六
フィルムの装填を終えたとき、電車が次の駅に着いた。乗客の多くがこの駅で降りて、八割方うまっていた座席はほとんど空いた。フィルムの交換に気を取られて気にしていなかったが、人が減ると、古泉の隣に座ってることを意識してしまう。かといって距離をとるわけにはいかない、などと考えていると、
「おはようございます」
前に立った男に挨拶をされた。二人とも顔をあげて男を見た。水上の知り合いではないので古泉の知り合いだろう。写真部の部員かもしれない。
「おはよう」
古泉が挨拶を返した。敬語を使われていたのでこの男は後輩だろう。古泉は掌を上に向けて男を指し示し、水上の方を見て、
「夏川」
と言った。続いて、手を水上に向け、夏川を見て、
「水上」
と言った。少し待ったが、その後は何も言わなかった。あまりにも言葉足らずだが、どうやら紹介されたらしい。
古泉の紹介を受けて、水上と同じく夏川も戸惑っているようだ。無理もないと水上は思った。さっきの紹介だけでは会話の糸口がない。これは年長者として何とかしなければ成らない。
「ただいまご紹介にあずかりました、日文二年の水上と申します」
水上は立ち上がって言った。なぜ立ち上がったのかは彼にもわからない。初対面というのはどうも苦手だ、と後になって思った。
「これはご丁寧に。自分は日史一年の夏川です。今日はよろしくお願いします」
冗談で馬鹿丁寧な口調にしたので、返されると困った。二の句が継げないでいると、古泉が助け船を出してくれた。
「とりあえず、座れば」
助け船となったかは微妙だった。たいした会話もなく、電車の中は少し気まずかった。救いといえば、十分もせずに降りる駅に着いたことだろう。
無人駅なので車掌さんに切符を渡して一番前のドアから降りた。風化したホームには目立つ色の服を着た天水が立っていた。
「おはよー。時間前に来るとは非常によろしい」
各々が挨拶を返した。
「水上君、今日はよろしくね」
「こちらこそ」
「それじゃあ、揃ったし、行こうか」
「三人だけなのか?」
水上はいぶかしんで尋ねた。写真部のホームページに書かれていた部員数はもっと多かったはずだ。何人だったかは忘れたが。
「うん。実質は」
「幽霊部員ってやつか」
「そうだね」
天水が困ったように笑って話すのを見て、水上はこの話をやめようと思った。山間にある駅のホームを歩き始めた。
「服とか靴とか、こんなんでよかったのか?」
彼は自分の格好を示して言った。天水の、小柄な体とは不釣り合いな大きいリュックを見て少し不安になった。
「登山ってほどの山じゃないから。五百メートルくらい」
「標高は五百五十五メートル」
後ろを歩く古泉が言った。
「良い数字だね。調節したのかな」
「誰がだよ」
「いざな、み? ぎ?」
「そんな細かいところまで気にしないだろ。富士山クラスならともかく」
「単位の方が後にできてますよ」
夏川も戯れ言に乗ってきた。
「ずれてるなあ」
誰にともなく古泉がつぶやいた。水上も同感だが、話題を変えられたのでこれでいい。




