九
登ってきた道とは反対側にある道を下りていくと寺があった。池のある広い境内を見てから寺を出た。少し歩くと有料道路のサービスエリアに着いた。山の中や寺と比べると人が多いが、混雑しているというほどではない。
サービスエリアの北側に展望台があり、そこからも海が見えた。さっき登ってきた山が隣にあるため、西側の展望はきかない。東側と南側は山しか見えなかった。有料道路を進んで山を越えると、そちらにも海が見えるらしい。
展望台のあるところに戻ると、天水と夏川は足湯につかっていて、古泉は靴を脱いでズボンの裾を捲っていた。
「あー、五臓六腑にしみわたるー」
「足からですか」
「うん。驚きの吸収力」
古泉は天水の隣に座った。水上は座っている三人に横から言った。
「飲み物買ってくるけど、何がいい?」
「ホットココア」
「古泉と同じので」
「温かいお茶をお願いします」
「はいよ」
自販機で飲み物を買ってきて、古泉の隣に座った。足湯に入るのは久しぶりだったが、歩いてきた疲れもあり、気持ちよかった。
「結構歩いたな」
缶コーヒーを一口飲んでから古泉に話しかけた。
「そう?」
「あまり疲れてなさそうだな」
「まあ、帰りもあるし」
「考えてなかった」
「頑張れ」
「ある程度はな」
しばらく足湯につかってから、来た道を通って帰ることになった。足はつらかったが、天水のペース配分のおかげでそれほど大変だとは思わなかった。往路よりも距離が短く感じた。
ようやく駅に着いたが、次の電車まで三十分近くあった。ベンチに腰を下ろすと、天水は古泉に寄りかかって眠ってしまった。夏川もすぐに目を閉じた。二人は特急電車が通過しても起きなかった。
「写真、見る?」
古泉は水上に見えるようにカメラの液晶を向けた。
「うん」
水上は頷いて、カメラを受け取った。小さな花や草などの写真が多かった。山道に生えていたものだろうが、彼には気にする余裕はなく、気付かなかった。
カメラのダイヤルを回していくと、頂上で四人で撮った写真が表示された。みんな笑っている。
「ありがとう」
電源を切って、カメラを返した。
「ん」
音が聞こえたので線路を見ると、電車が夕日を受けて近づいてくるところだった。正面のガラスに夕日の光が反射してまぶしかった。
二人を起こした。天水はなかなか起きなかった。
翌週の火曜日、水上は写真部に入部した。部活が終わったあと、四人とも家が同じ方向なので一緒に帰った。
市役所の横にある交差点で天水と夏川は駅の方に曲がり、水上と古泉は道をまっすぐ進んだ。急に会話が少なくなった。
少し歩くと広場の大木が見えた。水上は古泉が植物の写真を撮っていたことを思い出して、
「あれって何の木か知ってるか?」
と大木をさして聞いてみた。彼女は水上が示した方に目を向けた。
「クスノキ」
「えーっと、木偏に『南』だっけ?」
「そう、それ。この市の木だよ」
「そうなのか。知らなかった」




