権したそうなので……臨時の試合を行う!」
そう上手くいくはずが無かった。代わりに誰かが出るとか……もう面倒だ。
「対戦相手は……クリム・レーア選手だぁぁ!」
その紹介とともに入ってきた人物を見て、俺は驚愕する。表情は仮面で見られないが。
「……恨みは無いけど、死んでもらう……」
俺の対戦相手は……あの時の少女だった。




