七
駅前には色褪せた案内板があり、それに描かれているとおりに狭い道を歩いた。黒塗りの壁の古民家がある集落を抜けると、山に挟まれた畑のある道に出た。
登山口には駐車場とトイレがあった。車は二台しか停まっておらず、辺りに人の姿はない。登りはじめたら山頂までトイレはないとのことなので、用を足した。
道が上りになったと思ったら舗装路が途切れ、山道になった。落ち葉の多い道で、岩や木の根がむき出しになっているところもある。低い山なのでたいしたことはないだろうと高を括っていたが、慣れない山道のためすぐに疲れが出てきた。
さらに、前日の雨で山道のところどころに水たまりができ、濡れた岩肌は滑りやすかった。普段運動をしない水上には大変な道だった。夏川も同じようにしんどそうな顔をしているが、女性二人は元気なようだ。天水は先頭を歩いてペースを作りながら、他の三人を気遣って時々振り向いて声をかけた。古泉は道の端にしゃがんで写真を撮るという余裕を見せた。
途中で下りてくる人とすれ違うと、天水が挨拶をして、それに倣って水上も言った。知らない人に挨拶をする機会がほぼ無いのではじめは戸惑ったが、何回かするうちに慣れた。
歩き始めてから四五十分経ったころ、道の脇にベンチがあったので休憩することにした。座ってから山道を見ると、降りそそぐ木漏れ日が模様のようだった。
「こういう、明暗の差が大きいところはデジタルだとうまくうつせない」
ボーッと山道を見ている水上に、古泉が話しかけた。
「フィルムだとちゃんと写るのか?」
「たぶん」
「なら、両方で撮って比べてみよう」
二人は座ったまま、それぞれのカメラで正面の山道を撮影した。
「昔から、この山は信仰対象なんだって」
唐突に古泉が話題を変えた。
「山岳信仰か」
「うん。町の方で亡くなった人はこの山をのぼって、しばらく留まるとされていたんだって」
「なんでこの山なんだ?」
「町の方から見える山の中で、いちばん高いから」
「見えるのか、この山」
「いろんな所から見える。頂上に鉄塔があるからわかりやすい」
「へえ」
山なんて気にすることがなかったから、町の方から見えると言われても思い浮かばなかった。電車でトンネルを通ったから、待ちから見える山の反対側にいるのだと思っていた。
彼女はどうして急にそんな話をしたのだろうか。
「よし、そろそろ行こうか」
腕時計を見て、三人の様子を確認してから天水が言った。
そこから少し進むと、見晴らしのいい場所に出た。狭い範囲だが、木がないため北側の展望がきく。電車で越えてきた川が大きく曲がって海まで伸びているのが見えた。川の東側には隣町が見える。水上の住む町はこの川の西側に広がっていて、ここからは木が邪魔で見えなかった。




