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別人

作者: 広幡桐樹

ある日、男は京都に訪れていた。彼は大学生で、手には先週買ったばかりのデジカメを持って、あらゆる名所を写真に収めながら、ここぞとばかりに観光を楽しんでいた。

「やっぱ京都と言えば金閣だよな。社会の教科書の写真で何度も見たけど実物は大違い。3枚ぐらい写真撮っとこ。」

構図を真剣に見定めながら写真を撮り終えると、彼は再び歩き出した。




「佐々木さん、今回はどのようなお話をお書きになるのですか?」

「今作のテーマは男の一人旅。旅をしながら男は様々な人にあったり、出来事を経験して、最終的に読者も一人旅に行きたい、と思わせられるような小説を書くつもりさ。」

小説家の佐々木はデビューから約3年。これまで彼の作品を読んだ人々をほっこりさせるような作品を書いてきた。売れ行きも上々だ。

「旅と言っても舞台はどこなんです。日本だけでも色々な名所がありますし、もしかすると外国なんてお考えも?」

「いやいや、外国ではないよ。外国が舞台でも異国情緒が溢れたいい作品が書けると思うけど、いくら小説っていっても嘘っぱちを書くわけにはいかない。実際に現地に行って自分の足で歩かないとだめだよ。ああ、こんな話をしても仕方がない。今回の舞台は京都だよ。」

「京都ですか。いいですねえ、京都。」

「とりあえず主人公には金閣辺りを巡らせてみたけどね、あんまり読者が退屈してはいけないから、あえてその名所の歴史などは書いていないんだ。今回はあくまで主人公と人々との出会いがメインだからね。」




もうだめだ。これから先の展開が思いつかない。

男は自分の部屋で小説を書いていた。しかし出だしの原稿用紙一枚分で手が止まってしまった。

「小説を書く小説家の一生を小説として書くっていうアイデアはいいと思ったんだけどな。やっぱ俺こういうの向いてないのかもな。この前の京都の観光を元に書き進めたところまではよかったんだけどな。気晴らしにでもまたどこか行くとでもするかな。とりあえずこの小説家は主人公を旅に出すとして・・・」




「佐々木さん、調子どうです?」

「うん、順調に書き進めているよ。今は主人公がある詩人に会って感化され、自分も文章を書こうと小説を作っているシーンさ。けれど経験が乏しいから主人公はなかなか書き進められないんだ。そこで新たな刺激を求めてまた旅に出るのさ。」

「ほぉー、素晴らしい発想ですねえ。で、今度はどこへ行くんです?」

「今度はひろーい北海道さ!」




一方その頃、男は近所にある商店街を手持ち無沙汰に歩いていた。

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