魔神解放
「邪魔だあ!」
「ガ―――――!」
俺はアシッドラーゴの群れを一振りで葬った。
さすが筋力が四倍に上がっただけはあるな…まるでファントスを相手にしてるみたいだ。
「これなら・・・いける!」
そう思った時だった。
「サンダーアーク」
そう聞こえた瞬間、俺は反射的に後ろに跳んだ。
その直後目の前に巨大な雷が降ってきた。
「っ…何だ?」
見ると洞窟の穴から禍々しい色合いのローブを来た人が数人ばかし出てくる。
あいつらが教団員だろう。
「我々の邪魔はさせんぞ」
そう言ってまた魔法の詠唱を始めるが……。
「アイスプリズン」
イムカが唱えた魔法によって氷の檻みたいなものに閉じ込められた。
何しに来たんだ?とつっ込みたくなった。
「あの中にはマナが存在できないから……魔法を使われる心配は無い……」
便利だな…そういや今の詠唱は見たことも聞いたこともないがもしかして……。
「そう…わたしのオリジナルの魔法……」
「まだ何も言ってないんだが」
この子は心でも読めるのか。
まあいい。それよりも問題はやっぱりグランドラゴンか。
周りのドラゴンを片づけてからにしようと思ったが例のおびき出し作戦は中々上手くいかない。
ていうか敵の索敵範囲が大体同じなため少数ずつ相手にできないのだ。
まあ、一番数が多いアシッドラーゴは余裕だが。
「錬人、こうなったらオレが今使える最強魔法を使ってみる、もちろん光属性のだ」
だろうな、闇耐性のある相手には光属性が有効だ。下手に混合魔法を使う必要は無い。
だとするとジャッジメントアークか?
「ジャッジメントアーク!」
ああ、やっぱりか。
蒼馬の放ったジャッジメントアークは見事、グランドラゴンに直撃した。
かなりの轟音がこっちに届いてくる。さっき撃ってた時よりもその差は歴然。
きっと魔力を大量に込めた本気の一撃だろう。
「やったか?」
そのセリフは多分やってないな……なんて思ってたら煙の中から全くの無傷のグランドラゴンが出てきた。
「くっ……マジかよ」
冗談で言おうと思っていたが本当にやれてない。
「グルァアアアアア!」
グランドラゴンがブレスを吐こうとしている。
「させない……」
そこにイムカが割って入って来る。
「大丈夫なのか?」
ランサーが不安げに聞いているがイムカは……。
「今度は……やれる」
そういい魔法の詠唱を始める。
「アクア…カーテン」
そう唱えるとイムカの目の前にそれなりの大きさの水の膜が出来上がる。
そしてその膜がグランドラゴンのブレスを受け止めた。
「バ…バカな!?」
檻の中から教団員が驚愕の声を上げている。
俺も流石に凄いと思った。数日前は防げなかった強化グランドラゴンのブレスを…余裕で防いだのだから。
だが問題はある。蒼馬の本気の一撃に無傷だった。これではいつまで経っても倒せない。
「れ…錬人」
「どうした?」
「オレは設定の中の魔法が使えるよな?」
「そうだが今さら何を……まさか!」
「ああ、もしかしたらオレの左目の封印、解けるんじゃねえのか?」
多分解けるが……設定だと暴走を引き起こすぞ……。
「たぶん暴走は何とか抑えきれそうな気がする…封印を解いていいか?」
「…それを決めるのはお前だ」
「ああ…行くぞ」
そう言い蒼馬は眼帯を外す。
「レントさん…ソーマさんは何をしようと……?」
「所謂切り札…だな」
蒼馬が両目を開く。右目の方は俺と同じ黒い瞳だが魔神が宿っていると言われる方は血のように真っ赤に染まっていた。設定通りだってことは……。
「い…行くぞ」
若干苦しそうなのは魔神に抗っているからだろう。
蒼馬がそう言い手を手刀の要領で横に振る…ただそれだけに見えた。
その瞬間、少し離れたところにいたデフォンズワイバーンの群れが一瞬にして両断された。
「…マジかよ」
そうい言ったのはランサーだ。俺もそう言いたくなる。
「…すごい」
蒼馬自身自分の強さに驚きを隠せてない……しまった!
確か設定では心の僅かな隙に魔神が入り込んで暴走を引き起こすんだった。
今蒼馬は魔神に抗うことじゃなく自分の強さに意識が行ったはず……てことは……。
「ククク……ハハハハハハ……」
「ああ、やっぱり」
「アーッハッハッハッハッハ!」
中二病モードでもあんなに高笑いはしていない…完全に蒼馬の意識が魔神に乗っ取られたな。
「おい、どういうことだあれ?」
「……中二病の末路?」
「なるほど…じゃなくて真面目になんだあれ?」
…ランサーはなぜ中二病を理解できたんだろう…まあ今はそれよりも蒼馬だ。
「あいつの左目には魔神が封印されていたんだが…ついさっき封印を解いた…」
「それまずくね?」
「…制御はできるはずだったがさっき自分の予想以上の力に意識がいってな」
「そういうことか……」
「あの…レントさんとランサーさんは何を話しているんですか?」
まあそういう設定を理解できない奴の方が多いよな…というかさっきからランサーが話について来ているんだがどういうことだ?
「いまのソーマは暴走状態だ」
「え?それってどうすれば……」
「まずはソーマを見ておけ…もしかしたらグランドラゴンを倒してくれるかもしれん」
「まあこっちに襲いかかって来ることも十分に考えられるけどな」
さあ、どう動く?
「ククク…我の相手は誰だ?貴様か?」
そう言いグランドラゴンを指差す。よし、このまま倒してしまえ。
「ガアアアアア!」
グランドラゴンは蒼馬に向かってブレスを吐く。
「フッ…無駄だ」
蒼馬は手をかざし、魔法陣を生み出した。
「…っ!」
「どうしたんでさあ、イムカ姉さん?」
「今…ソウマからものすごい魔力が……」
魔法陣はブレスを受け止め掻き消していく。
規格外な存在だ。
「なんだつまらん…そろそろ終いにしよう」
そう言い蒼馬は魔法陣を七つ生み出し、グランドラゴンに向けて連なるように動かしていく。
そういやこの魔法は……確か……。
「消え失せろ…ラグナロクブレイカー!」
そうそう、たしかラグナロクブレイカーだ……その余波は俺たちも巻き添え喰らうな……ってヤバい!
「みんな!伏せろ!」
蒼馬の手から放たれた光線は魔法陣を通って、行き勢いを増しながらグランドラゴンに向かっていく。
次の瞬間、信じられないくらいの衝撃が来た。
「…っ……ヌオオオオオ!」
俺はアリスたちを庇うようにして盾を構えていた。
……何とか防ぎきれたか?そう思って一応辺りを見る。
「まあ…予想はしてた」
グランドラゴンは完全に肉片と化していた。
教団員の入っていた檻が壊されていたが教団員は余波を受けて気絶しているようだ……。
「フハハハハハハ!我は最強だ!アーッハッハッハッハ!」
そして、蒼馬の高笑いだけがその場に響いた。




