事件の始まり
遅れてすみませんでした……。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
「……っ……」
蒼馬が必死に呼びかけるがまともな返事が返ってこない。
見たところ全身に傷を負っているようだがかなりひどい傷は無い。
「とりあえず回復薬を……」
「そんな時のために用意してある」
おお……ギルド長、久しぶりに声を聞いたぞ。
俺たちはイムカを部屋に運び、治療を行った。
「………」
イムカの顔色がやっと落ち着いてきた。今は良く、眠っているようだ。
「さて…アリス、帰るぞ」
「え?」
「色々聞くのは明日でも良いだろう?」
「一人にして良いんですか?」
「一人じゃない…ソーマ、イムカの傍に居てやれ」
「あ、ああ」
蒼馬を残して俺たちは帰ることにした。
「…よお」
「…ランサーか」
宿屋の前でランサーが待っていた……イムカと同じく、怪我をしているようだ。
「お前んとこのギルドにイムカが来たろ?」
「ああ、今ソーマがついて看病してやってる」
「そうか、まあギルドに向かわせたのおれだけど」
「ん?どういうことだ?」
「詳しくは明日、話す」
「ああ、じゃあうちのギルドに来てくれ」
「了解だ」
俺はランサーと別れ、宿屋へと帰って行った。
次の日、早速俺はギルドへと向かった。
「お、来たか」
蒼馬が出迎えてくる。隣には完全回復したイムカも居るな。
「お待たせしました」
「よっ」
「兄貴~」
アリスとランサーも…なんで子分も居るんだよ……。
「ランサー親分に怪我させて…許せないんでさあ」
親分……。まあいいや。
「早速、事情を話してもらおうか」
「昨日グランドラゴンを討伐しに行ったんだろ?何があったんだ?」
まさかグランドラゴンに負けるはずは無い…だとすると誰かの妨害があった…とかか?
「あれは…完全におれたちの判断ミスだ」
ランサーが口を開いた。
「あれは…グランドラゴンであって…グランドラゴンじゃない…」
イムカも喋りだした。
「どういうことです?」
「おれたちのパーティーは、グランドラゴンにやられた」
「なっ……」
イムカやランサーの所属するパーティーはかなりの実力者揃いのはず…グランドラゴンが最強のドラゴンと恐れられていてもこいつらなら問題無い相手だ。
それが負ける?一体どういうことだ?
「…詳しく、教えてくれ」
「ああ……」
聞いた話によると、どうやらランサーたちは謎の強化を遂げたグランドラゴンと戦い、負けたらしい。
「確かに…形が少し違った…」
「けどおれらは個体差程度にしか思わなかった…それで完全に油断してた」
こいつらの戦ったグランドラゴンの吐くブレスはイムカも防ぎきれなかったという。
そういやイムカは火傷を負っていたな。
さらにその巨体の表面はかなり厚く、硬い。さらには特殊なバリアが展開されていて、魔法攻撃が一切通用しなかったという。
「おれたちは撤退を余儀なくされたんだ」
「…他のパーティーメンバーは?」
恐る恐る聞いて見る。まさか死んだんじゃ……。
「一応…全員生きてはいる……」
「生きては……か」
「リーダーは…かなりの重傷で…冒険者業に復帰はできないだろう」
「他のメンバーも……軽傷の人でも……恐怖心からか動けない人が……居る」
かなりマズイ状況だな。
「何か原因について心当たりは?」
「…闇の魔力を……感じた」
イムカの言ったその言葉を聞いて俺は思い出した。
「なあ…それって……」
蒼馬も気づいたらしく、俺に話しかけてくる。
「間違い無い…昨日のファントスと同じだ」
「ファントス……?」
「ああ……」
俺たちはランサーたちに昨日町に侵入してきた、巨大ファントスの話をした。
「外壁を突き破ってきた……だと?」
ランサーが驚きの声を上げている。
「オーラ、アンチオーラを使っても油断すれば吹っ飛ばされる勢いだった」
「……デフォンズドラゴンよりパワーが強い……?」
「ん?何言ってるんだ?」
いやいや、デフォンズドラゴンよりは軽く感じたぞ?
「おかしいな、町の外壁はデフォンズドラゴンが突っ込んできても大丈夫なくらい頑丈なはずだ」
「……確かにおかしいな」
「……外壁が脆くなってたのでは?」
アリスが答える。なるほどな。
「……その外壁に行って……調べれば良い……」
「そうだな」
俺たちは、昨日ファントスが侵入してきたと思われる、崩れ落ちた外壁の側に行くことにした。
「……これは…何かの体液か……?」
俺は壁の破片に変な染みみたいなのを発見した……なんか破片を溶かしているような……。
「これは…アシッドラーゴの体液だな」
ランサーが答える。
「洞窟にしか生息しないんじゃないか?」
「そうなんだがこれはどう見ても……」
「アシッドラーゴがこの壁に酸を吐いて、脆くなった所に巨大ファントスを突撃させた……というところか」
だがそれはありえないはずだ。モンスターのくせに…妙に連携が整っている。
しかもファントスはランサーたちが出掛けている隙に襲ってきた……。
「巨大ファントスと、特殊なグランドラゴン……どちらにも闇の魔力……」
「……魔術…改造……」
「イムカ、何か知っているのか?」
「その噂、おれも聞いたことがある」
ランサーとイムカは気づいてるみたいだ。
「…………」
「どうしたアリス?」
この前もそうだったが魔術改造の言葉を聞いて顔色が悪くなっている。何かトラウマでもあるのか?
「いえ…何でもありません……」
「そうか…んで、どんな噂だ?」
「ああ……闇の魔術教団だ」
ランサーが答える。
「主にモンスターを魔術改造させ、町なんかを襲わせたりする外道集団だな」
「うわ…はた迷惑すぎる」
教団……改革だとか言ってテロ行為に平然と手を染めるのか。
「ああ、実際どんどん行動が過激になっているらしい」
「町に直接攻撃してきたからな」
「なら、おれがアジトを調べてみるでさあ」
子分……簡単に見つかるわけないだろう……と思ったがこいつならやり遂げそうな気がするな。
「おれは教団の資料を調べてみる、イムカはどうするよ?」
「わたし……ソウマと…一緒に魔法の…特訓をする……」
「オレと?」
「ん……あのグランドラゴンを…楽に倒せるくらい…強い魔法を創る……」
魔法を創るって……ん?今蒼馬をソウマって呼んだ気が……。
確かに本当はそう読むけど……この世界でソーマの名前で登録している。俺だって呼ぶ時はソーマって呼んでる……なんでイムカはソウマって………あっ…まさか……。
俺は蒼馬の方を睨む。するとそれに気づいた蒼馬が目を逸らした。
…まさか…イムカに教えてんじゃないだろうな……別世界から来た事を……!
まあ、後で追及するか。俺はどうするか……って。
「アリス……本当に大丈夫か?」
アリスの顔色が相当悪くなっている。
「…すみません……!」
アリスは走り去って行ってしまった。
「なんか…あったのか?錬人は分かるか?」
「…知らんな……」
考えられる点があるとすれば……。
「…魔術教団と…繋がりが……ある…と思う…」
イムカがそう言った。
「貴方なら…分かるはず…彼女の魔力は…少し…変わっているって……」
「ありえないな」
「あの様子…教団について絶対……何か知っているはず……」
「あれはどう見てもトラウマだ、関係があるとは思うが…アリスが教団の手先みたいな言い方、やめてもらいたいな」
「…そうは言って無い……けど可能性は……」
くっ…そんな訳は無い!アリスが……アリスが……!
「錬人、気持は分かるがその可能性も否定は……」
「黙れ……!」
「おい、錬人……どこ行くんだ」
「アリスは家の方に向かっていった……俺も行く…そして……事情を聞きだす!」
俺はアリスの家へ向かって、走り出した。




