魔力体質
「あの……」
アリスが不思議そうな顔を向けている。可愛い…じゃなくて!
「な、なんのことだ?」
「あっちの世界とかこっちの世界とか…なんの話です?」
…バッチリ聞かれてる……。
「仕方ない…おい」
「ああ」
俺はアリスを手招きして、蒼馬が扉を閉め、鍵をかける。
「へ?え?」
「最早、聞いてしまったからにはタダで帰すわけにはいかん」
蒼馬も事情を察したようだ。
「…というのは冗談だ」
「え?」
なにも俺がアリスに変なことをするはずが無いだろう。
「別に変なことはしない、ただ今から話すことは絶対に誰にも言わないように」
「は、はあ…」
俺は仕方なくアリスに全てを話した。異世界のことも、俺は記憶喪失でもなんでもないことを。
「それで、そちらの方との口論は……?」
「こいつが帰りたいんだとよ」
「うぇ?」
何変な声出してるんだよ。お前のことだよ。
「あー錬人、別にオレは帰りたいわけじゃない」
「あ?」
「いや、よくよく考えたらここは異世界なんだよな?」
「そうだと言ってるだろ?」
「つまりだ、魔法も使えるんだよな?」
ふむ、魔法か。多分無理だろ。俺もできなかったし。
「俺たちはこの世界の人間じゃないんだから魔法は使えないんじゃ?」
事実、俺は無理だった。
「では、魔力体質の人に見てもらうというのはどうでしょう?」
「魔力体質?」
初めて聞く言葉だ。まあ、なんとなくどういうものか想像つくけど。
「魔力体質って生まれつき魔力が高いとかそんなか?」
「はい、合っています…というか魔法が無い世界から来たと聞いたんですが妙に詳しいですね」
「俺たちの世界にはな、創作上でこういう世界があったりするんだよ」
「そうなんですか」
「んなことよりさっさと見ておらおうぜ」
わかってるよ。というわけで、俺たちは魔力体質の人がいるという場所に向かった。
「ここか?」
「はい、魔法関係の道具を取り扱っている場所で、店主が魔力体質なんですよ」
早速中に入ると、魔女の格好をした老婆が出てきた。
「わたしに何かご用でも?」
「ああ、そn」
「まあ!」
用を言おうとしたところで老婆がいきなり蒼馬の方へ向かっていった。
「貴方、魔力体質ね?それもかなり高い魔力をお持ちのよう」
……は?蒼馬が魔力体質……だと?
「ちょうどいい機会、外で魔法を見せてもらえないかしら?」
「え?」
蒼馬が助けてほしそうにこっちを見る…助けてはやらん!
「諦めろ」
「そんなー!」
そんなわけで平原まで連れて行かれた。ちなみに蒼馬は結構カッコいいローブを身につけている。あの老婆め、サービスしやがった。まあそうじゃないと下着姿のまんまだったが。
「ふ…フッ、ならば見せてやろう……オレの究極魔法を!」
中二病モードになって蒼馬が言う。若干声が震えていたが。
「さあ、マナよ!オレに力を貸せ!」
なんか無駄な足掻きっぽいな。マナに語りかけても……。
「え?嘘……」
「どうした?アリス」
「レントさん、もしかしたらあの人、本当にすごい魔法を唱えられそうなんですが」
んなバカな。それにこの世界の魔法なんてあいつは知らんだろう。俺だってウィンドカッターぐらいしか知らねえよ。
「さあ、我が力の前に消え失せろ!カオスエレメントブレイカー!!」
転びそうになった。おい、それはお前の妄想の中の魔法だろう。たしか光と闇の混合攻撃呪文だったな。手から禍々しいビームが発射される感じのやつだ。
ドゴオオオン!
「フハハハハハハハ!どうだああ!」
別に誰に撃ったわけでもないだろうに……っておい!発動したんですけどカオスエレメントブレイカー。
「おお…聞いたこと無い呪文ね、しかも光と闇の合成魔法、こんな人初めてよ」
老婆が絶賛している。これはすごいな。…ん?てことは……。
「ちょっとこれ持ってみろ」
「ああ」
俺は大剣を蒼馬に持たせる。
「意外と軽いな」
…やっぱりだ。これは…俺が完全に蒼馬の下位互換じゃねえかああ!
「おい老婆!」
「何か?」
「俺の魔法の才能は……」
「ありません」
ぐっ…はっきり言われた。つまり俺はアリスや蒼魔に勝てるところが無いということだ。
「大丈夫ですか?」
アリスは努力もしてるし可愛いから許せるけど、蒼馬…貴様だけは許さんぞ…!
「お前、剣持つの禁止だ、魔法だけで戦え」
「お、おい…どうしたんだよ」
半ば自棄だ。剣の腕は勝っていなければ俺の気が済まん。
「し、仕方ないな…オレは魔法で戦えばいいんだな?」
素直に頷いてくれるとすごい罪悪感があるがまあいい。
そんなこんなで、今のところは蒼馬もこっちの世界に居ることになった。少々無理があるが俺と同じ記憶喪失という設定を使っている。名前はソーマにしておいた。そっちの方がファンタジーっぽい。
「おい錬人、指示を」
「レントさん」
「ああ」
ギルドでは俺たち三人で行動をしている。俺は蒼馬がきて三日くらい経ってから、ようやく自分の役割が見えてきたところだ。
当初は自分に自信が無くなってて落ち込んでいたがな。とりあえず俺はこのパーティーのリーダーになっている。
これは自分で言うのもなんだが、かなり充実している。まあ、人の上に立ちたいという下心は無いわけではないけれど。こいつらは俺を信頼してくれている。んで連携が上手くいくと気持ちい事この上ない。
「よし、まずは…」
こうして俺たちの異世界冒険記が幕を開けたのだった。




