トロイアの町
「止まれ!」
俺は拍子ぬけた。字が読めたし言葉が日本語に聞こえるんじゃないかって淡い期待はあった。でもそんな簡単にことが進むわけはないとも思っていた……がもろ日本語じゃないか、話も通じるぞこりゃ。
「ここはどこですか?」
「はあ?」
まあそういう反応だろう。俺は信頼を得るためある作戦を行うと決めていた。
記憶喪失作戦っていうやつだ。つまり記憶喪失の振りをしていればこの世界の常識を知らなくても不審には思われないだろう。
「ここはトロイアの町だ、許可証は持っているか?」
「いえ…実はモンスターに襲われまして、しかもその前の記憶が全部無いんですよ」
「記憶喪失か…?」
門番であろう男が怪訝な顔をする。まあすぐには信じないか。
「それで近くの町に保護を……」
「…まずちょっとした検査を受けてもらうがいいか?」
「ああ…はい」
まあ多分大丈夫だろう。とりあえずは町に入ることができた。
ここ、トロイアの町はどちらかといえば都会の部類だ。街灯があったり、道もきれいに整っている。けど豪華絢爛というかそういう雰囲気は全く無い。
「まずはここに入れ」
門番に案内された場所は市役所みたいなところだった。俺はそこで色々と質問を受けた。どうやら記憶喪失かどうか判断するものらしい。まあ俺はこの世界を全然知らないから本当にわからないことが多い。
というかこれが検査か?
「うむどうやら本当に記憶がないようですな」
…信じやがった。適当に答えていたのに。まあその方が楽なんだが。
「ならしばらくはこの町にいるとよい、一階の方で住民登録もできるしの」
「そうか……」
俺は一階の受付で住民登録用の書類に必要事項を書く。
「名前はどうなさいます?」
受付嬢が聞いてくる。まあ決っている。
「レントだ、名字は入れなくてもいいだろ?」
「はい、身元不明なので必須ではありません」
俺の名前はカタカナにすると異世界人っぽいな。本名だが問題ない。
「さらりと名前決めましたね?」
「まあ適当でもいいし……」
「はい、問題ありません」
「あと…」
「ん?」
「仕事はどうなさいます?」
まあ働かないとダメだよな。そしてここは異世界、やりたい仕事は決まっている。
「冒険者…だな」
冒険者、俺が異世界に行ったらやってみたいと思った仕事だ。命の危険は多少あるけどかなりいい仕事だと思っている。
「では所属したいギルドを選んでください」
「…は?」
受付嬢はギルド関係の書類を持ってきた。俺は目を通す。
どうやらこの町はギルドが五つあるみたいだ。んでそのギルドに入ることによってより高収入な依頼が受けられるらしい。ちなみにフリーもあるがあまりメリットが無いらしい。まあ受けられる依頼が制限されるのは大きなデメリットだ。
「しかしギルドが多いな」
ふつう町に一つ冒険者ギルドがあればいいのにここは五つもある。
「レント様は記憶喪失なのでご存知ないでしょうが、ここトロイアの町はこの世界で最も冒険者業が盛んな町なのですよ」
「ああ…そういうことか」
ギルド一つじゃ限界があるということだな。
「まあ一番小さいところで構わない」
「そうですか、了解しました、あちらには連絡をいれますので明日、挨拶をしてきてください」
「わかった」
こうして俺はこの日、市役所の空き部屋で夜を過ごした。