不吉の予感
「またか」
「…悪い?」
「いや?」
俺はうちのギルドをウロウロしてたイムカに声を掛けた。
これでもう何回目だ?最初はビクッてなって可愛かったが今じゃ軽く流されるぞ。
「ソーマは勉強中だ」
「そう……」
「終わるまで待ってる気か?」
「悪い?」
こいつ……どんだけ蒼馬が好きなんだよ。まあ別に問題は無いが……。
「…貴方の所のアリスっていう子……」
「ん?」
「魔力は人並みの筈だけど……何かおかしい……」
アリスが?どういうことだ?
詳しく聞いてみると、どうやら普通の人間は魔力の量が決められているらしい。
具体的に言うと、コアストーンやオーラなどで魔力を上げられる量に上限があるらしい。
ちなみに俺など普通の人間は魔力体質の平均魔力の半分が限界だそうだ。
もちろん魔力体質には上限が無い……そこでアリスだ。
アリスは魔力体質ではない…が、その上限がないらしいのだ。
イムカがありえないことだと言っていたが…つか、見ただけでわかるのかよ。
「それで、何が言いたい?」
「一応…注意して……」
注意?まるでアリスが俺の命を狙う刺客みたいな言い方だな……。
と、その時。
「おーい、イムカ」
イムカを呼ぶ声が聞こえた……確か槍使い…ランサーだっけ?
「何?……ランサー」
「依頼だ、準備をしろ」
「……わかった」
先にイムカを行かせた後、ランサーが俺に話しかけてきた。
「闘技大会では世話になったな」
「ん?ああ、そうだな」
「イムカの奴、迷惑掛けてないか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうか、おれはランサー、知っているだろうがイムカとは同じパーティーだ」
「ああ、俺はレントだ」
「もし共闘する機会があるならよろしくな、あんたらには期待している」
中々礼儀のできる奴だ。
「で、依頼ってなんだ?」
「ん?ああ、グランドラゴンの討伐だよ」
そんな軽く言うなよ……お前らいつもあんなのと殺り合っているのかよ……。
「ま、おれとおれのパーティーメンバーたちなら問題無く終わるさ」
「頼もしい限りだな、全く……」
そんなこんなで俺はランサーと別れた。
「よう、外で何かあったか?錬人」
「ん?イムカが居たが仕事があるからもう行ったぞ」
「そうか…まあオレも少し話があったがイムカが帰って来てからでも遅くないな」
それをイムカが言ったら死亡フラグになるぞ……。
「で、話って?」
「秘密だ、秘密」
「……告白?」
「い…いや?チガウゾ?」
…すげぇ怪しい。まあ蒼馬は告白まではできないな……チキンだし。
「そういうお前はアリスとどうなんだよ?」
何だこのボーイズトーク、誰得だ!?
まあいい、アリスか……。
「好きなんだろう?」
「まあ、俺は確かにアリスの事好きだぞ?」
「さらっと言いやがった……というかアリスの方だって…」
「好きだろうな?両思いだろう」
「やっぱ気づいていたか」
そりゃあ…気づくだろう、俺だってアリスに良い所を見せようと必死に頑張っていたんだ。フラグの一つや二つ、立ったっておかしくない。
初めてイムカを連れてきた時嫉妬してたしな。気付かない方がおかしい。
「錬人は告白しないのか?恥ずかしいのか?」
「アリスの性格を良く考えてみろ」
「え?……あ……」
意外に察しがいいな。
「アリスに告白してみろ、たぶん緊張からか断られるぞ…さらにだ、真面目な性格上その時の罪悪感からか俺とあまり話さなくなりそのまま微妙な関係に……」
「…うん、そうなるわな」
と、その時。
「大変です!」
ギルドの宣伝も兼ねて、町の見回りをしていたアリスが慌てた様子で帰ってきた。
「町にモンスターが侵入してきました!」
「なんだと!?」
城塞都市なのにどっから入ってきた?というかマズイ状況だぞおい!
「緊急依頼なので手の空いている冒険者は牧場に向かってほしいそうです!」
俺たちは急いでモンスターのいる牧場に向かった。
「な!」
「これは…なんとまあ……」
「このモンスターは!?」
俺たちは牧場に来て、絶句した。
周りには倒れている冒険者たち、そして奥にはその原因と思われるモンスターが居た。
姿はファントス…すこし禍々しい形に変貌しているが、問題はその大きさだ。
ギルラプターより少し大きめのファントスがそこには居た。
「グヴォ―――――――!」
ボス個体ででかいのが居るとは聞いていたがそれよりもかなり大きい。
ファントスは俺たちが視界に入った途端、猛スピードで突進をしてきた。
「くっ…オーラ、アンチオーラ!」
すぐさま援護魔法を唱え、突進を盾で受け止める。
「ぐっ!?」
かなり重い衝撃が来た。こんだけの援護魔法が掛かってこれかよ!?
「大丈夫ですか!?レントさん」
「なんとかな……」
だが落ち着け、流石にデフォンズドラゴンの方がまだ強い。問題点はブロウクンセイバーが使えないということだな。面倒だな、許可制。
「ダークスマッシュ!」
蒼馬はそう言って魔法をファントスに当てるが聞いている様子は無い。
「なっ……」
奴は弱体化、こっちは強化されているってのにこの戦況……かなりマズイ……。
しかし今の攻撃…蒼馬の火力不足ではなく相性な気がする…蒼馬が放ったのは闇属性の魔法…闇耐性でも付いているのか……?だったら……。
「蒼馬!光属性の魔法だ!」
「ああ!セイントスマッシュ!」
蒼馬の放った魔法によりファントスが仰け反った。
「行くぞ!アリス!」
「はい!」
俺が合図すると同時にアリスが魔法を唱えながら素早い斬撃を繰り出し、最後に風魔法で俺にファントスを飛ばす。
「これで終わりだ!」
「ヴォ!?」
俺は飛んできたファントスを大剣で思い切り叩き斬ってやった。
やはり普通のファントスより硬かった…がそれでも余裕があった。
「ヴォ―――――!」
ファントスは斬られ、絶命した。
「やっと…終わったか」
「ふう……やりましたね」
流石に疲れた……一体何だっていうんだ。
「しかしおかしい、なんでファントスが闇耐性なんて持っていたんだ?」
「…闇の魔力が感じられるな」
「わかるのか?ソーマ」
「だが魔法の正体がわからん…魔術による改造…とかか?」
「えっ……?」
「どうした?アリス……っておい!大丈夫か!?」
アリスの顔色がどんどん悪くなっていく、汗もひどい。
「……」
「アリス!」
「はっ!いえ…大丈夫です……」
明らかに大丈夫には思えないがとりあえずは冒険者たちを回収して、俺たちもギルドに帰った。
ちなみにファントスはあの外壁をぶち破ってきたらしい。
「雨か……」
「ですね……」
一応はだいぶマシになったアリスと窓から外を眺めていた。
しかしもう少し遅かったら雨に濡れるところだった。帰ってきた途端に振りやがった。
イムカ達は大丈夫だろうか…と思っていた時。
コンコン
ノックの音が扉から聞こえてきた。
「今出る」
近くにいた蒼馬が出る。俺はギルドの奥でアリスの容体を見ていたからな。
「おい!大丈夫か!?」
いきなり蒼馬の声が聞こえてきたので蒼馬の方へ向かう。
「ソーマ、何があった……なっ……」
俺はその状況を見て言葉を失った。
蒼馬が抱きかかえていたのは……ボロボロになったイムカだった。




