アリスの真実
「ここか……」
俺は今、アリスの家の前に居る。流石は領主の実家、かなりの豪邸だ。
「むっ…貴様……!」
「お、久しぶりだな」
入口で巨漢が門番のように立っていた…というか門番か。
「アリスに会いたいんだけど」
「お嬢…何かあったのか?」
「……ああ」
俺は巨漢に今までの経緯を説明した。
「ふむ…十三年前の事件が思い起こされたのか……」
「…どういうことだ?」
この巨漢は何か知っているのか?
「こういうのはシーナ様……お嬢の母君に詳しく聞くと良い」
「そうか」
そういやお義母さんの名前初めて聞いたな。この巨漢の名前は何だったけな?ヴォルダーだっけ?
まあいいや、俺は巨漢の案内の下、お義母さんに話を聞きに行くことにした。
「ヴォルダーが客人と言って誰かと思えば……貴方でしたか……」
「お願いがあります、お義母さん」
「いつ貴方の義母になりましたか!?」
おっと口が滑った……。
「しかもお願い……娘はあげません」
「いえ、そうでなく聞きたい事があります」
俺は真剣な表情を向けて言う。それを察したのかお義母さんも真剣な表情になる。
「十三年前の事……でしょうか?」
「…はい」
「ではまず家の家族について話しましょう…貴方、わたしの夫…アリスの父親のことは知っていますか?」
そういやこの前さりげなくアリスに聞いたが、父親が幼いころ亡くなったとは聞いたな。
「既にこの世には居ないということしか……」
「なんでかは知っていますか?」
「そこまでは……」
この展開……教団に殺されたとかか?
「あの人は……教団と繋がりがあったのですよ」
ああ、そっち……ってマジか!?
そして俺は一三年前に起きた、忌々しい事件について聞くことになった。
どうやらこの時期、教団である研究を進めていたらしい。
「研究……?」
「人工的に魔力体質を創りだすことですよ」
……話が読めてきたぞ……もしかして……。
「まさか……」
「そうですね…研究を進めて遂に、魔力体質を創るための実験に使われたのが……」
「アリス………!」
「あの人は……ただ自分の研究の結果を出すために、娘を利用したのです……!」
……とんだクズ野郎だ。
「で、実験は……?」
「失敗です」
まあ、そうだろうな。アリスは魔力体質じゃないらしいし。
…ん?そういやイムカが言ってたな……アリスの魔力は特殊だって……。
「完全に失敗だったのか……だったんですか?」
「無理に敬語を使う必要はありませんよ、そうですね……失敗というより…惨劇ですかね」
「惨劇?」
「実験中、アリスの魔力が暴走したのです」
「……その後、どうなったんだ……?」
「アリス以外の教団の研究員、そしてあの人……全員が何かに食い荒らされたような死体となった………と言えば分かりやすいですかね?」
うっ……確かにこれはトラウマになる………んで、その時の副作用か何かで今の特殊な魔力になったわけだ……。
「分かった……俺はアリスに話に行く」
「……教団と一戦やるつもりですか?」
「ああ、アリスの力は欲しい……」
「教団の規模は測り知れませんよ」
無論、分かっている……子分が言ったアジトを見つけてくるってのだって支部の一つに過ぎないだろう。
だが……この地域の教団を潰すだけでも………アリスの心は晴れるはずだ……!
そしてそれは……アリスが自分で片付ける問題でもある。
「それでも……アリスを説得する!」
俺はお義母さんと別れ、アリスの部屋へ向かった……で、アリスの部屋はどこだ?
「おれが案内する」
俺が迷っているのを見て察したのか、巨漢が案内をしてくれた。
「おれは門番の仕事に戻る……アリス嬢の事宜しく頼んだぞ」
「ああ、俺に任せておけ!」
俺はアリスの部屋に入る。勿論、アリスは俺が家に来たことは知らない。
「アリス!」
「えっ!?レントさん……なんでここに……!」
すごい驚いてる……可愛い……じゃなくて!
「アリス、俺は教団をぶっ潰す!お前も手を貸せ!」
「……私は……でき…」
「俺はお前の味方でいたいと思ってる」
「え?」
アリスが何も知らないで教団が壊滅しましたじゃ何も変わらない。
「確かに教団と戦うのは辛いかもしれない……だが、いや、だからこそ……立ち向かう必要があるんだ!」
「レントさん……もしかして……?」
「既に話は聞いてある」
「そうですか……でも私……やっぱり……!」
「誰も一人で立ち向かえとは言って無いだろ?」
「……でもっ!」
「安心しろ……俺は勿論……みんなお前の味方で居てくれる」
「でも私の過去を知ったら……」
「たとえあいつらが裏切ったとしても……俺は味方だ」
「っ……レントさん……!」
アリスは泣き出してしまった。
……こういうとき、男としてどうすればいいんだろうか……やっぱり抱く…とかか?
…急に自分が恥ずかしくなってきた。だがここで逃げるのは男じゃないな。
「アリス……大丈夫だ…だから一緒に戦おうな……」
俺はアリスを抱き締めながら言った。
「はい…はい……レントさん……!」
アリスも了承してくれた。
「さて……そろそろ昼か」
俺は時計を見ながら言う。今日は朝から忙しかったがあまり時間は経ってないな。
「たしか……教団のことについて調べるとか言って無かったですか?」
完全に泣き止んだアリスが言う。
「……子分とランサーは居ないがソーマとイムカを誘って昼飯でも食うか」
「そうですね」
俺たちはギルドへと戻っていった。
「お、錬人と……アリスじゃないか……」
「ソーマさん、私はもう…大丈夫ですよ」
「……」
蒼馬たちはイムカが言ったように新しい魔法を創っていたようだ。
「これから昼飯でもどうかと思ってきたんだが」
「ああ、オレはいいぜ、イムカはどうするよ?」
「ソウマがいくなら……わたしも……行く……」
全員の了承は得た。早速……。
「錬人が料理作るんじゃないのか?」
「材料がねぇよ」
まったく蒼馬は……というわけで早速行くことにした。
ちなみに店は少し騒がしい所だ。いろいろ蒼馬には元の世界関連の話があるからな。
俺は忘れてないぞ……お前がイムカに話したか追及することを。
「ところでソーマ」
「なんだよ?」
早速聞いてみる。
「昨日の夜、イムカに何を話した?」
「ななな、なんのことだい?」
怪しい……。
「イムカも、何を聞いた?」
「……この店を選んだのは…そういうこと……」
「その言い方……やっぱりソーマ…蒼馬から元の世界について聞いていたか」
「ん……」
イムカが首を縦に振る。やっぱりな。
「で、蒼馬……なんで話した?」
「し…仕方ないだろ?イムカがオレの魔力がこの世界のものじゃないみたいなこと言うから……!」
蒼馬が話すには昨日の夜遅くにイムカが目覚めたそうで、最初の内は他愛もない事を話してたそうだが、突然イムカが魔力の事について指摘してきたそうだ。
……つまりイムカが蒼馬を別世界の人と見抜いたということか……この幼女どんだけ凄いんだよ。
「あとソウマから…魔神ヨルムンガンドのことについて……聞いた………」
それは蒼馬の中二病の設定だ。
「左目に宿いし最凶の魔神の力……この眼帯を取れば封印は解ける……ククク……」
なんか蒼馬が中二病モードになった…久しぶりだな。
「レントさん…ソーマさんは何の話をしているんですか?」
「……設定?」
「なんです?それ」
「この世界の人達には口で説明するのは難しいな」
しかし蒼馬は設定の中の魔法を実際に使っているからな……ほんとうに左目に魔神を飼っているんじゃないか?
「これが設定じゃないとしたら本当に蒼馬は化け物だ」
小声でだが、呟いてしまった。
今日、俺は蒼馬がいかに恐ろしい存在か…その片鱗を感じたような気がした。




