アリス、その想い
今回は錬人とアリスの出会い。
そのアリス視点バージョンです。
「こんな冒険者さんが居るんですね」
私はトロイアの町の広場にある掲示板を見て驚きました。
冒険者になってから、たった二日でラプターの群れを撃退した凄腕の冒険者、レント…そんな信じがたい情報が大きく取り上げられていたのですから。
「ギルドは……ここ最近にできたばかりの……あ……」
私は遠くに居たヴォルダーさんを見て、咄嗟に身を隠しました。
そう言えば…家出しちゃいました……。
トロイアの町の領主の娘である私は、小さい頃から冒険者に憧れていました。
ですが家族は私を冒険者にさせる気は無いそうです……。なので無理をしてでも冒険者になる為…この広場で情報を集めていました。
私はヴォルダーさんが行ったのを確認すると、レントさんという方がいるギルドへ足を運びました。
コンコン
まずは本当にこの小さいギルドに人が居るかどうか確かめないといけないのでノックをしました。
すると。
「はーい」
声が聞こえ、扉が開きました。
私の目の前に居たのはこの国では珍しい黒目黒髪の…少し目つきの怖い少年でした。
この方がレントさんなんでしょうか?とにかく聞いてみることにしてみます。
「あの、レントさんが居るというギルドはここで……」
「お、俺がレントだ…」
やっぱりそうなんですね。ですがとてもラプターの群れを倒せるほどの実力を持っているとは失礼ですが思えませんでした。
あ、大事なことを言わなければ……。
「あ、そうなんですね!実はお願いしたい事が……」
「依頼?」
「いえ、私をこのギルドで働かせて下さい」
それから彼は奥に居る…恐らくギルド長でしょうか。に顔を向けていました。
「あ、あの…」
「別に構わないよ」
やりました…これで遂に冒険者に……!
「じゃあ早速名前を……」
「アリス、アリス・エアードです」
と、自己紹介をした途端。
「うちはダメだ」
ギルド長らしき人にダメだと言われてしまいました。やっぱり、面倒事に巻き込まれるのは嫌なんでしょうね……。
ですがレントさんは諦めていないように見えました。
「あのなレント、こいつは…」
口論になりそうだった時……。
「そこに居ましたか、お嬢」
この声は……ヴォルダーさんに見つかってしまいました……。
「さ、帰りますよ」
帰りたくないです…ずっとここに居たい……なので反論してみますが状況は変わりません。そこに。
「ちょっと待った」
レントさんがヴォルダーさんから私を守るように陣取って、そう言いました。
「何だ貴様」
「その子が入りたいと言っているのに連れ戻すというのはどういうことだ?」
レントさん……この方は私の為に動いてくれたんですね……。
その後、少しの間の口論で私がこの町の領主の娘だと知ったみたいですが、それでも私の為にレントさんは行動してくれました。
「そうです、今すぐに帰って来てください」
「!お母様……」
お母様まで連れ戻しに来たということは……流石にレントさんも強くは言えない…そう思って私は諦めてしまいました。ですが…私はここまでしてくれたレントさんを見つめます。
そのすぐ後だったでしょうか……レントさんがヴォルダーさんに決闘を申し込んだのは。
決闘をしてまで私をこのギルドで働かせてくれようとしたレントさんには感謝でいっぱいです。
でも……。
「あの…」
「ん?」
「本当に勝てるんですか?」
次の日になっても全く対策も立ててないレントさんに不安になってしまい、つい聞いてしまいました。
しかし帰ってきた言葉は「余裕だよ」です。
そして何もしないまま、決闘にレントさんは向かわれてしまいました。
コロシアムは久しぶりに決闘が行われることもあり、かなりの賑わいを見せていました。
勿論私も観戦客の一人です。
レントさん……本当に大丈夫なのでしょうか……?
しかし、レントさんはそんな私の不安を拭い去るような活躍を見せてくれました。
ヴォルダーさんの大剣を片手で持った普通の剣で受け止めてるレントさんを見て、思わず……。
「す…凄い……!」
驚きと感心の声が出ていました。
それから彼は剣が折れても盾を武器に扱ったりとこれまた私を驚かせてくれました。
そして遂に……ヴォルダーさんに勝ってしまったのです。
その瞬間、胸に込み上げてくる何かがありました。
それが冒険者になれたことの喜びか、レントさんへの感謝なのか、或いはその両方か分かりませんが、とにかく悪くない気持ちです。
その日の夜、私はレントさんに感謝の気持ちを言おうと傍まで来たのですが……。
「綺麗な星空ですね」
真っ先にそんな言葉が出てきてしまいました。失敗したなと思いつつも、レントさんと星を見上げて来ると。
「なあ、アリス」
「!は、はい?なんでしょう!?」
いきなり名前を呼ばれたので焦ってしまいました。
「どうした?焦って」
「い、いえ初めて名前を呼ばれたような気がして」
見苦しい所を見せてしまいました……。
ですがレントさんは私に微笑みかけて。
「よかったな、冒険者になれて」
そう言われた途端、急に顔が熱くなってきました。ですがそれを隠し、笑顔で。
「…はい!」
応えました。本当にこの方には感謝してもしきれないくらい…本当に感謝しています。
この感謝の心が恋心に変わっていくのを、この時の私はまだ知りませんでした。
次回は…蒼馬ですかね。




