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 土曜日、水上が最寄りの駅に行くと、ホームに古泉の姿を見つけた。集合場所は登山口近くの駅なので、この駅で会うとは思っていなかった。

 古泉は運動をするような服装で、リュックが足下に置いてある。手元の本に目を向けていて水上には気付いていないようだ。

 話しかけようか迷った。この前の部室では天水がいたし、古泉のバイト先の喫茶店では店長がいるか、話さなくても問題なかった。だが、いま話しかけたら一対一だ。会話を続けられる自信がない。だから、話題を考えてから話しかけることにした。

 どうせ後で会わなければならなくなるからといって、今話しかけないなんてことはしたくない。今日一緒に、同じ場所に行くのだから。

「おはよう」

 古泉の横まで行って挨拶をした。彼女は本から顔をあげた。

「おはよう。水上もこの駅から?」

「ああ。家、この辺なのか」

「うん」

 古泉は栞をはさんで本を閉じた。話題を考えていなかったら、この時点で会話は終わっていただろう。

「その、えーっと、カメラ、を見せてもらっていいか」

 言うことは考えておいたが、言うときになって不自然な気がして、少し詰まってしまった。余計に不自然になった。

 彼女は足下のリュックを開けて本を入れ、代わりにカメラケースを取りだした。茶色い革製のケースだ。それを水上に差し出したので、受け取ろうと手を出したら、古泉は手を引っ込めた。

「水上のも」

 そう言って空いている左手を出した。水上は上着のポケットからコンパクトカメラをだし、古泉のカメラと交換した。白いミラーレス一眼カメラで、本体だけなら水上のものとそう変わらない大きさだ。しかし、本体に対してレンズが大きい。表記を見ると焦点距離60㎜のマクロレンズだとわかった。

 古泉のカメラは大きな傷はないが細かい傷はいくつもあった。傷の多さに比べて汚れやほこりはほぼ無い。しっかり手入れされているようだ。

「店長のと同じだ」

 水上のカメラを示して聞いた。

「シリーズは同じだけど、それの方が古くて安い」

「どう違うの?」

「よくわからんけど、これに機能を追加したのが店長のらしい」

「電源、つけていい?」

「どうぞ」

 古泉はファインダーの横にあるボタンを押した。レンズがせり出して、上部の液晶に『1』と表示された。

「何が、イチ?」

「フィルムの残り。ちょうどいいから使い切って新しいのを入れるか。てきとーになんか撮ってくれ」

 周りを見回してから水上にカメラを向けた。

「はい、ちーず」

「自分のカメラで撮られんの、なんか嫌なんだが」

「仕方ない」

 古泉はしゃがんで、近くに来た鳩にカメラを向け、シャッターを切った。立ち上がると、カメラから「ジー」という長い音がした。フィルムを巻き上げる音だ。

「フィルムの交換はしたことあるか?」

「三十五ミリはないと思う」

「やってみるか」

「うん」

 彼らが乗る予定の電車が来た。

「乗ってからにしよう」

「うん」

 巻き上げ音が終わり、古泉にカメラを返した。電車に乗るときに、意識せずに話せていたことに気付いた。

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