危険な慣れ
「はっ!」
「何っ!?」
俺は対戦相手のいかにも暗殺者みたいな怪しい奴に隠し武器の一つ、チェーンフックを使う。
これは盾の裏側に付いていて、スイッチ一つで射出できる便利な武器だ。
「ガハッ」
先端には釣り針みたいのが付いていて、一度刺さったら中々抜けないようになっている。
「抜いてほしいか?」
俺は相手に挑発するように言う。
「お前の体がどうなっても知らないってんなら抜いてやる……よっ!」
そのまま思い切り奴の体からフックを無理やり抜いた。
「うう……ああ……」
「まともに喋ることもできんか……死ね……」
そして止めを刺す。
「決ったああ!勝者……レント選手!」
「ウォオオオオオオオオオオ!」
今回も勝ったな。これで……八人目か?
この闇バトルに参加してから、かなりの数の人を殺してきたな……。
「次は……お、今日はもう俺の試合は無いな」
試合終了後、廊下で日程を確認しているとあの司会が話しかけてきた。
「おう、今日もいい試合をありがトゥ!」
「ああ……」
「この調子で頼んだよ……あとラスタ君によろしく伝えておいてくれよ?レント君」
「あんたもグルだったか……」
あの男……俺の知らないとこで意外な奴との繋がりがあるんだな……。
「ふう……」
「あ、おかえりなさい、レントさん」
「ああ、ただいま」
最近はギルドに顔を見せるのもままならないな……。
「レントさん……大丈夫ですか?」
「ん?ああ、なんとかな……」
疲れが顔に出てるのか……?まあ、身体的には全然疲れてないけどな……。
かなりの数の人を殺してるからな……罪悪感は湧かないが……いい気分じゃない。
「お手伝いできないのが残念です……」
「気にするな……心配してくれてありがとな」
「そうですか……」
アリスには……少なくとも全部終わるまで言えないよな……。
「やあ、レント?」
「なぜ疑問形なんだ……」
ギルドから出て少し経った後、あの男に出くわした。
「調子はどうだい?」
「この前のデビュー戦でいきなりトップと戦ったな」
「へえ……まあ、試合はランダムだし……おれのせいじゃないよ?」
「ああ、分かってるよ……にしてもまさかあの司会までグルだったとはな」
「彼は素晴らしいよ……なんたってあの闇バトルの司会してても……誰も違和感感じないからね」
本当に……びっくりするくらい馴染んでやがる……。
「まあ、よろしく頼んだよ?レント」
「ああ、任せておけ……」
しかしこの闇バトル……かなり精神的にきつい……。
たくさん人を殺すからな…しかもそれによる嫌な気分じゃなく……寧ろその逆の人を殺す感覚を楽しんでしまっている自分が居るのが一番きつい。
こいつはどんな方法で殺すか……どういうふうに仕掛けるか。その時の相手の表情……それを考えてる時が楽しいと思ってしまう。
「これは……さすがにマズい……」
このまま人を殺すことに慣れ、快楽殺人鬼みたいなのになったら……ダメだ。
早く目的を達しないと俺の精神が侵されるぞこれ……。
「あの男め……臨時収入も貰うぞ、この野郎が」
確かに今の俺は今までからは考えられないような大金があるがな……納得がいかねえ……。
いつかあいつの顔を驚愕に染めてやる…と静かに俺は決心したのだった。




